「DX世代別意識調査」の第2弾では、職場におけるデジタルツールの浸透状況やそれに伴う訓練ニーズなどに光を当てます。各世代の意識を分析することにより、デジタルネイティブであっても必ずしもテクノロジに積極的に関わるとは限らないことが明らかになりました。

職場におけるデジタルツールの浸透状況

デジタルトランスフォーメーション (DX) への取り組みが広がる現在、既存ビジネスの改善や新規事業の創出など、様々な場面でデジタル化が進展しています。この背景を受け、キャプテラは業務で使用されるデジタルツールに関する調査を実施し、2回にわたってその結果をお届けしています。前回の報告記事では、デジタルツールがもたらす効率性や生産性の向上、ペーパーレス化などのメリットの一方で、従業員間での使用における格差や習得の難易度などの課題も明らかにしました。

今回の第2弾では、テレワークの普及によって重要性が増すビデオ会議ソフトをはじめとする業務用のSaaS・アプリケーションに着目し、世代間での意識の違いをさらに掘り下げます。具体的には、業務におけるDXの現状をテクノロジへの関心デジタルツールに関する研修希望、そして従業員が求めるサポートという観点から分析していきます。このアンケート調査は、日常的にパソコンを使用する会社員を対象に行われたもので、1,027人から有効な回答を得ました (調査実施方法の詳細は文末に記載されています)。

本調査における世代別区分

本調査では、業務用デジタルツールに対する世代間の意識の違いを探る目的で、参加者を以下の4つの世代に分類されています。

しらけ世代・バブル世代 (1950年〜1969年生まれ) 全参加者の30%。デジタル技術の浸透前に成人期を迎えた世代。

団塊ジュニア・ポスト団塊ジュニア世代 (1970年〜1982年生まれ) 全参加者の32%。デジタル化の波に乗り、その橋渡し役を担った世代。

ミレニアル世代 (1983年〜1995年生まれ) 全参加者の25%。デジタル技術とともに育ち、その利用に精通している世代。

Z世代 (1995年以降生まれ) 全参加者の13%。デジタル環境の中で生まれ育ち、真のデジタルネイティブとされる世代。

世代を超えたテクノロジへの関心

業務のデジタル化を進める上で、しばしば見落とされがちなのは社員の関心度です。しかし、社員の支持が得られなければ、ツールの活用は進まず、結果的にリソースと時間の無駄になる恐れがあります。つまり、従業員が新しいツールやシステムにどれだけ関心を示し、積極的に取り入れようとするかは、ソフトウェア導入の成否に大きく関わる要因なのです。

この点を明らかにするため、職場で新しいテクノロジを使用することに対してどの程度関心があるかを尋ねました。結果として、「ある程度関心がある」と「非常に関心がある」を合わせた割合が58%に達し、半数以上が新しいテクノロジに関心を持っていることが明らかになりました。一方で、「全く関心がない」と「あまり関心がない」の割合は42%でした。

なお、若い世代ほど新しいテクノロジに対する関心が高いだろうと考えがちですが、意外にも各世代で関心度がほぼ均一であることが分かりました。すなわち、「デジタルネイティブ」であることが、必ずしもテクノロジ使用への積極性に直結しないことを示唆する結果と言えます。

職場での新テクノロジ導入に対する関心度 (世代別)

それでは、別の角度から差異要因を探りましょう。勤務形態ごとのテクノロジへの関心度を見てみると、ハイブリッド勤務の従業員が72%と最も関心が高く、完全リモートワークは64%、完全出社は53%と続きます。ハイブリッド勤務者にとって、テクノロジの効果的な活用は業務遂行に不可欠であるため、この結果は納得できるものでしょう。ただし、他の勤務形態の従業員においては関心が低いわけではないことから、チームの分散化や取引のペーパーレス化など、様々な業務のデジタル化が進む中、デジタルツールへの関心は今後も全体的に高まると予想されます。

職場での新テクノロジ導入に対する関心度 (勤務形態別)
テクノロジへの関心度の国際比較

社会的および文化的背景も、業務用テクノロジへの関心度に何かしら影響を与えているようです。今回の調査が実施された他国 (オーストラリア、ブラジル、スペイン、ドイツ、メキシコ) では、日本と比較してテクノロジへの関心度が格段に高く、特にスペインとメキシコでは関心度が9割を超えることが特筆すべきです。今後、日本においても社員のDX意識向上に期待したいところです。

【日本】
関心がない: 42%
関心がある: 58%

【オーストラリア】
関心がない: 15%
関心がある: 85%

【ブラジル】
関心がない: 2%
関心がある: 98%

【スペイン】
関心がない: 7%
関心がある: 93%

【ドイツ】
関心がない: 27%
関心がある: 73%

【メキシコ】
関心がない: 3%
関心がある: 97%

デジタルツールに関する社内研修:社員の7割が「受けていない」

新しいツールへの関心は、従業員がそのツールを理解し、使いこなせるかどうかに大きく左右されますが、そこで重要になってくるのが社内教育です。本節では、従業員が企業からどのような教育サポートを受けているか、または受けたいと考えているかに焦点を当て、現状と従業員のニーズを探ります。

まずは、ビジネス向けデジタルツールの習得に関して企業からのサポート状況について質問しました。結果にはばらつきがあり、何らかの研修を受けていると回答した人と、研修を受けたことがないが受けたいと考えている人はそれぞれ3割程度でした。残りの4割は、研修を受けたこともなく、必要とも思っていないと答えました。

デジタルツールに関する研修受講の有無

この結果で特に注目すべきは、従業員の大多数 (70%) が現在の職場でデジタルツールのトレーニングを受けていないという事実です。本調査における他国では6割以上の従業員がトレーニング経験があることと比較すると、日本の企業は明らかに改善の余地があると言えます。企業の競争力を高めるためには、人材のデジタルスキル向上にも注力する必要があるでしょう。

AIツール、表計算ソフト、ビデオ会議ツールへの高い研修要望

続いて、社内でデジタルツールに関する教育強化を望む回答者 (470名) に対して、具体的にどのようなビジネス向けデジタルツールのトレーニングを受けたいかを尋ねました (複数回答可)。その結果、以下の5つが最も多く挙げられました。

  • AIツール 36%
  • 表計算ソフト 34%
  • ビデオ会議ツール 28%
  • プレゼンテーションツール 28%
  • コミュニケーションソフト 27%

下図は回答結果を世代別にまとめたものです。

従業員が最も研修を受けたい分野

AIツール AIツールに関する教育強化を求める声は、特にシニア世代とミレニアル世代の間で強いです。これは、ビジネスの幅広い分野でAI利用が進んでいる現状を反映していることでしょう。ガートナーによると、2026年には80%以上の企業が生成AIに対応したアプリケーションを本稼働環境に展開する見込みで、組織や業務プロセス、そして従業員の役割やスキルの見直しが必要になっています。具体的な活用例としては、AIチャットボットを利用した24時間対応のカスタマーサービス、消費者行動の分析に基づくマーケティングキャンペーンの効率化、品質管理の向上、サプライチェーンの効率化などが挙げられます。

表計算ソフト ミレニアル世代を中心に、表計算ソフトに対する教育ニーズが高いことも分かりました。データ分析、予算管理、報告書作成など、ビジネスにおける基本的な作業を効率的に行うための重要なツールであるため、このような基礎技能の習得が強く希望されていると考えられます。

ビデオ会議ツール リモートワークやハイブリッドワークの普及に伴い、ビデオ会議ツールのスキルは全世代にわたって重要視されているようです。遠隔地とのコミュニケーションが一般化した今日のビジネス環境では、オンラインでのミーティング運営能力がますます不可欠なものとなっています。

プレゼンテーションツール 効果的なプレゼンテーション能力は、全世代に共通する重要なスキルです。職場での情報共有やアイデアの提示において、プレゼンテーションツールの適切な使用が求められており、その教育訓練へのニーズが高いです。これは、表計算ソフトと同様に、基本的ながらも極めて重要な技能として認識されています。

コミュニケーションソフト リモートワークに限らず、コミュニケーションソフトの効果的な使用が重要になってきています。複数拠点がある場合はもとより、同じオフィス内でも効率的にコラボレーションを実現するには、このようなツールの活用がとても有効です。

従業員の明確なニーズに応えて、新しいデジタルツールを最大限に活用できるような教育プログラムを提供することが重要です。そのために、従業員満足度調査 (ES調査) などの実態把握を通じて、スタッフから率直なフィードバックを収集すると良いでしょう。各世代の特性や志向に合わせたトレーニングプログラムを展開することにより、従業員一人ひとりが自身のスキルを最大限に発揮し、全社的なDX推進の加速にもつながります。

最もデジタルに向いている業務は?社内コミュニケーション、業績評価

SaaSやソフトウェアの導入には様々なメリットがありますが、業務によっては向き・不向きがあります。従業員がどの業務をデジタルで効果的に行えると考えているかを把握することは、テクノロジ導入の際の大切な判断材料となるので、この点について質問しました。

その結果、タスク管理、業績評価、社内コミュニケーションといった業務ではデジタル手段の使用が好まれる傾向が見られました。この傾向は、現代ビジネスにおけるコラボレーション促進や業務効率化の重要性が広く認識されていることを示しています。

従業員から見たデジタル化に最も適した業務

シニア世代は社内コミュニケーションのデジタル化に積極的であり、「デジタルな手段」と「両方の組み合わせ」を合わせて71%にのぼります。また、社内打ち合わせでも、特にシニア層がデジタル手段を好む傾向があり、リモート参加などの利便性が重視されていると考えられます。

タスク管理に関しては、全世代がデジタルな手段を支持しており、デジタルツールが現代の職場における日常業務を効率的に管理する上で欠かせないものであることを物語っています。

研修とトレーニングの領域では、デジタル化への傾向は強いものの、Z世代には非デジタルな手段を選ぶ人も一定数います。これは、デジタルプラットフォームでは再現しきれない対面でのやり取りや、実践的な体験を求める願望に起因する可能性があります。

業績評価では、デジタルな手段は特に若い世代の間で人気がありますが、他の層では「この業務は行わない」との回答が3割以上と高い割合を占めています。

以上のことから明らかなように、デジタルが適している業務もあれば、対面でのやり取りが必要な業務もあります。例えば、1対1のミーティングやチームでの共同作業は対面で行う方が良いかもしれませんが、タスク管理や定期的な進捗報告などはデジタルで行うことができます。個々の環境や条件に応じて、従業員の意見を取り入れながらデジタルとアナログのバランスをうまく取ることが求められます。

まとめ

現代の職場でのデジタル化は、業務効率の向上だけでなく、従業員の働き方やコミュニケーションスタイルに革新をもたらしています。この記事を通じて、デジタルツールに対する従業員の関心や情報入手方法、社内教育に対する要望、そしてデジタル化が進んでいる業務領域について、世代間の違いに焦点を当てて掘り下げてきました。明らかになった主な点は下記の通りです。

  • テクノロジに対する興味は全世代にわたって高く、デジタルネイティブであることは必ずしも高いテクノロジ活用への積極性を意味しない
  • AIツール、表計算ソフト、ビデオ会議ツールに関する研修希望が高く、これらのスキル向上が求められている
  • 従業員によると、最もデジタル化に向いている業務はタスク管理、業績評価、社内コミュニケーション

デジタルトランスフォーメーションを成功させるためには、従業員一人ひとりの積極的な関与が不可欠です。各世代の傾向やニーズを理解し、それに基づいたアプローチを取ることが、全社的なDX推進の鍵となるでしょう。

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Methodology

本記事シリーズは、キャプテラが行った「世代別のDX意識調査」の結果をまとめたものです。調査は2023年8月にオンラインで実施され、全国の企業に勤める従業員1,027名から有効回答を得ました。以下の条件を満たす方を対象としました。

  • 日本在住者であること
  • 18歳以上、66歳未満であること 
  • 従業員数2名以上の企業に勤めていること (正規・非正規問わず)
  • 仕事で日常的にパソコンを使用していること

なお、本文で言及されている国際調査も同時期に実施し、次の有効回答数を得ました:オーストラリア (1,029人)、ブラジル (1,024人)、スペイン (987人)、ドイツ (991人)、メキシコ (1,009人)。