完全リモートワークに関心を示す日本の従業員はわずか18%であり、これは国際的に見ても低い水準にあることが当社の調査で明らかになった。この記事では、日本におけるオフィスワークの魅力を高めるための福利厚生や従業員エンゲージメント戦略について解説する。
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新型コロナウイルスの影響で全世界に広まったリモートワークですが、感染状況が落ち着いてきてから、多くの企業がオフィス勤務に戻る動きを見せています。この「出社回帰」の現象は、リモートワークに伴う仕事と私生活の境界の曖昧さや、チームコミュニケーションの問題など、テレワーク特有の問題に対する反動としても理解することができ、特に日本ではこのような傾向が早くから見られました。
しかし、出社が従業員の望まない義務となった場合、仕事のモチベーションや生産性に悪影響を与える恐れがあります。こうした問題意識のもと、今回の記事では出社に対する従業員の考えに迫り、魅力あるオフィス環境づくりに焦点を当てます。この分析は、キャプテラが11カ国で実施した2,716人の会社員 (日本からは245人) を対象とした「仕事に要するコスト調査」のアンケート結果に基づいています (詳細は文末に記載されています)。
出社ワーカーの4割がリモートまたはハイブリッドを希望
オフィス勤務に戻ることは、社員間のコミュニケーションが容易になるなど、企業に多くの利点をもたらしますが、従業員自身も同じように感じているのでしょうか。出社、リモート、ハイブリッド (リモートと出社の組み合わせ) のそれぞれに長所と短所があるので、企業やチームに適した勤務形態を選ぶことが重要です。本節では、日本では現在どのような勤務体制がとられていて、社員は実際に何を望んでいるのかを見ていきます。
今回の調査結果によると、日本における勤務形態は「完全出社」が71%で最も多く、これは世界11カ国平均の43%と比較しても非常に高い割合であることが分かります。一方、「完全リモートワーク」はわずか1%にとどまり、世界平均14%と比べて極端に低いです。ハイブリッドワークは日本で22%、11カ国平均は37%となっており、日本では出社中心の勤務形態が依然として主流であることが窺えます。
しかし、従業員の希望について尋ねると、現状とのギャップが浮かび上がりました。もし勤務形態を自由に選べるとしたら、「完全出社」したい人の割合が46%になり「完全リモートワーク」を選ぶのは18%、そして「ハイブリッドワーク」を望むのは36%でした。
特に注目したいのは、現在の勤務形態別に見た場合、オフィス勤務者のうち40%がリモートワーク (14%) またはハイブリッドワーク (26%) を希望している点です。対照的に、ハイブリッドで働いている従業員の中で完全出社を望む人はわずか6%にとどまります。
これらのデータから、日本の従業員の大半は現在の勤務形態に満足しているものの、できれば現状を変えたいと考えている人も一定数存在することが分かります。とりわけ、出社ワーカーの中でより柔軟な働き方を望む声が多くあったのは興味深いところです。その背景には、コロナ禍でリモートワークの利点を経験した人も少なくないでしょう。このような状況は、社員のモチベーション向上の一つの策として、より柔軟な勤務形態を提供するなど、スタッフの多様な要望に応えることの重要性を示唆しています。そのために、まずはリモートワークのどの点が評価されているのかを知る必要がありますが、これについては後ほど詳しく見ていきます。
リモートワークを希望する理由:時間節約、ストレス軽減、ワークライフバランス
リモートまたはハイブリッドを希望する人にその理由を聞いたところ、日本でもグローバルでもトップ3の理由は共通していました。ただし、それぞれの順位と割合には明確な差が見られます。
日本では、リモートによって通勤時間を削減したり、時間を自己管理できたりするところが特に評価されているようです。一方、世界的には、仕事とプライベートのバランスを実現できることがテレワークの一番のメリットとして挙げられています。
オフィス勤務を推進する際には、単に出社回数を増やすだけでは不十分です。オフィスにいる時間を有意義に使うとともに、社員の心理的健康を支える職場づくりも大切です。以下にデジタルツールを活用した施策例をご紹介します。
「食費支給」や「フレックスタイム」でオフィス勤務の魅力がさらにUP
続いて、出社を促す要因を探るため、従業員がオフィス勤務において魅力を感じる条件について伺いました。会社がどのような待遇を用意すれば「より出社したくなるか」という質問に対して、以下の3点が上位に挙げられました (「完全出社」と「ハイブリッド」勤務の日本の従業員を対象に質問)。
- 「食事無料または食事手当支給」(67%) 多くの回答者は、食事補助を大きな魅力と感じています。社員食堂に食券システムや予約システムを導入することで、管理の手間を削減できます。
- 「勤務時間の柔軟性 (フレックスタイム制など)」(59%) 柔軟な勤務時間は、オフィスワークへの意欲向上につながります。シフト管理システムは、こうした体制の管理を容易にします。
- 「通勤者への手当 (駐車場代や交通費の支給)」(57%) 通勤の手間を補うために、駐車場代や交通費の支給が期待されます。これには、通勤費精算を適切に管理する体制が必要です。
食費の支援やフレックスタイム制度の導入、さらには育児支援などの福利厚生を充実させることにより、従業員から見た企業価値が向上し、オフィスへの出勤をより魅力的にすることができます。このように、給与以外の報酬やサービスを戦略的に活用することで、従業員のニーズや期待に応えつつ、スタッフが長期的に企業に貢献し続けるための基盤を築きます。
トータルリワードとは、報酬、福利厚生、キャリアマネジメント、パフォーマンス評価、ワークライフバランスを包括した総合的な報酬パッケージのことを指します。
【トータルリワードの5つの構成要素】
- 報酬 従業員の仕事に対する金銭的な対価
- 福利厚生 健康保険や年金プランなど、現金報酬を補完するインセンティブ
- キャリアマネジメント 従業員のスキルやキャリアを発展させるための支援プログラム
- パフォーマンス評価 従業員の行動や業績をビジネス目標に向けて調整し、継続的な改善を促すプロセス
- ワークライフバランス 仕事とプライベートの両立を支援する取り組み
従業員のモチベーションにつながる魅力的な働き方とは?
今回取り上げた調査結果で明らかになった主な点は以下のとおりです。
- 日本では「完全出社」が71%と最も多い勤務形態であるものの、その中の40%は実際にはリモートまたはハイブリッド勤務を希望している
- リモートワークを望む主な理由は「時間節約」、「ストレス軽減」、「ワークライフバランス」
- オフィス勤務を魅力的にする要因として、食事手当やフレックスタイム制度が高く評価されている
次回の記事では、仕事にかかる経費について掘り下げて、特にリモートワークのコストに焦点を当てます。ぜひお楽しみに!
キャプテラの「2024年仕事に要するコスト調査」は、2024年3月に回答者2,716名 (米国n=250、カナダn=250、ブラジルn=244、メキシコn=245、英国n=248、フランスn=244、イタリアn=250、ドイツn=246、スペインn=246、オーストラリアn=248、日本n=245) に対してオンラインで実施されました。調査の目的は、リモートワークとオフィスワークにおいて、従業員が負担するコストを明らかにすることです。対象者は、各国の企業で正規・非正規問わず雇用されていることを条件に抽出しました。