AIを活用したプロジェクト管理ソフトの登場により、プロジェクトマネージャーの役割と必要なスキルが変わりつつあります。企業が対応するための3つのポイントを紹介します。
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同業他社との競争に遅れを取らないために、プロジェクト管理におけるAI (人工知能) の活用方法を見直す時期が来ています。キャプテラが世界12カ国のプロジェクトマネージャー (PM) を対象に実施した調査では、約半数 (46%) がすでにAI対応のプロジェクト管理ツールを使用しており、今年末までにAIへの投資を平均36%増やす予定であることがわかりました*。
しかしそんな中、自社のプロジェクト管理業務にAIをさらに取り入れたいが、その実施方法に不安を感じている企業も多いのではないでしょうか。本稿では、Peter Taylor (ピーター・テイラー) 氏[1]のアドバイスを基に、3ステップのアクションプランをご紹介します。Taylor氏は30年以上にわたるプロジェクトマネジメントオフィス (PMO) のリーダーとしての経験を持ち、業務プロセス改善のコーチングや、プロジェクト管理の手法や新技術の導入に関する著書も複数執筆しています。
1. 技術スタックの見直し:AI機能の活用度を確認して、新しいツールの必要性を検討する
AIは、プロジェクトマネージャーの真の「デジタルパートナー」となり得ます。Taylor氏によると、「AIはプロジェクトマネージャーの時間を解放し、プロジェクトチームの管理により多くの時間を割けるようになります」。AI対応のテクノロジーやソフトウェアの可能性を最大限に活用できるためには、会社もPM自身も準備を進めるべきです。まずは、現在使用しているプロジェクト管理ツールの一覧を作成し、プロジェクトマネージャーがそれらをどのように活用しているかを把握する必要があります。以下のシンプルなステップで、自社の技術スタックをチェックすることできます。
- プロジェクト管理ツールとそのAI機能の一覧作成 すべてのツールの目的、使用頻度、ユーザー満足度を評価します。
- プロジェクトマネージャーからのフィードバック収集 業務に必要な機能・ツールや、十分に活用されていない、あるいは重複している機能・ツールを特定します。
- ツールのセキュリティとコンプライアンスの確認 各ツールが自社の基準を満たしていることを確認します。
- トレーニングとサポート体制の評価 各ツールに対するトレーニングのギャップを見つけ、追加のトレーニングやリソース提供を検討します。
技術スタックをチェックし、プロジェクトマネージャーなどからフィードバックを得ることにより、AI駆動ソフトウェアの活用方法や、今後の技術投資について、適切な判断ができるようになるでしょう。
この判断の一部は、企業やプロジェクトマネージャーの個別のニーズや希望に左右されますが、的確に監査 (チェック) を行えば、AIによって付加価値が生まれる領域が明確になります。「AIはコパイロット (副操縦士)、つまりデジタルアシスタントとして活用すると最も効果的です」とTaylor氏は述べます。AIはデータ入力、スケジュール管理、会議の議事録作成など、反復的なルーチン作業を代行できます。AIを取り入れているプロジェクト管理ツールに見られるいくつかの機能を以下に紹介しましょう。
最適化されたプロジェクト計画の作成 AIを活用してタスク、サブタスク、リソース配分を最適化することができます。プロジェクトに関わる人たちのスキルと過去のプロジェクトでの実績に基づいて、プロジェクト要件とそれに合致するメンバーが自動的に決定されます。
AI搭載のデジタルホワイトボード 付箋でタスクを記録したり、アイデアやフィードバックを共有したりすることで、計画策定やチームコラボレーションの「ハブ」として活用できます。デジタルホワイトボードは、プロジェクトの要点と次のステップを明確にするのに役立ちます。
ワークフロー生成 タスクや活動を整理する最適なワークフローを提案し、期限やタスクの異なる複数プロジェクトを効率的に管理できるよう支援します。.
2. 必要なスキルを身につける研修・人材開発プログラムを推進する
プロジェクトマネージャーがAIを活用できるようにするためには、まずどこに知識のギャップがあるかを理解する必要があります。その上で、適切なトレーニングでサポートすることが重要です。Taylor氏は次のように述べています。
「トレーニングは必ずしも2日間のコースである必要はありません。学習者が好きなときに数分間の知識を提供する『マイクロラーニング』という手法が注目されています。」
一方で、教育はソフトスキルの習得に重点を置く必要があります。AIがプロジェクト計画やレポート作成などの技術的タスクを代行するようになれば、PMはチームビルディングや人材管理に注力できる時間が増えるはずです。実際、多くのプロジェクトマネージャーが過去2年間で「感情的知性 (EQ)」の重要性が増していると感じており、調査対象の56%がEQがチームの目標達成能力に「大いに影響を与える」と回答しています。「ある程度の影響を与える」 を含めると、その割合は96%に上り、日本に絞った場合も同様の結果が得られました。
キャプテラの調査によると、プロジェクトマネージャーが最も苦労しているソフトスキルはコンフリクト解消 (43%)、人間関係の管理 (39%)、ニーズや期待を伝えること (34%)でした。
このような課題を克服するために、プロジェクトマネージャーを支援する取り組みがいくつかあります。
ロールプレイングやシミュレーション演習 実際の状況を再現し、コンフリクト解消、交渉、人間関係構築などに取り組むことで、実践的なスキルを磨きます。
インタラクティブなワークショップ グループディスカッションやケーススタディを通じて、アクティブリスニング、多様な性格への理解、困難な会話への対応、協力的なチーム環境の構築などの戦略を習得します。
メンタリングやコーチングプログラム 経験豊富なメンターとペアを組み、個別の課題解決や目標設定、進捗確認など、継続的なサポートを行います。
また、AIの活用が進むにつれ、データ分析やデータ管理、AI対応のプロジェクト管理ツールの使い方など、新たなハードスキルも求められます。
学習管理システム (LMS)は、教育コンテンツの作成、管理、提供、進捗の追跡を支援するツールです。LMSを導入することで、プロジェクトマネージャーは必要な知識やスキルに合わせた学習プログラムを開発し、効果的な学習が可能となります。
企業はLMSを通じて、ウェビナーやビデオ講義、業界専門家の記事などを提供して社員教育を進められます。また、多くのLMSにはディスカッションボードやフォーラムがあり、PM同士が知見を共有し、課題について議論し、協力する場となります。
3. データの誤用を最小限に抑えるための「ガードレール」を設置する
「AIが生成するデータの品質は、多くの企業で課題となっています。『ゴミを入れれば、ゴミが出てくる』という格言がありますが、AIではそれがさらに高速に行われます。そのため、信頼できるデータを得るための知識管理プロセスを確立する必要があります」とTaylor氏は指摘します。
キャプテラの調査結果もこのことを裏付けています。プロジェクトマネージャーの41%がデータ品質の問題を経験し、22%が出力に望ましくないバイアスがあったと報告しています。これは、PMの49%がAIの活用に懐疑的である理由の一つかもしれません。
では、プロジェクトマネージャーが誤ったデータに基づいて行動するリスクを最小限に抑えるために、企業はどのようなガードレールを設置すればよいのでしょうか。
まずは、AI対応ツールの利点と限界を理解することが重要です。たとえば、ガートナーによれば、生成AIはコンテンツ生成や知識発見には有用ですが、予測や計画にはあまり適していません[2]。企業の目標に合わせて適切なツールを選択することが重要です。
次に取り組むべきは、適切なデータ管理プロセスの構築です。ガートナーは、データ品質を確保するために以下のようなベストプラクティスを提言しています[3]。
- 正しいマインドセットを作る データ品質を維持するために、組織全体で変更管理が必要であるという認識
- データ品質の責任を共有する IT部門だけでなく、各部門がデータ品質に責任を持つ体制
- テクノロジーを活用してデータソースを統合する データ品質を測定・報告する仕組みの導入
- データ品質の影響を可視化する データ品質がビジネス成果や業績、財務に与える影響の明確化
データリスク管理を強化したい企業は、リスク管理システムを活用できます。この種のソフトウェアはプロジェクト管理ツールと連携可能で、以下のようにAIをリスク管理に応用できます。
データ品質の監視 事前に設定したデータ品質指標に基づき、品質が許容範囲を下回った場合に自動でアラートを発します。また、データの収集、処理、使用に関する詳細な監査ログを保持します。
What-ifシナリオの実行 プロジェクトの期限、予算、リソース配分などの変数を変更してシミュレーションし、その影響を評価します。生成AIを用いて潜在的なリスクを特定し、ステークホルダーと共有できます。
非構造化データの分析 自然言語処理 (NLP) を活用して、メールや会議メモ、進捗報告などを分析し、潜在的なリスクの兆候を検出します。
まとめ:プロジェクトマネージャーのAI活用スキルを育成することが鍵
AIツールの能力は日進月歩で進化しており、それを効果的に活用するためのスキルセットも変化しています。企業はこうした技術の進歩に対応できるよう、プロジェクトマネージャーの知識・スキルの向上に投資する必要があります。
Taylor氏は、ソフトスキルとハードスキルを育成するために「マイクロラーニングセッション」の提供を推奨しています。ソフトスキルでは「感情的知性」の向上に重点を置き、ハードスキルではデータリテラシーを高め、データ品質の識別や大量データの扱い、データに基づく意思決定ができるようにすることが重要です。
プロジェクトマネージャーの知識ギャップを事前に特定し、それを埋めるための具体的な行動を起こすことで、成功への道筋を整えることができます。本稿で提案されたアプローチをいつ・どのように適用するかを社内で検討してみてはいかがでしょうか。
出典一覧
- Peter Taylor, LinkedIn
- When Not to Use Generative AI (英語), Gartner
- 7 Data Quality Focus Areas to Ensure Effective Analytics and AI (英語), Gartner
調査実施方法
*キャプテラの「2024年プロジェクト管理ツールの効果に関する調査」は2024年5月に回答者2,500名 (米国n=300、カナダn=200、ブラジルn=200、メキシコn=200、英国n=200、フランスn=200、イタリアn=200、ドイツn=200、スペインn=200、オーストラリアn=200、インドn=200、日本n=200) に対してオンラインで実施されました。調査の目的は、プロジェクト遂行においてプロジェクトマネージャーに必要なリーダーシップ能力や感情的知性、そしてAIの活用方法を明らかにすることです。以下の条件に合致する方を対象としました。
- 組織の規模を問わず、自社のプロジェクト管理業務に携わっている
- 現在、会社でプロジェクト管理のソフトウェアを使用している