データセントリックな時代が到来しつつある今日、データの潜在的な価値を十分に活用できていない企業が多く存在します。中小規模事業者がデータに基づいた意思決定、業務改善を行うためには、機械学習が大きな役割を担うと期待されます。

機械学習 (ML) や 人工知能の利用は、中小企業にとっても遠い存在ではなくなっています。機械学習は企業や組織の能力を高めるポテンシャルを持つことから、ビジネスや社会生活のさまざまな分野で広く採用されることが予測されています。また、中小企業にとっても導入しやすい さまざまな機械学習ツールが公開され利用できるようになっています。
アイ・ティ・アールのレポートによると、2020年度のAI主要8市場全体の売上金額は前年度比で約20%増加しており、2025年度には1,200億円に達すると予測されています。そのうちの 機械学習プラットフォーム市場は、2020年度に44%増と大きく躍進しました。
機械学習とは?
機械学習 (ML) とは、データを分析してカテゴリやグループに落とし込み、従来の分析方法では行いにくい予測を可能にするテクノロジです。過去のデータからパターンを識別し、予測を抽出するための一連の手法と技術を指します。
「予測分析」と呼ばれる従来型のデータ分析手法は、予め設定された分析プロセスで入力データを出力データに変換する点で、機械学習とは異なります。現在の機械学習の応用例として、音声認識、画像認識、VPA (バーチャルパーソナルアシスタント) などが挙げられます。
機械学習の導入によって中小企業が得られる利点
企業を取り巻く環境がデジタル化していく中で、情報が漏洩したり、サイバー攻撃を受けたりする可能性も高まっています。中小企業は機械学習技術を採用することで、悪意のあるアクティビティのパターンを検出し、自社をサイバー攻撃から守ります。IDCの国内AIシステム市場予測によると、2020年のAIシステム支出額が1,500億円以上に上り、前年比成長率は約48%でした。続いて、機械学習の導入によって中小企業にもたらされる利点を見ていきましょう。
1. データに基づく意思決定の推進
機械学習は、単なる当て推量によるのではなく、データに基づく強力な意思決定を行うために役立つ技術です。また、過去のデータから将来の成長を予測できるため、中小企業の事業の発展にも貢献できます。既存のデータを解析してパターンを学習し、システムの挙動を予測した結果を意思決定に反映させ、繰り返しシステムの改善を図る循環を生み出します。
例えば、 eコマースビジネスでは、オンライン取引、購入日時、支払い方法などの消費者データを分析し、顧客行動に関する知見を得ることができます。得られた知見を利用すると、今後マーケティングの対象にする顧客層を決定できます。多くの顧客がオンライン決済を利用していることがわかれば、デジタル決済のエクスペリエンスを改善し、事業をさらに発展させることが可能になるでしょう。
2. 日常的に発生するタスクの自動化
顧客からの一般的な問い合わせへの対応など、日常的に発生する通常業務は、自動化することによって効率化を図ることができます。例えば、24時間365日稼働するチャットボットを利用すれば、専任のカスタマーサービス担当者を採用して育成する必要がなくなります。このケースでは、人員コストの削減のみならず、営業時間外での顧客対応も実現するので、業績向上につながる可能性が高まります。
作業の自動化は、人事や経理などさまざまな部門にとって役立つと考えられます。例えば、マーケティングのメールをいつ誰に送信するか決定するパラメータを設定し、そのタスクを自動的に実行するようにシステムをセットアップすれば、 メールマーケティング業務のタスクが自動化されます。さらに、受信したユーザーがメールを開いたときにフォローアップメールを自動的に送信するように設定することもできます。
3. サイバーセキュリティの強化
米経済誌フォーブスによると、 セキュリティ分野でもインテリジェンスの活用が増えています (原文英語)。機械学習を導入することで、中小企業はサイバー攻撃を予防し、不審な行動を特定できるようになるため、よりプロアクティブな脅威防止、攻撃へのリアルタイム対応にもつながります。その結果、データの不一致や異常値の検知により、社内の機密情報や最重要データを保護できるようになります。例えば、MLを活用したメール監視ツールは、 フィッシングメールで送信されるマルウェアやウイルスを検出したり、通常のメールと比較したりすることによって、当該IT部門に報告することができます。
機械学習を活用するときに中小企業が直面する課題
機械学習はさまざまな形で企業に恩恵をもたらしますが、機械学習を活用するために考慮すべき点もあります。ここでは、企業が機械学習を導入するときに直面するいくつかの課題を紹介します。
1. 中小企業が利用できるリソースの不足
日本政策金融公庫総合研究所は、大企業に比べて、資金や人材の制約が大きい 中小企業は、データを収集したり、開発に時間をかけたりすることが難しいことを指摘しています。同稿で紹介される「中小企業の成長に向けた事業戦略等に関する調査」(野村総合研究所) でも、AIのような機械学習を活用する場合の課題として「技術・ノウハウを持った人材の不足」が最も多く挙げられています。
2. 機械学習アルゴリズムを実行するための履歴データの不足
設立して間もない企業であれば、機械学習アルゴリズムを実行するための十分なデータがない場合もあります。さらに、自然災害や新型コロナウイルスの感染拡大など外的な要因によって、データを安定して保存・記録できない場合もあります。過去の情報が正確ではない場合、予測の精度が下がってしまうこともあります。ガートナーののリサーチ担当副社長ジム・ヘアは「新型コロナウイルスのパンデミックなどの要因によって事業が中断すると、 過去の状況を反映する履歴データの有意性が失われて役に立たなくなり、自社で使用している多くのAIや機械学習 (ML) モデルを十分に活用できなくなる場合がある」と述べています (原文英語)。
まとめ
機械学習は、今後、中小企業にとっても重要な役割を果たす可能性を秘めており、さまざまな分野の企業で導入が進むと考えられています。また、機械学習にはビジネス環境を変える力があり、アウトプットの増加や生産性の向上に役立つでしょう。中小企業が活用できる 機械学習ツールは既に多く存在していますが、今後、テクノロジがさらに進化すれば、機械学習がもたらす利点もさらに広がり、企業は新たな課題を解決するために活用できるようになるはずです。