AIの活用はプロジェクト管理の現場を大きく変えつつあります。この調査レポートでは、世界中のプロジェクトマネージャーがAIのメリットをどのように認識しているかを明らかにします。
プロジェクト管理における人工知能 (AI) の普及は近年急速に進んでおり、プロジェクトマネージャー (PM) はその主な利点として「効率性と生産性の向上」を挙げています。キャプテラが世界12カ国のプロジェクトマネージャー2,500名 (日本からは200名) を対象に実施した調査では、プロジェクト管理業務にソフトウェアを使用しているPMにAI導入の効果について尋ねました*。
調査結果によると、プロジェクト管理業務においてAI対応ツールを使用しているPMは12カ国の平均で46%に上りました。本レポートでは、この回答者グループに焦点を当て、AIテクノロジーの主な利点、AIへの投資意欲、導入に伴うスキルギャップなどについて、詳しく解説します。
前回の感情的知性 (EQ) の活用に関するレポートと併せて、本記事がプロジェクト管理の最新トレンドを掴むための参考になれば幸いです。
AIを使うプロジェクトマネージャーのうち・・・
- 63%が、AIによって効率性と生産性が向上したと回答
- 90%が、過去12か月間にAIがプラスの投資収益率 (ROI) をもたらしたと報告
- AIがプロジェクト管理に最も大きな影響を与えると予想される分野はタスクの自動化、予測分析、プロジェクト計画
- しかし、日本の場合、PMの2割がAIの限界を十分に理解していない
プロマネの9割がAIへの投資の効果を実感
本調査では、AIを使用しているプロジェクトマネージャーの63%が、AIの導入により特に効率性と生産性が向上したと報告しています。次いで、「タスクやワークフローの自動化」、「計画・スケジューリングの向上」(それぞれ54%) もメリットとして挙げられています。
これらの結果は、AIによって既存の機能が強化され、プロジェクトの進行がより迅速になることを示しています。例えば、タスクの自動化によって手作業が減り、計画とスケジューリングの改善によってリソースの最適配分が可能となります。これにより、プロジェクトマネージャーは戦略的な意思決定やクリエイティブな問題解決に集中できるようになり、全体のパフォーマンス向上につながります。
こういったAI導入のメリットは具体的なビジネス指標にも反映されています。過去12か月間で、AI搭載のプロジェクト管理テクノロジーへの投資収益率 (ROI) が「プラスになった」と答えたPMは、12カ国平均で90%に達しました。また、プロジェクト管理におけるAI技術への投資は、今後1年間で平均36%増加する見通しであり (日本では33%)、この先もAIへの投資に積極的な姿勢がうかがえます。
今後12か月間でAIがプロジェクト管理に最も大きな影響を与えると予測される分野は「タスクの自動化」(41%)、「予測分析」(40%)、「プロジェクト計画」(39%) です。それぞれに対応するソフトウェアには、以下のようなものがあります。
- タスク管理ツール タスクの自動化を実現し、手動でのタスク割り当てや進捗管理の手間を削減します。これにより、プロジェクト全体の効率性が向上し、チームメンバーがより重要な業務に集中できるようになります。
- 予測分析ツール データマイニングや機械学習を活用して、未来の傾向を予測し、プロジェクトのリスク管理や意思決定の精度を高めます。こうした予測分析を通じて、プロジェクトの成功率が向上し、予算やリソースの無駄の削減につながります。
- プロジェクト計画ツール プロジェクト計画の精度を向上させ、タイムラインの作成やリソースの最適配分を支援します。これにより、計画通りにプロジェクトを進行させることができ、ステークホルダーとのコミュニケーションも円滑になります。
PMは概ねAIに前向きだが、「限界の理解」には改善の余地
AI技術の導入はプロジェクト管理において様々な効果をもたらしていますが、日本のプロジェクトマネージャーはAIに対してどのように向き合っているのでしょうか。AIを使用している日本のプロジェクトマネージャーの59%は「AIに対して懐疑的ではない」との意見を示し、9割は重要な業務をAIに任せることに前向きであると回答しました。ただし、AIを導入するに当たっては不安要素もあります。
例えば、誤りやバイアスのある出力など、AIの「限界を理解している」と答えた日本のPMは80%に上ります。しかし、「限界を理解していない」と回答したのは20%であり、12カ国平均の9%と比較して大幅に高い割合です。さらに、「AIの導入を成功させる自信がある」と述べた日本の回答者は85%と決して低い割合ではないものの、本調査の中では最も低い水準の国となっています。日本のPMはAI技術に対して前向きですが、その限界を認識し、導入に自信を持つという点では、改善の余地があるようです。
プロジェクト管理業務にAIを効果的に導入するには、AIの課題を理解することが不可欠です。次に、具体的な課題とその解決策について詳しく見ていきましょう。
AIに関するトレーニングや役割分担の明確化が鍵
顧客対応や翻訳・コンテンツ関連業務などのビジネスシーンで生成AIを使う場合、返答の精度や品質管理が重要視されますが、プロジェクト管理の領域でもバイアスの問題が主要な懸念事項となっています。本調査では、AIが最もデメリットとなる点として、「AIの限界やバイアスに関する不安」(51%)、「AIの精度に対する誤った信頼」(43%)、「ステークホルダーのAIへの恐怖や懐疑的な見方」(42%) が挙げられました。すなわち、技術的な性能だけではなく、心理的な要因や、認識の問題も課題として大きいことを示唆しています。
課題克服のための具体的な対策
それでは、AIの導入に対する不安を軽減するためには、どのような対策が有効なのでしょうか。今回の調査対象者に聞いたところ、上位に挙げられた対策は次の通りです。「AIの能力と制約に関するトレーニング」が51%、「チームにおけるAIと人間の明確な役割分担」が43% 、「AI利用に関するポリシーの確立」が42%という結果になりました。それぞれ確認していきましょう。
- トレーニングの重要性 AIの能力と制約に関するトレーニングを実施することで、プロジェクトマネージャーはAIの実際の能力を理解し、過度な期待や誤った信頼を避けることができます。これにより、AIの導入に対する不安が解消され、プロジェクトマネージャーの自信を高めることができます。
- 役割分担の明確化 AIと人間の役割を明確に分けることで、プロジェクトチーム全体がAIの導入に対してより前向きに取り組むことができます。例えば、AIが得意とするデータ分析やタスクの自動化をAIに任せれば、人間は戦略的な意思決定に集中することができます。
- ポリシーの確立 AI利用に関する明確なポリシーを設定することで、AIのアウトプットに対する説明責任を明確にし、ステークホルダーの懸念払拭につながります。
総括:AIの進化と共に求められるスキルアップと戦略
本調査では、AIがプロジェクト管理において生産性と効率性の向上に大きく寄与していることが明らかになりました。また、特に日本では、AIの導入が進んでいる一方で、バイアスに対する不安や、AI技術への理解不足が課題として浮き彫りになりました。これらの課題を克服するためには、適切なトレーニングやポリシーの確立などが重要です。
今後の技術進化と市場動向を考慮すると、AIの役割はさらに拡大し、より高度な業務自動化やデータ分析が可能になるでしょう。企業はこれに対応するために、プロジェクトマネージャーのスキルアップに注力し、AIの導入を成功させるための戦略を立てる必要があります。
調査実施方法
*キャプテラの「2024年プロジェクト管理ツールの効果に関する調査」は2024年5月にオンラインで実施され、世界12カ国2,500 名 (うち、日本からは200名) が回答しました。調査の目的は、プロジェクト遂行においてプロジェクトマネージャーに必要なリーダーシップ能力や感情的知性、そしてAIの活用方法を明らかにすることです。以下の条件に合致する方を対象としました。
- 組織の規模を問わず、自社のプロジェクト管理業務に携わっている
- 現在、会社でプロジェクト管理のソフトウェアを使用している