人工知能 (AI) は、膨大の数のプロジェクトに取り入れられており、新しい生活様式、働き方、そして遊び方を作り出しています。本稿では、AIを脅威とするのではなく、プロジェクトマネージャーがAIとどのように共存し活用できるかを説明します。

ガートナーによると、AIは組織の意思決定プロセスを自動化および補強することにより、人間との相乗効果を発揮し、迅速かつ正確な意思決定を可能にすることを示しています。また、意思決定プロセスが複雑化する場合でも、優れた競争優位をもたらす意思決定を迅速に行うことができるとしています。
プロジェクト計画の立案、プロジェクトに関わる人材の適材適所の配置、プロジェクトの完了までの監督業務を実施するプロジェクトデリバリーやプロジェクト管理の分野において、AIは実際にどのような影響を与えているのでしょうか?
ガートナーの以前の調査では、2030年までにプロジェクト管理業務の80%をAIが担うようになり、人による作業は不要になる (英語) と予測されています。
つまり、あなたがプロジェクトリーダーであれば、今やっている作業の80%が、遅くとも7年後にはなくなっていることになります。
プロジェクトマネージャーへの大切な問いかけ
AIによってプロジェクト管理業務に大きな変化がもたらされる今、「AIはプロジェクトマネージャーにとって助けになるのか、それとも脅威になるのか?」という問いが突きつけられています。
この問いに答えるために、世界トップクラスのPMO (プロジェクトマネジメントオフィス) を手がけてきたPeter Taylor氏が、調査の一環として世界各国のプロジェクトマネージャーにインタビューしたところ、AIと職種としてのプロジェクト管理に関する考え方には矛盾が存在していることを見つけました。
この矛盾とは、「プロジェクト管理とは、目標を定義し、その目標のために人を率いていくことであるが、AIは、予見できる未来に向けて人を率いていくことはできない」という相反する考え方です。
プロジェクト管理におけるAIの進化には、プロジェクトマネージャーにとってマイナスとなる部分もあるかもしれません。しかし、プロジェクトの担当者がポートフォリオ、プログラム、プロジェクトの進行を管理、制御、監視、評価、報告する手動の作業を軽減する自動化のプロセスは歓迎すべきです。
また、Taylor氏は、プロジェクト管理という職業の将来についてさらなる知見を得るために「AIはプロジェクトマネージャーの仕事を奪うのか」という問いでアンケートを行いました。

3%の回答者は、AIは最終的にプロジェクトマネージャーの必要性と役割を完全に取り除くだろうと考えていますが、78%の回答者は、プロジェクトマネージャーとプロジェクト管理業務には未来があり、AIを味方につけて最適な活用方法を模索すべきであると感じています。
AIの実用化とその利点
これらのどの視点もある程度は正しいかもしれません。しかし実際に、特殊なプロジェクトを担当しているプロジェクトマネージャーに、AIは今後どのような影響を与えるのでしょうか?
AIがもたらす機会をプロジェクトに貢献できるものにするためには何をすべきなのでしょうか?
また、プロジェクトマネージャーは、プロジェクト管理という職種が今後変化することにどのように備え、自動化を導入することで手作業や時間のかかる作業を軽減するために、どのような対応を実践できるのでしょうか?
AIがさまざまな目的に役立つことは明らかですが、適切な方法でAIを活用し、多忙なプロジェクトマネージャーを最適な形で支援できるようにすることが求められています。
プロジェクトリーダーには、チームの士気を高め、協調的な環境を作り出して生産性を高めるために、コミュニケーション能力や交渉力、そして最近広く重視されるようになってきた感情的知性が求められています。
プロジェクトマネージャーは、プロジェクト管理の機械的なほぼ全ての業務をAIシステムに任せ、このようなデジタル環境でのパートナーシップを通じて、プロジェクトリーダーのスキルをさらに高めることができます。
プロジェクト管理でAIを活用する価値とは?
この質問に回答するために、人工知能 (AI) を構成する要素をもう少し詳しく理解しておきましょう。
プロジェクト管理におけるAIの活用には次の4つカテゴリがあります。
- プロジェクト管理プロセスの自動化
- プロジェクト支援のためのチャットボット
- 機械学習を通じたプロジェクトインテリジェンスの獲得
- 自律型プロジェクトマネージャー
プロセスの自動化
これは、ビジネスプロセスオートメーション (BPA) とも呼ばれ、ワークフローを定義して、ツール、人材、プロセスを調整および統合する機能です。
この機能は、人によるミスを減らし、課題への迅速な対応と優れた意思決定を可能にし、効率的なリソース配分によって、全体的な効率性を高めることを目的としています。また、利用できる最大限のデータを活かしながら、ポートフォリオ全体の効率化を図り、優れた知見と均整の取れたアウトプットを実現します。
例えば、ロジックやルールをプログラム化して自動的なスケジュールを可能にしたり、プロジェクトメンバーが実行したタスクの進捗やステータスを自動的に追跡し、例外的な状況が発生した場合にのみプロジェクトマネージャーにアラートを送って介入させたりできます。
チャットボット
チャットボットは、人のエージェントと直接対話する代わりに、テキストまたは音声合成によってオンラインチャットで会話するソフトウェアです。会話を自動化し、メッセージングプラットフォームでユーザーと交流できます。
チャットボットテクノロジーは、Google NowやAppleのSiri、MicrosoftのCortanaなどのバーチャルアシスタントが使用する音声認識システムが採用しているのと同じ自然言語処理 (NLP) を基盤としています。
このようなテクノロジーを使用して人とやり取りするチャットボットは誰もが使ったことがあるでしょう。特にサービスや製品に何か問題があったときに対応するために、カスタマーサポートでチャットボットは多く利用されています。
プロジェクト管理におけるチャットボットは、プロジェクトアシスタントとして機能するようになると予測されています。つまり、音声またはテキスト認識に基づいて、プロジェクトマネージャーとヒューマンコンピュータインタラクション (HCI) によって対話して、会議の開催、進捗管理の追跡、チームへのリマインダーなどの雑務を担当するようになります。
機械学習
プロジェクトマネージャーは、機械学習によって、予測分析を行うことが可能になります。プロジェクトが最高の結果をもたらすことができるように、AIは特定のパラメータを基準としてプロジェクトを進める方法や、問題やリスクに対応する方法についてアドバイスできます。
機械学習には、以下の4つの学習要素があります。
- 教師あり学習 - データに正解のラベルを付けて、各データセットと正解を関連付けるようにアルゴリズムを学習させていく方法です。例えば、X線画像を学習させて診断に活用することができます。
- 教師なし学習 - データに正解ラベルを付けない状態でAIアルゴリズムに学習させる方法です。例えば、進化生物学を分析するためにDNAパターンをクラスタリングすることができます。
- 強化学習 - 試行錯誤を経てアルゴリズムを学習させる方法です。例えば、Deepmindが使用するAIエージェントは、Googleデータセンターの冷却に使用されており、5分ごとにデータのスナップショットを取り、ディープニューラルネットワークに送り、さまざまな組み合わせが将来的なエネルギー消費にどのように影響するかを予測しています。
- ルールベース型の学習 - データセットに関するすべての知識を表すルールセットをキャプチャする方法です。例えば、症状をグループ化して、医師が正しく診断するのを支援する医療専用のAIシステムなどがあります。
自律型プロジェクトマネージャー
これは、自動運転車や自律走行車の例を思い浮かべると分かりやすいかもしれません。自律型プロジェクトマネージャーシステムは、経験豊富なプロジェクトマネージャーから必要なインプットを取り込んで蓄積していきます。さまざまなAIテクノロジー、学習用プログラム、過去のプロジェクトデータと対比したリアルタイムのデータ入力機能を適用することで、自律的なプロジェクト管理が可能になると予測されています。
完全に自律型のプロジェクト管理の実例はまだありませんので、危機感を持つ必要はありません。
プロジェクトマネージャーへの大切な問いかけ
AIとプロジェクト管理の関係が今後変わっていく中で、次の問いかけへの答えを見つけなければならなくなっています。
- 「近い将来、プロジェクトマネージャーの業務はどうように変わっていくのか?」
- 「プロジェクト管理に関連する業務の80%をAIが処理するようになる時代に、プロジェクトマネージャーは解放された時間をどのように活用するのか?」
これらの質問に回答するときの前提となるのは、「プロジェクトを実現するのは人である」ということです。
「新しいAI時代」におけるプロジェクトマネージャー像とは?
- AIがもたらす知見と予測能力の全てを駆使し、多様な人材を率いて管理することに、日々の業務を向ける。
- AIのインテリジェンスを応用することで80%もの労力を削減されることが予測されています。プロジェクトマネージャーは多くの作業時間を解放でき、その時間を人材やチームの複雑な問題に振り向けることができるようになる。
- プロジェクトで飛躍的な成功を収めるために次にすべきことは、メンバーがどこにいても、共通の目的を持った一つの強力なプロジェクトチームを作り上げてリードしていくこと。
Taylor氏は、プロジェクトチームのパフォーマンス管理には改善できる要素が多くあると指摘しています。プロジェクトは人が行うものであり、人 (チーム) がプロジェクトを成功に導くということを理解して、プロジェクトチームメンバー間の連携を強化することが重要です。
今、「人工知能はプロジェクトマネージャーにとっての敵か味方か?」という問いに答えるのであれば、正しい方法でAIを活用すれば、「味方」となると回答できます。プロジェクトマネージャーは、AIシステムをうまく活用してこの変化に備えることが求められています。