消費者の信頼を得るためには、適切なコミュニケーション戦略が欠かせない。商品やサービスの情報伝達、手続きの案内など、コミュニケーションの形態は多岐にわたるため、それぞれのニーズをよく理解した上で適切なアクションを起こすことが重要である。本稿では、効果的なコミュニケーション体制を構築するためのポイントを紹介する。

効果的なコミュニケーション戦略とは

効果的なコミュニケーション戦略は、企業にとってはブランドアイデンティティを確立するだけでなく、顧客やその他のステークホルダーとの関係を築き、品質と顧客サービスに対する取り組みを示すためにも不可欠です。ビジネス環境のデジタル化が進む今、コミュニケーションとブランディングは大きな変革期を迎えています。そのため、現代のブランドには、商品やサービスの特徴や利点を効果的に伝えながら、進化するトレンドに適応することが求められます。

ガートナーが提案する企業コミュニケーションの枠組み (英語、ガートナー会員限定) からヒントを得て、本記事では、効果的な対外コミュニケーション戦略を検討する際の考慮すべきポイントについて解説します。ここで紹介するステップを参考にしながら、ビジネスインテリジェンス (BI) ソフトウェアなどのデジタルツールを活用することで、エンゲージメント促進やブランド認知度向上にぜひお役立てください。

コミュニケーション戦略が重要な理由は?

企業が顧客やその他の外部関係者向けに、コミュニケーション戦略に注力すべき理由は大きく3つあると考えられます。

  1. 競争の激しいビジネス環境で差別化を図り、ブランド認知度を高めるため
  2. 会社の近況や新製品・新サービスの情報、業界のトレンドなどを伝えることで、顧客やサプライヤーなどと関係を構築・維持するため
  3. タイムリーな情報提供と迅速な問い合わせ対応で、品質と顧客サービスへのコミットメントを示すため

続いて、先述したガートナーの企業コミュニケーションの枠組みを参考に、コミュニケーション戦略の立案と実行の方法を4つのステップに分けて考えていきます。なお、この一連のステップ、すなわち目標設定オーディエンスの特定メッセージの作成・発信効果の評価・改善を継続的な循環として捉え、改善・修正を繰り返すことでその効果を最大化することができます。

コミュニケーション戦略の循環
ガートナー2021Effective Communications: How to Develop a Communications Strategyを参考に作成した「コミュニケーション戦略の循環」(出典)

1. 目標設定

目標を定めることは、コミュニケーション戦略を策定する上で、最も重要な第一ステップです。これは、コミュニケーションの取り組みで何を達成したいかを明確にすることを意味します。目標は具体的で、測定可能で、かつ期限が定められたものでなければなりません。

例えば、ブランドの認知度を高めることが目的であれば、どの程度の向上を目指し、どの期間内で達成するかを具体的に示す必要があります。目標を明確にすることで、コミュニケーション活動の方向性を決めることができるだけでなく、戦略の成果を評価することが可能となります。

目標設定の例としては、以下のようなものがあります。

  • ブランドの知名度向上
  • 顧客との関係強化
  • 新商品や新サービスの展開
  • ウェブサイトへのトラフィック増加

コミュニケーション戦略を策定する際に、次のような質問に答えることにより目標をより明確化することができます。

1. コミュニケーション戦略でどのような成果を目指すか
ブランド認知度の向上、リードの獲得、顧客満足度の向上、業界におけるソートリーダーシップ (主導者) の地位の確立など、最終目標を設定します。

2. コミュニケーション活動の目的は何か
製品やサービスに関する情報提供、ニュースや最新情報の共有、顧客との関係構築、ブランドのアピールなど、個々の活動がどのような役割を果たすかを明確にします。

3. どの指標のどのレベルへ到達したいのか
目的を測定可能な目標に分解し、具体的な数値や期限を設定して、行動計画へと落とし込みます。

2. オーディエンスの特定

あらゆるコミュニケーション活動において、メッセージを伝える相手であるオーディエンスの特性、好み、行動を理解することは重要です。オーディエンスの把握には、年齢、性別、地域、収入などの人口統計情報を調査することができます。また、すでに顧客情報を収集している場合は、そのデータを分析することで、より深い理解が得られます。

ターゲットオーディエンスを特定する方法には下記の3つがあります。

  1. 顧客データの分析 カスタマーデータプラットフォームは、購入履歴、フィードバック、アンケートなどの顧客とのやり取りから得られるデータを分析することで、顧客のニーズや好みについての洞察を得るのに役立ちます。
  2. SNSの分析 自社がソーシャルメディアを活用している場合は、SNS分析ツールなどを利用して、フォロワーの行動や投稿のエンゲージメントを分析し、どのようなコンテンツが最も共感されるかを知ることができます。
  3. 市場調査の実施 より広範な市場や競合他社について知りたい場合は、市場調査を実施すると良いでしょう。市場調査には、アンケート、フォーカスグループ、オンライン分析などが使われます。

また、コミュニケーションの目標やターゲットを定めることは、チャネル選択にも大きく関わります。中小企業専門のWebコンサルタント中山陽平氏は、企業が顧客の視点を考慮せず、自社の都合だけでコミュニケーションチャネルを選択することが多いと指摘し、それは避けるべきだと述べています。

中山氏は、「多くの業界でFAXを使用した商談が現在も多く存在し、特に地方の中小企業ではFAXが利用できないと問題が生じることがある」という例を挙げています。他方で、「効率的に顧客対応を行うためには、文字ベースのチャットやビデオ会議などのコミュニケーションツールが必要である」と語っています。

株式会社ラウンドナップ中山陽平「これからのビジネス展開を考慮してコミュニケーションチャネルを決定することが望ましい」

すなわち、業務に適したコミュニケーションチャネルを選択することで、ビジネスの効率化や信頼関係の構築につながると言えます。

中小企業が利用できるコミュニケーションチャネル

  • ソーシャルメディア 先述のSNS購買行動に関する調査では、オンライン消費者の47%が毎日SNSを利用して企業やブランドに関する情報やニュースを検索していることが明らかになりました。つまり、ソーシャルメディアは幅広い層にリーチするために有効な手段であることを示唆しています。
  • メールマーケティング メールは、製品やサービスの情報発信、コンテンツの共有、顧客へのアプローチや関係構築など、様々な場面で活用できる低コストのチャネルです。
  • コンテンツマーケティング ブログ記事、動画、インフォグラフィックなど、価値のあるコンテンツを提供することで、企業が「エキスパート」としての地位を確立すれば、新規顧客の獲得につながります。 
  • オンラインイベント コロナ禍の影響で、オンラインイベントが定着していますウェビナー、ライブ講演、オンライン展示会などのイベントを主催または参加することで、質の高いリードを集めやすくなります。

3. メッセージの作成・発信

明確かつ魅力的なメッセージを届けることで、ブランドの価値を伝え、他社との差別化を図ることができます。オーディエンスと効果的にエンゲージするためには、メッセージを簡潔にし、ポジティブな点に焦点を当てることが重要です。メッセージ作成には様々な方法がありますが、現在注目されているアプローチの一つには「ストーリーテリング」があります。

ストーリーテリングと「紙一枚」戦略

ストーリーテリングとは、物語を用いて概念や情報を伝える手法で、ビジネスの場ではプロジェクトの主要なポイントを「紙一枚」のプレゼンにまとめて応用されることがよくあります。このアプローチは主に3つの段階に分かれています。

  1. 企業が取り組んでいる価値基準モデル (顧客志向、最適化志向、イノベーション志向など) を特定し、理解する
  2. 特定の視点からストーリーを構築する (当事者視点、製品視点、プロセス視点)
  3. 物語を用いてストーリーをまとめ、戦略計画を1枚のスライドに要約する

企業のストーリーを1枚のスライドに要約することで、プロジェクトの明確な方向性と道筋を見極めることができます。

コンテンツプラン

コミュニケーション戦略にコンテンツ制作を取り入れる際には、綿密なコンテンツプランが重要になります。それには以下のステップがあります。

  1. トピックの選定 目標とオーディエンスに合わせたテーマを選ぶ。
  2. フォーマットの決定 ブログ記事、動画、SNS投稿など、コンテンツの形式を検討して決定する。
  3. コンテンツカレンダーの作成 コンテンツの内容、日程、チャネルを記録する。柔軟性のあるコンテンツ管理システム(CMS) を使えば、大いに役立つでしょう。 
  4. 制作プロセスの設定 制作プロジェクトの責任者、締め切り、作業内訳 (編集、校閲等) を設定し、プロセスを明確にする。

4. 効果の評価・改善

コミュニケーション戦略の効果を評価することで、目標の達成度を確認することができます。そのために、定性的および定量的なKPIを用いて、コミュニケーションチャネルのパフォーマンスを測定します。

  • 定量的 KPI ウェブサイトのトラフィック (戦略の実施前後を比較)、ソーシャルメディアでのエンゲージメント (「いいね」やシェアなどの数)、コンバージョン率 (訪問者のうち、フォームへの入力や購入などの行動をとった人の割合) など、測定可能な指標です。
  • 定性的 KPI 様々なチャネル (自社サイト、外部のレビューサイト、SNS) で収集したユーザーレビューカスタマーサービスの評価ソーシャルリスニングなどを通じて、オーディエンスの意見をモニタリングすることです。

こうして得られた知見は、プロセス全体の調整や改善に活かすことができます。そうすることで、企業は一貫してコミュニケーション戦略を強化し、目標達成へとつなげていきます。

おわりに

この記事では、コミュニケーション戦略を策定するための基本的なステップや方法を紹介し、目標やターゲット、伝えたいメッセージを明確にする重要性を確認しました。それを成功に導くためには、体系的かつ計画的なアプローチが有効であることがお分かりいただけたかと思います。自社のコミュニケーション活動の構築や改善に役立つことを願っています。

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