人工知能 (AI) の技術が目まぐるしく発展する中、顧客サービスやカスタマーサポートにおいてもその革新が進んでいます。この実態を明らかにするために、キャプテラは日本を含む12カ国のカスタマーサービス担当者にアンケート調査を実施し、その結果をこの記事にまとめました。

AI技術でカスタマーサービスの「生産性」と「顧客満足度」が向上

昨今、あらゆるビジネスソフトに人工知能 (AI) 機能が搭載されるようになっています。カスタマーサービス (CS) の分野でも、チャットボットや音声アシスタントなどのAI技術が、24時間対応、迅速な応答、多言語対応などを可能にすることで注目されています。そんな中で、日本のCS担当者の8割が、AIが顧客にポジティブな影響を与えていると感じています。これは、キャプテラが実施した「2024年カスタマーサービスにおけるテクノロジーに関する調査」で明らかになったものです (調査の詳細は文末を参照)。

では、カスタマーサービスにAIを導入すると具体的にどのような利点や課題があるのでしょうか。また、企業はAIをどのように効果的に活用すればよいのでしょうか。今回の調査結果レポートでは、世界2,307名のカスタマーサービスのプロフェッショナル (うち日本からは192名) の意見を基に、顧客サービスの新たな時代を探ります。

日本のカスタマーサービスのAI導入率が32%と世界最低レベル

カスタマーサービス業務ではデジタルツールの利用が不可欠ですが、AI機能の普及には国によって大きな差があります。特に日本では、AIの導入が他国に比べて遅れをとっているのが現状です。カスタマーサービスに直接関与しているマネージャーや従業員に対して、現在利用している顧客サービスソフトにAIの機能や処理能力が組み込まれているかを尋ねたところ、「わからない」の回答を除いた結果は以下の通りとなりました。

現在利用中のカスタマーサービスツールにAI機能が搭載されているか

実際に使われているソフトウェアやSaaSには、目に見えないところでAIが動いている可能性もありますが、それでも他国と比較するとAI機能の導入が遅れていることは明らかです。ただし、実際にAIを利用している企業では、業務改善が実感されています。次の節で詳しく見ていきましょう。

AIを活用した顧客対応の改善方法

AI関連技術を活用することで、顧客サービスやカスタマーサポートで大幅な効率化が図れます。以下にいくつかの具体的な実践例を紹介します。

  • バーチャルアシスタント チャットボットを通じてパーソナライズされた会話を実現するツール。人間の介入なしにタスクやビジネスプロセスを自動化することができる。
  • 音声認識や感情分析 顧客の声のトーンや言葉遣いから感情を読み取り、リアルタイムで対応を調整する。不満を抱いている顧客に対して迅速な解決策を提供し、顧客満足度を高めることができる。
  • 自動品質保証 AIがバックグラウンドで対応内容をモニタリングし、品質をチェックするシステム。問題の早期発見と迅速な対応を実現し、サービスの品質を維持する。
  • セルフサービス 顧客自身が問題を解決できるシステム。24時間対応を可能にし、問い合わせ業務の負担を軽減する。

これらの技術を少しずつでも導入することで、顧客対応の効率が向上し、コスト削減にもつながります。

AI導入で「生産性」と「顧客満足度」が向上、研修の重要性も浮き彫りに

AIを活用したカスタマーサービスソフトを導入している日本の企業の間では、AIが業務改善に役立っていることが分かりました。具体的には、生産性の向上 (66%) と顧客満足度の向上 (50%) といったポジティブな影響が顕著に見られ、AIの利用が業務効率と顧客体験の両方に寄与していることが示されています。

それにもかかわらず、なぜ普及が遅れているのでしょうか。文化的な要因や技術的なインフラの不足などが影響していると考えられますが、中でも大きな課題として挙げられるのはAI技術に関する教育の不足です。AIを導入することには多くのメリットがありますが、同時にリスクも伴い、特に顧客データの取り扱いに関するリスクが大きいです。AIを導入している企業の従業員でさえ、AI利用時の顧客データの取り扱いについて研修・トレーニングを受けた人は52%に留まり、43%が受けていないことが明らかになりました。しかし、安全かつ効果的なAIの活用には、従業員への適切な教育とトレーニングが不可欠なのは言うまでもありません。

キャプテラが2023年に行った「企業におけるキャリア中心の教育に関する調査」では、生成AIの発展に伴い、スキルを磨く必要性を感じている日本企業の従業員は47%に上り、特に分析スキル (65%) と生成AIツールの活用スキル (43%) が重要視されています。管理職や従業員の間でAI技術に対する関心は高いはずなので、教育の機会を提供すれば、より効果的な導入と利用が期待できるでしょう。

AIスキル向上のためのデジタル教育方法

従業員がAI技術の最新知識とスキルを習得することで、AIツールを使いこなすだけでなく、生じうるリスクに対処できるようになります。そのためには、従来の対面式研修に加え、さまざまな学習システムでAIに関する社内教育を提供することができます。自社のニーズやコストパフォーマンスを考慮して、以下の方法を検討してみましょう。

  • 社内で独自に設計・開発したコース
  • 一般公開型のオンライン教育プラットフォーム
  • LMS (学習管理システム) プラットフォーム
  • 外部の企業・教育機関に依頼して作成したオーダーメイドのコース

カスタマーサービスにおけるAI導入のメリット・デメリット

日本のカスタマーサービス業務の現状をさらに掘り下げていきましょう。日本の全回答者 (AIを利用していない企業も含む) に対して、カスタマーサービスソフトウェアにAI機能を組み込むことで、一般的に顧客にどのような影響を与えているかについて意見を尋ねました。その結果、「良い影響を与えている」が77%、「非常に良い影響を与えている」が 3%で、合わせて回答者の8割がAIによって顧客体験が向上していると認識しています。

さて、この「良い影響」とは何に起因するものなのでしょうか。その答えを、AI搭載のカスタマーサービスソフトウェアを導入する利点と課題から紐解いていきましょう。それについて質問したところ、次のような結果が出ました (各設問の上位3回答)。

AI搭載のカスタマーサービスツールを導入する利点と課題の認識

AI活用の主な利点

  • 顧客対応時間の短縮 (56%) AIの自動化と効率化により、顧客対応時間が大幅に短縮されます。AIがルーティンワークや簡単な問い合わせに対応することで、オペレーターは問題解決に集中できる、より効率的なサービス提供が可能となります。
  • 費用の削減 (50%) AIの導入により、人件費や運用コストの削減が期待できます。自動化されたシステムは、24時間対応や複雑な問い合わせにも対応できるため、効率的なリソース配分が実現します。
  • 顧客満足度の向上 (24%) AI導入で顧客対応のスピードと質が向上し、結果として顧客満足度も向上します。当社が2022年に実施した「カスタマーサポートと顧客体験に関する評価調査」でも、人間対応の電話やライブチャットにおいて、消費者が求めるエージェントの資質は「迅速な問題解決力」と「丁寧な受け答え」であることが分かりました。AIはこれらの要素をサポートし、より高品質な顧客体験を提供します。

AIの課題とその対策

  • 正確な情報の確認 (43%) AIによる情報の正確性を確保することが大きな課題です。これに対処するためには、定期的に人間が内容をチェックする体制を整える必要があります。
  • 顧客との信頼関係の維持 (40%) AIの自動応答は、時に冷たく感じられることがあります。これを防ぐためには、感情分析やパーソナライズされた応答を取り入れて、顧客との信頼関係を維持する努力が求められます。また、必要に応じて人間が介入できるようにすることで、トラブル回避を図ることができます。
  • 導入とトレーニング (29%) AIシステムを導入する際には、その使い方や顧客データの取り扱いについての理解が不可欠です。前述したように、従業員に適切な教育とトレーニングを行うことが重要です。

AIが得意とする顧客応対の作業は「多言語対応」と「データ分析」

これまで見てきたことを踏まえると、カスタマーサービスにおいてAI技術の利用率は低いものの、成長の余地が十分にあると考えられます。実際、現場で働く人々も同様の見解を示しています。具体的には、今後5年間でカスタマーサービスの問い合わせがどの程度AIに移行し、AIが主に管理する割合はどのくらいになるかという問いに対し、回答者の予測値の平均は47%となりました。

5年後にAIのみで対応されるCSの問い合わせの割合

AI導入の取っ掛かりとして、顧客対応そのものに直接関わる部分ではなく、反復的な作業や顧客情報の管理に活用することが多いでしょう。しかし、AIの真価が問われるのは、電話やチャットなどの問い合わせ対応においてです。そのため、AIと人間のオペレーターのそれぞれが得意とする分野について、比較を行いました。結果は下記の通りです。

【質問】「カスタマーサービスの電話対応やチャットにおける以下の各作業について、AIが人間のオペレーターと比較してどのように対応できるか、ご意見をお聞かせください」

  • AIの方が優れている領域
    • 多言語での会話: 68%
    • データ分析と洞察の抽出: 60%
  • 人間の方が優れている領域
    • 問題解決: 66%
    • 販売促進・アップセルの促進: 59%
    • パーソナライズされたやり取り: 55%

AIは特に多言語対応とデータ分析において高いパフォーマンスを発揮すると認識されています。これは、AIが機械翻訳や大量のデータ処理を得意としており、迅速に複数の言語を扱ったり、大量のデータから洞察を引き出す能力に優れているからです。一方で、問題解決やパーソナライズされた対話においては、個々の顧客に対するきめ細やかな対応が求められるため、柔軟性や対人スキルに長けている人間の方が優れているという意見が多く見られます。結論として、AIのデータ分析能力・学習能力を最大限に活用しつつ、人間の持つ柔軟性と対人スキルを組み合わせることで、より高品質なサービスを提供することできると言えるでしょう。

日本での顧客満足度は変わらない?

日本の丁寧なサービスは世界的に知られています。しかし、2年前と比較してCSにおける顧客満足度がどのように変化したかを尋ねたところ、「変わらない」と答えた人が41%と最も多く、「向上した」と感じる人は26%に留まりました。

他国のデータと比較したところ、AI搭載のカスタマーサービスソフトを導入している企業の割合が高い国ほど、顧客満足度が向上している企業の割合も高いことが分かりました。もちろん、顧客体験に影響を与える要素は多岐にわたりますが、この結果は、AI技術の導入が顧客満足度向上に効果的である可能性を示唆しています。

まとめ:カスタマーサービスにおけるAI活用の現状と展望

日本では、カスタマーサービスにおけるAIの普及はまだ初期段階にあると言えます。調査対象の企業の多くは、AI技術の導入を行っていないか、あるいはその存在や可能性を十分に理解していない状況が見受けられます。しかし、一方でAIを導入している企業からは、生産性の向上や顧客満足度の改善といったポジティブな効果が報告されており、AI技術が業務効率と顧客体験の向上に寄与していることが確認できました。

AIの利点として顧客対応時間の短縮や費用の削減が挙げられますが、導入に際しては情報の正確性の確保や、顧客との信頼関係の維持といった課題も生じます。また、AIが特に得意とする分野として多言語対応やデータ分析があり、人間のオペレーターと協力することでより効果的なカスタマーサービスを提供することが求められています。今後、AI技術の進化とそれに伴う教育の充実が、カスタマーサービスの質を一層高めるための重要な要素となるでしょう。

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調査実施方法

キャプテラの「2024年カスタマーサービスにおけるテクノロジーに関する調査」は、2024年5月にオンラインで実施したもので、世界12カ国2,307 名 (うち、日本は192名) より回答を得ています。調査の目的は、最新の顧客サービス技術による顧客体験への影響を明らかにすることです。以下の条件に合致する方を対象としました。

  • 2,500人未満規模の企業に正社員として勤務している
  • カスタマーサービス業務に日常的に直接携わっている
  • カスタマーサービス関連のテクノロジーを利用している、または購入決定に関与している
  • 会社がカスタマーサービスの電話対応を行なっている