世界の会社員2,716人を対象に実施した「仕事に要するコスト調査」の結果報告第2弾。今回はリモートワークを中心に「仕事にかかる経費」に焦点を当て、コストを負担するのは会社なのか社員なのか、という問題に迫ります。
40年ぶりの物価上昇により、私たちの生活の様々な面に影響が現れています。仕事の経費もその例外ではありません。当社の最新調査によると、日本の従業員の約3分の1が仕事にかかる費用が増加したと感じており、世界的にはその割合が66%に上ります。こうしたコスト上昇に対処するために、企業は業務関連経費を正確に把握・管理しながら、従業員のニーズに合った支援策を講じるべきと考えられます。しかし、インフレ時代にあって、従業員はどのような点を重視しているのか、そして企業はそのニーズにどのように対応できるのか。
本記事では、リモートワークを中心に、仕事にかかるコストについて掘り下げていきます。そのために、キャプテラが日本を含む11カ国で実施した「仕事に要するコスト調査」の結果を紹介しながら解説します (調査実施の詳細は文末をご覧ください)。前回の「魅力的なオフィスワークの条件」の記事と併せて参考になれば幸いです。
1年前と比べた仕事のコスト:日本の社員の66%が「変化なし」
近年の経済情勢は、従業員が負担する仕事関連の支出に一定の影響を及ぼしているでしょう。そのため、給与がこれらのコストに追いついているかどうかは、従業員の満足度とモチベーション維持にも関わります。本調査では、過去12ヶ月間の職場関連経費の変動と、それに対する給与の妥当性について質問しました。
日本では過去1年間で、仕事にかかる経費が「変わっていない」と答えた人が66%と過半数を占めていますが、一方で「経費が増えた」と感じている人は29%にとどまっています。それに比べて、11カ国平均で見ると60%の従業員が仕事の経費が増えたと報告しています。各国の経済状況や物価の変動にはばらつきがありますが、日本の状況は現時点で比較的安定しているようです。しかし、インフレの影響を感じている従業員は約3分の1と少なくないのも実情です。
物価の上昇に賃金の上昇が伴っていれば、インフレ自体は大きな問題ではないかもしれませんが、実際には給与への反映が不十分と感じられているようです。日本でも11カ国平均でも、給与が仕事のコストに「追いついている」と感じている人は37%に留まり、「追いついていない」と回答した人が63%となりました。つまり、仕事関連のコストの変動に対して、会社側が十分に対応していないと感じている従業員が多いことが窺えます。
以上の結果から、経費管理の改善と給与の適正化が必要であることが示唆されています。特にテレワークやハイブリッドワークの普及に伴い、仕事にかかる直接経費だけでなく、間接経費の負担も考慮に入れることが望ましいです。これには、ホームオフィスで使用される機器やソフトウェア、セキュリティ対策の強化などが含まれます。これについては後ほど詳しく見ていきましょう。
仕事にかかる経費だけでなく、日常生活で必要な品目のコストの変動も、業界によっては正確に把握することが重要です。この調査では、従業員が感じる生活費の上昇についても質問しており、結果は以下の通りです。
【日本で感じられる物価上昇】
日本の回答者の場合、過去12か月間で最も「支出が増えた」と報告された上位3つの品目は以下の通りです。
- 公共料金 (電気、ガス、水道) 57%
- 食料品 56%
- ガソリン代 41%
【グローバルで感じられる物価上昇】
11カ国の平均では、外食、衣服代、公共交通費など、ほとんどの生活費品目で物価上昇が実感されています。日本国内の状況と比較すると、インフレの影響がより広い範囲に及んでいることが分かります。
出社時のコストに対して、テレワークは有効な方策なのか
物価上昇に伴い、交通費やガソリン代などの出社にかかるコストも増加しますが、この負担が過剰だと感じた場合、日本の従業員はどのような対応をするのでしょうか?
オフィス出社において、従業員が自己負担する経費が「許容範囲」を超えたと感じた場合にどのような対応をするか尋ねたところ、最も多く挙げられた反応は以下の2つです。
- 「昇給を求める」 39%
- 「新しい仕事を探す」 37%
すなわち、職場のコストの過剰負担が離職の一因にもなり得ることを示しています。そのため、企業は従業員の声に注意を払い、適切な対策を講じることがいかに重要であるかを認識するべきでしょう。
しかし、リモートワークやハイブリッド勤務はそういった懸念の解決策となり得るでしょうか?キャプテラが2023年に実施した「働き方の柔軟性に関する意識調査」によると、リモートワークは交通費の節約やワークライフバランスの向上など、様々なメリットをもたらします。しかし、給与の削減を伴うリモートワークは、多くの従業員にとって受け入れがたいものです。実際に、日本の従業員の81%がテレワークの導入や継続による給料の減額に反対しています。
以上の現状を踏まえると、リモートに伴う具体的な経費の負担について企業は慎重に検討する必要があることが浮き彫りになります。次節では、テレワークに必要な様々なコストの負担に焦点を当てて考察を進めていきましょう。
会社に負担して欲しいテレワーク関連費用:オフィス用品・機器、パソコン、スマホ
給料と仕事にかかるコストは密接に関連しているため、リモートワークに伴う費用の負担は従業員にとって重要な事項です。リモートワーク環境について質問したところ、42%の従業員が自宅のオフィス環境が自分のニーズや好みに完全に合っていると感じていますが、54%は部分的にしか満足しておらず、これが作業効率や満足度に少なからず影響を及ぼしている可能性があります。
続いて、様々な項目において、企業と従業員のどちらが負担するべきかについて、社員目線で見ていきましょう。「リモートワークにかかる費用は、企業が負担すべきだと思いますか?それとも、従業員が負担すべきだと思いますか?」という質問に対して、以下の結果が得られました。
ご覧の通り、「企業が負担すべき」と答えた従業員が半数を超える項目には、オフィス用品 (79%)、プリンターや照明機器などのオフィス機器 (76%)、パソコン (75%)、パソコンの周辺機器 (72%)、そして通話プランを含むスマホ・携帯電話関連の経費 (70%) があります。
従業員のニーズに応じた公平な費用分担のバランスを見つけることは、リモートワークの持続可能性や、従業員の満足度向上の観点からも重要です。在宅ワークのポリシーを策定する際には、多くの従業員がホームオフィスへの支援を求めている現状を考慮する必要があるでしょう。
在宅勤務における費用の負担を適切に管理することは、従業員の満足度と生産性を維持するために重要です。リモートワーク、ハイブリッドワークの実現に向けて企業が実施できる具体的な対策を紹介します。
- 在宅勤務手当の支給 従業員が在宅勤務で必要な経費を賄えるよう、一時金や定期的な手当を支給することができます。ただし、実費精算にならない場合は従業員の給与として課税対象となるため、その点は双方で理解しておく必要があります。
- パソコン・オフィス機器の貸与 パソコンやスマートフォン、周辺機器 (キーボード、マウス、モニター) などを貸与する場合は、最終的に会社に返還しなければなりませんが、給与課税されないため従業員にとってメリットがあります。そのためには、企業側はIT資産管理ツールでしっかりと管理すると良いでしょう。
- レンタルオフィスの活用 自宅でホームオフィスを整えることが難しい従業員に対して、レンタルオフィスの利用を促進すると良いでしょう。テレワークの普及により需要が高まっているため、レンタルオフィスの数も増えています。
- 経費精算システム 効率的な経費精算システムを導入することで、従業員がインターネット料金や光熱費(電気、ガス、水道)などの必要な経費を迅速に精算できるようにすると良いでしょう。
インフレ時代のコスト管理への挑戦
キャプテラの「2024年仕事に要するコスト調査」では、日本を含む世界11カ国を対象にリモートワークと出社に関わるコストについてアンケートを行いました。その結果、給与が仕事の経費に追いついていないと感じている日本の従業員が6割以上に達し、経済的バランスに課題があることが明らかになりました。
リモートやハイブリッド勤務が有効な解決策であると考えられますが、給料の減額を伴うリモートワークの導入・継続には81%の従業員が反対しています。また、回答者の大多数は、リモートワークに必要な経費の多くを企業が負担すべきだと考えており、特にオフィス用品の費用については79%が企業側の負担を求めています。
これらの調査結果から、企業は可能な限り従業員のコスト負担を軽減し、給与と仕事にかかる経費の間でより良いバランスを図ることの必要性が示されています。
キャプテラの「2024年仕事に要するコスト調査」は、2024年3月に回答者2,716名 (米国n=250、カナダn=250、ブラジルn=244、メキシコn=245、英国n=248、フランスn=244、イタリアn=250、ドイツn=246、スペインn=246、オーストラリアn=248、日本n=245) に対してオンラインで実施されました。調査の目的は、リモートワークとオフィスワークにおいて、従業員が負担するコストを明らかにすることです。対象者は、各国の企業で正規・非正規問わず雇用されていることを条件に抽出しました。