ATS（採用管理システム）

文責: 酒井アルベルト、Brian Westfall

採用管理システム (ATS) 選びの必須情報

採用管理システムは英語の「Applicant Tracking System」の頭文字から「ATS」とも呼ばれており、組織が採用プロセスを一貫して行い、応募者情報のデータベースを管理するためのツールです。ATSを活用することで、求人企業は応募書類や履歴書を保存し、採用要件に基づいて候補者を評価し、採用データを分析して重要な洞察を得ることができます。

主にリクルーターや人事部門のリーダーがATSを使用しますが、採用する部門の責任者も応募者の評価や面接のスケジュール管理に利用できます。 小規模な企業では採用専門の担当者を置いていないことが多く、経営者やCEOがATSを使用して求人情報を掲載する場合があります。

市場にある多くの採用管理システムは、月額制のサブスクリプション料金体系として提供されています。人気のある製品の料金は、少人数のユーザーが基本的な機能を月額180ドル (約26,800円) から利用できます。また、数百人のユーザーが高度なATSプラットフォームを利用すると月額2,800ドル (約417,400円) 以上となります。

初めてATSを購入する際には、予算、採用ニーズ、人事関連の既存システムとの整合性を考慮して検討する必要があります。社内外の関係者に相談しながら、ベンダーに対する質問を予め用意しておき、自社のニーズに合った最適な製品を特定することが重要です。以下のような事項について確認すると良いでしょう。

• 応募者のユーザー体験のどこを改善できますか？
• どの採用タスクを自動化できますか？
• どのような採用指標を追跡できますか？
• 製品は大量採用向けですか、それともニッチな人材発掘向けですか？

最もレビューの多い採用管理システム

キャプテラは、ユーザー評価や人気度を組み合わせた独自の手法に基づき、注目の採用管理システムを特定しています。これにより、小規模事業者が自社のニーズに最適な製品を効率的に見つける手助けをしています。以下、「採用管理システム (ATS)」カテゴリーで最もレビューの多い5つの製品を紹介します。

このランキングは、検証済みのユーザー評価と、一般公開されているWeb検索による人気度データを組み合わせて決定されます。

• 評価スコア： キャプテラのユーザーによる評価に基づくおすすめソフトウェアの相対スコア。レビュー件数とレビューの新しさを考慮して正規化されています。
• 人気度スコア：Web検索のトレンドとWebにおける製品のプレゼンスに基づくソフトウェアの相対的な人気度。

採用管理システムとは？

採用管理システム (ATS) は、企業が採用プロセスを管理し、候補者選定の進捗状況を追跡するための採用ソフトウェアの一種です。

ATSは、企業の採用活動の中心的なハブとして機能し、求人情報の掲載、求職者の募集、オンラインでの応募プロセスの設定、提出された履歴書の保存などの機能を搭載しています。また、ユーザーは面接のスケジュールを組んだり、身元調査を依頼したり、分析を活用して応募者のユーザー体験の改善点を特定したりできます。

ガートナーは、採用管理システムをより広範な人的資本管理 (HCM) ソフト市場のサブセグメントと位置付けています。HCMソフト市場は、2022年時点での年間収益は224億ドル (約3.3兆円)、前年比の成長率は11.7%でした[2]。キャプテラでは、830のATS製品を掲載しており[3]、過去1年だけでこれらのソフトウェアユーザーによる7,051件の検証済みレビューを公開しています[4]。

採用管理システムの価格体系

市場の多くの採用管理システムは、月額制のサブスクリプション料金体系で提供されています。複数のユーザーが使用する基本的なシステムの場合は月額180ドル (約26,800円) 程度であり、数百人のユーザーが使用する高度なプラットフォームの場合は2,800ドル (約417,400円) 以上となります。

• エントリーレベルの採用管理システムには、候補者追跡、候補者プロフィール、求人投稿などのコア機能が含まれます。
• プレミアムおよび高機能なシステムには、高度なレポート機能、応募者の自動評価、ブランディングのカスタマイズなどの機能がついていることも多いです。

初めて会計ソフトを購入する際には、以下の点に注意が必要です。

• 初期費用には通常、初期設定、トレーニング、データ移行が含まれます。
• 運用コストには通常、メンテナンスとカスタマーサポートが含まれます。

多くの場合、ユーザー数または従業員数に基づいて料金が設定されます。ただし、求人広告の掲載件数や受け取った応募件数によって料金が変動する場合があります。ATSベンダーは、より長期の契約を促すために、月ごとの契約ではなく年間契約を選択した場合に割引を提供することがあります。

購入者は、無料プランまたはATSの無料トライアルを利用してコストを削減することもできます。 しかし、フリーソフトウェアには欠点もあります。例えば、システムを自社でホスティングし、場合によっては修正する必要があったり、ベンダーからサポートを受けられなかったりすることもあります。

参考データとして、キャプテラのアドバイザーが過去1年間にヒアリングした採用管理システムの購入者のうち、51%が従業員一人当たり月額5ドル (約745円) から10ドル (約1,490円) の予算を取っています[5]。

採用管理システムのユーザーが評価する機能

全ての採用管理システムは、候補者追跡、候補者プロフィール、求人投稿、候補者のソーシングなどの基本的な機能を装備しており、他にも応募管理、履歴書保管、面接スケジューリングなど、多くの製品に見られる一連の共通機能が含まれています。

高く評価されているATSのコア機能

• 求人投稿：複数のチャネルで求人情報を投稿して、追跡および管理できます。 94%のレビュアーがこの機能を「必須」または「非常に重要」と評価しています。
• 候補者の追跡：候補者とのやりとり、メモ、採用プロセスの進捗を記録します。 93%のレビュアーがこの機能を「必須」または「非常に重要」と評価しています。
• 候補者プロフィール：職歴、専門的な資格、経験、スキル、その他の属性など、候補者の情報を追跡します。 91%のレビュアーがこの機能を「必須」または「非常に重要」と評価しています。
• 候補者のソーシング：人員補充のために積極的なオンラインでの採用活動を行い、人材パイプラインを構築します。

高く評価されているATSの一般的な機能

• 応募管理：求人応募を追跡および管理して、保存します。88%のレビュアーがこの機能を「必須」または「非常に重要」と評価しています。
• 履歴書保管：候補者の履歴書をアップロードして保管します。 84%のレビュアーがこの機能を「必須」または「非常に重要」と評価しています。
• 求人管理：求人するポジションと求人情報を作成して管理します。 81%のレビュアーがこの機能を「必須」または「非常に重要」と評価しています。
• 面接スケジューリング：求職者の面接スケジュールを立てます。 79%のレビュアーがこの機能を「必須」または「非常に重要」と評価しています。
• オンボーディング：新入社員が業務を開始するプロセスを自動化します。
• アラート／通知：さまざまなイベントについて、ポップアップ通知またはメールによるアラートを有効にします。
• 評価管理：候補者のスキルと知識をテストする評価を作成、管理、採点します。
• 経歴スクリーニング：応募者の身元調査を依頼して管理します。
• コラボレーションツール：採用プロセスの関係者とメッセージ、ファイル、その他の重要な情報を共有します。
• パイプライン管理：採用および雇用パイプラインの各段階におけるデータを追跡します。
• 履歴書分析：重要なキーワードやフレーズがある求人応募や履歴書に自動的にフラグを付けます。
• ワークフロー管理：繰り返し行う採用タスクのワークフローを作成して監視します

ユーザーが挙げる採用管理システムの最大のメリット

リクルーター、応募者、その他の関係者間のコミュニケーションを円滑にする：ATSのユーザーは、自動通知、ユーザーのタグ付け、直接メッセージをやり取りする機能などにより、コラボレーションと応答のスピードが向上すると述べています。

「統合型のコミュニケーションツールによって、候補者と社内チーム間のやりとりが円滑になり、シームレスなコラボレーションと問い合わせへの迅速な対応が可能になります。」

—Alfonso G.、テクノロジー企業のCEO

自社の採用プロセスに応じてソフトウェアをカスタマイズできる機能：ATSにはニーズや好みに合わせてカスタマイズできるオプションが数多く用意されていることが、ユーザーに評価されています。

「当社の採用活動を最適化し、一貫性のある方法で候補者とコミュニケーションする上で、特にカスタマイズ可能なテンプレートとワークフローの自動化機能が役立っています。」

—Salome J.、ホスピタリティ企業の人事管理者

候補者追跡とインサイト獲得の自動化：ATSは、採用プロセス全体で候補者を自動的に追跡し、プロセスの改善に役立つデータを収集します。

「候補者を追跡する方法を整理および体系化でき、社内リクルーターのためのレポートを設定し、データ収集を合理化するのに役立ちました。」

—Tatiana R.、ITテクノロジーとサービス企業の人事部門の従業員

ユーザーが挙げる採用管理システムの主な課題

レビュアーが最も多く挙げているATSに関する問題は、特定の機能を利用できなくなるシステムのバグや不具合です。

次に多く挙げられた問題はスピードです。通常の操作中にシステムが遅くなったり、パフォーマンスの低下が発生したりすることがあります。

3番目に多く挙げられた問題は、候補者のフィルタリングです。フィルタが消失したり、探している候補者だけを表示する機能が期待通りに動作しないことがあります。

ATSの購入を検討している場合は、応募者に影響するデメリットについて認識しておく必要があります。 ATSで設定した応募プロセスが候補者にとってスムーズでなければ、有望な候補者を逃してしまう恐れがあります。キャプテラが求職者を対象に行ったの最近の調査では、応募が完了できなかった理由として、「分かりにくかった」(30%)、「時間がかかりすぎた」(29%)、「エラーや不具合が発生した」(23%) が挙げられました[6]。

製品レビューを参照するときには、このような問題が発生していないことを確認してください。さらに、さまざまなATSのデモ版を依頼する際には、システムパフォーマンスに影響を与える可能性のある既知の問題がないかベンダーに確認することをお勧めします。

採用管理システムの用途

キャプテラがさまざまな採用管理システムのレビューを分析した結果、一般的なユースケースが明らかになりました。

• 採用プロセス全体の包括的な管理：リクルーターは、ATSをワンストップ窓口として使用して、求職者の募集、評価、採用を行っています。
• 求人情報の作成と発信：自社サイトの求人情報ページ、社外の求人掲示板、SNSサイトなど求職者を最も多く集めるために、ユーザーはATSを使用してさまざまな場所で求人情報を投稿しています。
• 複数の求人にわたる応募者の追跡：ATSのユーザーは、応募のフィルタリング、キーワード検索、通知などの機能を使用して、有望な求職者を見落とさないようにしています。
• 採用決定における協力：リクルーターは、ATSを通じて人材ニーズ、候補者の面接スケジュールなどについて、採用する部門の責任者と連絡や調整を行うことができます。

どんな人が採用管理システムを使うのか？

企業での人材採用は部門を横断して行われます。規模や業種を問わずあらゆる企業が人材の採用に取り組まなければならないため、ATSを使用するユーザーの役職は多岐にわたります。

小規模な企業では、経営者や人材を求めている部門の責任者が基本的なATSを使用して求人情報を掲載する場合があります。一方、専門の人事部門がある大規模な組織では、リクルーター・採用担当者が候補者の発掘、面接のスケジュール調整、採用プロセスのボトルネックの特定などの作業を行うために、より高度なATSを使用する必要があるかもしれません。

キャプテラのアドバイザーがヒアリングから取得した情報からも、ATSを使用するユーザーがさまざまであることが明らかになりました。採用管理システムについてキャプテラに問い合わせてきた企業関係者には、人事部長 (12%)、人事マネージャー (11%)、経営者 (8%) などが含まれています。

ATSは、自社のニーズに合わせて採用活動を行う企業が使用することを意図しています。人材紹介会社や人材派遣会社の場合には、これらの業態特有のニーズ (顧客管理など) に対応するさまざまな機能を備えた、人材紹介システムおよび人材派遣システムを利用することが推奨されます。

昨年、ATSについて問い合わせた多くの企業は、年間収益が600万ドル (約9億円) から2,500万ドル (約37億4,000万円) で、2～5人のユーザーに対応するシステムを必要としていました。

ATSの主な連携先システム

過去1年間の採用管理システム購入者とのヒアリングから、81%が統合型スイートを優先的に選んでいることが分かりました。 企業は、スタンドアロンの採用管理システムではなく、応募者追跡機能に加えて、人事評価や従業員エンゲージメントなどの人事部門のニーズに対応する包括的な人事管理システムやタレントマネジメントシステムを選択する傾向があります。

キャプテラの膨大なレビューデータベースを分析した結果、ATSと最も多く連携されているツールは、人事管理システム、採用ツール、リファレンスチェックサービスの3つでした。

採用管理システムの注目トレンド

人工知能 (AI) による支援：ガートナーは、2027年までに採用テクノロジーを提供しているベンダーの80%が、製品にAIを取り入れるようになると予測しています[2]。ATSに搭載されるAIは、求人投稿の作成、候補者ソーシング、さらには選考面接の実施においてリクルーターを支援できます。 しかし、リクルーターは、AIを自ら使用して求人企業を欺いて職を得ようとする応募者に注意しなければなりません[6]。

給与情報の透明化が常識に：2024年には、採用担当リーダーの40%が、自社の全ての拠点における求人情報で給与の詳細を記載するようになると予測しています。これは、2022年の15%から増加しています[7]。給与情報の透明化は、優秀な人材を惹きつけるためにますます重要になっています。そのため、給与情報の透明性を常に維持するためにATSを活用するだけでなく、その地域で競争力のある給与となるように、報酬管理システムなどを活用する必要があります。

採用管理システムについて詳しく知るための関連情報

• 人事システムの種類と選び方のヒント
• 人事部門のデジタルトランスフォーメーション (DX) への備え方
• 戦略人事とは？人事計画プロセスに役立つガイド
• ビジネスに優位性をもたらす人事管理システムの活用
• 人事評価の効率化に役立つExcelシートの使い方【無料テンプレート】

出典一覧

1. キャプテラの製品価格情報：キャプテラは、価格情報が一般に公開されている製品およびカテゴリで認定されたソフトウェア製品のみを、価格分析の対象としています。日本円価格は投稿時の為替レートに基づいており、現在の為替レートとは異なる場合があります。調査方法の詳細は、こちらをご覧ください。
2. Market Guide for Talent Acquisition (Recruiting) Technologies (英語), Gartner
3. キャプテラの全カタログに掲載されている製品数を示しています。
4. キャプテラのレビューデータ：キャプテラサイト上の個別のソフトウェア製品に対する、検証済みユーザーによる評価レビューを分析してものです。 本稿では、執筆時から過去1年間のレビューを対象にしています。キャプテラのレビュー検証プロセスについての詳細は、こちらをご覧ください。
5. キャプテラのアドバイザーの「コールノート」：採用管理システムを必要とする中小企業と、キャプテラのアドバイザーチームとの間で行われた電話での会話データを分析したものです。本稿では、過去1年間の電話でのヒアリングを対象にしています。調査方法の詳細は、こちらをご覧ください。
6. キャプテラの「AIに関する求職者調査」は2024年7月に回答者2,997名 (米国 (n=250)、カナダ (n=250)、インド (n=250)、ブラジル (n=250)、メキシコ (n=250)、英国 (n=250)、フランス (n=247)、イタリア (n=250)、ドイツ (n=250)、スペイン (n=250)、オーストラリア (n=250)、日本 (n=250)) に対してオンラインで実施されました。調査の目的は、AI主導の採用プロセスにまつわる要因を理解すること、そして求職者の間でAIツールがどの程度普及しているかを明らかにすることでした。現在求職中の人を対象としました。
7. 8 Trends That Will Shape Talent Acquisition Strategy for 2024 (英語), Gartner