キャプテラの「スマートフォン向けアプリやスーパーアプリの利用に関するアンケート調査」の結果報告第2弾。この記事では、一つのアプリで複数のサービスを提供する、いわゆる「スーパーアプリ」の利用実態と、企業が活用するにあたってのメリットや注意点などを紹介する。

スーパーアプリの利用実態と展望

前回の記事では、モバイルアプリの普及率や、アプリの種類による利用頻度の違いなどについて解説しました。そこでは、定期的なアップデートや高度なユーザーエクスペリエンス (UX) が求められる「日常利用アプリ」を紹介しましたが、その中でも特に注目度が増しているのは「スーパーアプリ」です。スーパーアプリとは、メッセージング機能や決済サービスのほか、配車サービス、ゲーム、レストランやチケットの予約など、多くの機能を一つのアプリケーションに集約したもので、特にアジア地域で高い人気を誇っています。その代表例として、中国の「WeChat (微信)」は、2022年時点で12億5,000万人の月間アクティブユーザーを有しています。

小規模ビジネスにとっては、スーパーアプリは多くのユーザーに接触し、一箇所で様々なサービスを提供できる手段となります。また、スーパーアプリ内で起動する「ミニアプリ」を開発することにより、プラットフォームの既存のインフラとユーザーベースを活用して、ブランドの認知度を高めたり、顧客とのエンゲージメントを深める効果を期待できます。このように、スーパーアプリはITビジネスの新たなフロンティアと考えられます。

本記事では、アンケート調査の結果を紐解きながら、日本におけるスーパーアプリの利用状況、他国での展開可能性、そしてユーザーが最も重視するスーパーアプリの要素について掘り下げます。今後のモバイル戦略を考える際にお役立ていただけると幸いです。この調査は、モバイル向けアプリケーションの日常的な利用者を対象に実施し、1,009人から有効回答を得ました。詳細については文末をご覧ください。

スーパーアプリの認知と実際の利用のギャップ

前述の中国発メッセージングアプリWeChatが、フードデリバリーやチケット購入、ニュースなどの付加サービスを次々と提供し、決済システムも統合したことで、他のアプリを開く必要がなくなったことから、2015年頃に「スーパーアプリ」という言葉がデジタル界で一挙に話題になりました。しかし、日本の場合、認知度と利用実態に大きな乖離があることが本調査データから明らかになりました。質問票の中で「スーパーアプリ」の定義を示した上で、その意味を以前から知っていたかどうか尋ねた結果、71%が「知らなかった」と回答しました。しかし、現在LineやPaypayのようなスーパーアプリを使用しているかどうかについては、「使用している」と答えた人が80%と圧倒的多数を占めており、18~25歳の若年層ではさらに90%まで上昇しています。このギャップは、スーパーアプリが初めは「ネイティブアプリ」(単体アプリ) として登場し、徐々に大規模なプラットフォームへと進化したことが原因と考えられます。現に読者の中には、LINEをただのメッセージングアプリとして、またはPayPayを単なる決済アプリとして認識し、自身がスーパーアプリを日々利用している実感がないという方も多いかもしれません。

スーパーアプリの概念の認知度にかかわらず、その高い利用率は企業にとって大きな魅力でしょう。例えば、プラットフォームでミニアプリを提供することができれば (下のボックスを参照)、大規模なマーケティング活動をすることなく幅広いユーザー層にリーチすることが可能になります。また、スーパーアプリのエコシステムに加わることで、すでに積み上げられてきた人気と信頼に相乗りすることができます。ネイティブアプリのブランディングやユーザー獲得に多額の投資をする代わりに、スーパーアプリに組み込まれる高品質なミニアプリの開発に注力できるメリットがあります。

スーパーアプリとは?その定義と特徴

【定義】

スーパーアプリとは、様々なサービスや機能を統合したモバイルアプリケーションのことを指します。複数の機能やサービスを一つのアプリ内で提供することで、ユーザーが複数の個別アプリをダウンロードして管理する手間を省くことができます。

【機能】

スーパーアプリは、SNSからショッピング、デリバリー、決済まで、多岐にわたるサービスを提供します。利用者の利便性と効率性を考えて作られているので、日々の生活に必要なことをこの一つのアプリで行えます。また、サービスを一本化するだけでなく、銀行や金融機関など、様々なビジネスパートナーとの戦略的な連携も、スーパーアプリの大きな特徴の一つです。

【日本におけるスーパーアプリ】

日本では、LINEやPayPayがスーパーアプリの代表例として挙げられますが、Au Pay、楽天ペイ、など、「プラットフォーム化」に取り組んでいるアプリは他にもあります。一方、訪日・在日中国人を対象に、中国語圏の主要なスーパーアプリ (WeChatやAlipay) の決済システムは日本国内の数十万店舗で利用可能であり、また、Grabのように日本人観光客を意識してサービスの一部を日本語などで提供しているプラットフォームも存在します。

【ミニアプリを通じたサービスの提供】

企業にとって、スーパーアプリの魅力の一つは、そのプラットフォーム内で動作するミニアプリを通じてサービスを提供できる点です。ネイティブアプリと比べて、ミニアプリの開発は手軽で、コストも抑えられるという利点があります。また、すでに大規模なユーザーベースが形成されているということも注目すべきです。ユーザーが複数のアプリを切り替える手間を省くことができるため、UXと顧客満足度の向上にもつながります。

世界的なスーパーアプリへの関心の高まり:新たなフロンティアとしての可能性

スーパーアプリは、特定の市場を超えて全世界的な注目を集めています。そのため、キャプテラではこの調査を日本だけでなく、スーパーアプリがまだ広く認知されていないオーストラリア、フランス、ドイツなどの市場でも実施することにしました。これらの地域では、スーパーアプリを知らない (または十分に理解していない) 回答者の過半数が、スーパーアプリの利用に対して興味を示していました (豪62%、仏52%、独51%)。これは、スーパーアプリがモバイルユーザーの関心を引きつける力を持っていることを示しており、その世界的な潜在力を浮き彫りにしています。

スーパーアプリに対する関心の理由を尋ねたところ、利便性や時間効率性が主な理由として挙げられました。つまり、一つのアプリ内で様々な機能やサービスを利用することができ、複数のアプリを切り替える必要がなくなるところが特に評価されています。

スーパーアプリへの関心の高まり (国際比較)

スーパーアプリがまだ広く普及していない地域については、今後の動向に注目すべきだと考えられます。実際、ヨーロッパではすでにスーパーアプリを目指しているアプリケーションがいくつか誕生おり (英語サイト)、これらの動きは新たなビジネスチャンスの可能性を示唆しています。したがって、特に日本でのスーパーアプリ開発の経験がある場合には、その経験を活かして新しい市場に適応したサービス開発を検討することも一考に値するでしょう。また、スーパーアプリへの関心が利便性と時間効率性に基づいていることを念頭に置き、使いやすさとユーザー体験に配慮したサービス提供の設計が重要となります。

ミニアプリ開発における考慮事項

ミニアプリの目指すべき目標は、ユーザビリティ、セキュリティ、継続的な改良に焦点を当て、スーパーアプリ環境内のユーザー体験を向上させることです。以下に開発者が考慮すべき基本的なポイントを挙げます。

  • スーパーアプリのエコシステムを理解する  開発プロセスに着手する前に、スーパーアプリプラットフォームの詳細なポリシーを把握しておきましょう。LINEPaypayは、ミニアプリ開発に関する独自のルールと条件を設けています。
  • UXを優先する 直感的で使いやすいミニアプリを目指しましょう。シームレスなユーザー体験は、継続的な利用とエンゲージメントにつながります。
  • 強固なセキュリティを確保する スーパーアプリには独自のセキュリティ対策が施されていますが、ミニアプリの開発者としては、特にクレジットカードや銀行口座情報などの機密情報を扱う際には、さらなる安全策を導入することが重要です。適切なサイバーセキュリティIT管理のツールを使用して、自社システムにおける脆弱性の特定やサイバー攻撃への対策を徹底しましょう。
  • 定期的にアップデートする  継続的なアップデートは、セキュリティを強化するだけでなく、ミニアプリの機能性を向上させ、ユーザーに長く使い続けてもらうために重要です。
  • スーパーアプリの機能を活用する スーパーアプリは幅広い機能とサービスを提供しており、これらをミニアプリと連携することで、決済システムなどの機能を最大限に活用することが可能となります。新機能については常時アンテナを張って、自社ミニアプリでの活用を検討しましょう。

スーパーアプリで重視される側面は「利用可能なサービス」、「プライバシーとセキュリティ」

ここからは再び日本に焦点を当て、スーパーアプリを利用していると回答したユーザーの利用パターンを見ていきましょう。

調査結果によると、ユーザーの70%がスーパーアプリを日常的に利用しており、多くの人々にとってデジタル生活の不可欠な一部となっていることが確認されました。そこで、「スーパーアプリ内で利用しているサービス」について質問したところ、上位5つの回答は以下の通りでした。

  • SNSソーシャルメディア 54%
  • 電子決済 52%
  • メッセージング 46%
  • ショッピング 33%
  • ニュースと情報 27%

多様なサービスが利用されているこの現状は、「スーパーアプリを使用するときの最も重要な要素」についての回答結果と一致しています。回答者の57%は、スーパーアプリを使う上で「利用可能なサービス」が最も重要な要素であると答えています。次いで、「プライバシーとセキュリティ」(52%) と「利便性」(50%) が重要視されています。

これらの結果から分かることは、スーパーアプリのユーザーたちは、チャットからショッピングまで様々なサービスを一つのアプリで利用できるという利便性を高く評価していることです。しかし、それと引き換えにプライバシーやセキュリティを犠牲にすることには慎重な態度を示しているようです。スーパーアプリの運営側にとっては、強固なプライバシーを維持しながら、様々なサービスを統合することが最優先事項であり、プラットフォームに参加する企業もそのようなポリシーに合わせることが求められます。

スーパーアプリの利点と欠点

サービス提供者から見れば、スーパーアプリは開発コストの削減や他サービスとの連携など多くの利点がある一方、ミニアプリの機能が限定的であったり、スーパーアプリのポリシーに依存するなどのマイナス面もあります。しかし、ユーザーが感じるスーパーアプリの長所と短所は何でしょうか?

スーパーアプリのメリットとして、日本のユーザーは「様々なサービスが統合されている」(53%)、「スマートフォンにインストールするアプリが少なくなる」(43%)、「スーパーアプリの運営会社が信頼できる」(34%) ことなどを挙げています。一方、「すべてが一元的に管理される」(41%)、「運営会社に余りにも多くの個人情報が提供される」(40%)、「スマホの容量を多く使ってしまう」(37%) ことなどが懸念点となっています。

エンドユーザーから見たスーパーアプリのメリット・デメリット 

スーパーアプリは、様々なサービスが互いに連携し、一つの場で動くエコシステムです。このエコシステムを最大限に活用してミニアプリを開発すれば、ユーザー体験を豊かにし、特色と価値のあるサービスも作り出せます。サービスの種類は、市場のニーズに合わせた特別なものから、既存のサービスを補うものまで、可能性は多岐に渡ります。ただし、革新や利便性を追求する中で、ユーザーの信頼を得ることが基本です。これまで何度も強調してきたように、セキュリティの側面を見落としてはならないことを念頭に置き、信頼性の高いサービスを提供することが大事です。

まとめ

デジタル化が進む現代では、スーパーアプリの需要が増えてきていて、これはユーザーやサービス提供者にとって多くのメリットをもたらしています。スーパーアプリの多様な機能と便利さは、消費者の多忙な生活スタイルにぴったりと合っていると言えるでしょう。

欧米ではまだスーパーアプリの導入が進んでいないため、取り組みと時間が必要ですが、将来的には大いに期待できます。一方、日本では、スーパーアプリの市場はすでに成熟しています。プライバシーへの配慮と幅広いサービスにより、利用者は安心してその便利さを享受できます。ビジネスにとっても、ユーザーベースをうまく活用し、重要な課題に対応する環境が整っています。これから先、スーパーアプリのさらなる進化においては、便利さ、多様性、セキュリティをうまくバランスさせることがより重要になってくるでしょう。

電子決算のSaaSやソフトウェアをお探しでしたら、キャプテラの決済システムのリストをぜひご覧ください。


本記事は、当社が実施した「スマートフォン向けアプリやスーパーアプリの利用に関するアンケート調査」の結果をまとめたものです。調査期間は2023年6月1日〜27日、全国のアプリユーザーに対してオンラインで実施しました。有効回答数は1,009人でした。以下の条件に合致する方を対象としました。

  • 日本在住者であること
  • 18歳以上、66歳未満であること
  • モバイル向けアプリケーションを日常的に (週に複数回以上) 利用する「アプリユーザー」であること

日本の人口構成を反映するようサンプリングされています。なお、本文で言及されている国際調査も同時期に実施し、次の有効回答数を得ました:オーストラリア (1,026人)、フランス (1,001人)、ドイツ (1,019人)。


注:本記事で紹介された製品は、各機能の例として取り上げられており、勧誘・推奨を意図したものではありません。掲載されている情報は、掲載時に信頼できると判断された情報源から入手されたものです。