複数国にまたがるチームはグローバルビジネスの成功に大きく貢献しますが、それには言語の壁や文化的な誤解といった課題も伴います。本記事では、国際的なチームワークを推進する企業が直面する具体的な課題と、それらを克服する方法を紹介します。
目次
デジタル化とグローバル化の二つの波により、企業はますます国境を越えて活動するようになってきています。キャプテラが昨年行ったグローバル化実態調査では、 約3割の中小企業が海外に拠点を設けていることが分かりました。また、海外出張が減少した理由として、コロナ禍の影響に加え、グループウェアやビデオ会議などのIT技術の利用増加が拍車をかけたことが明らかになりました。このような背景から、企業は分散型チームを活用して国際的に業務を行うケースが増えており、複数国にまたがるコラボレーションが重要になっています。
本稿では、キャプテラの「2024年コラボレーションと生産性に関するアンケート調査」の結果を基に、国際チームの運営における現状と課題に迫ります。この調査は、13カ国から6,490人のリモートワーカーおよびハイブリッドワーカーを対象に実施され、日本からは498人が参加しました (調査の詳細は文末参照)。前回のオンライン会議の運営に関する記事の続きとして、企業が国際的な共同作業の課題にどのように取り組んでいるか、そしてそれが業務プロセスにどう影響しているかを探ります。
日本の従業員、半数以上が国際的なコラボレーション「全くなし」
まずは全体像を把握する目的で、すべての日本在住の回答者に対して、国際的なリモートコラボレーションの現状と今後の見通しについて尋ねました。その結果、日本の社員が海外と共同作業を行う機会はまだ限られていることが明らかになりました。
海外に住む同僚との共同作業の頻度を質問したところ、大きく分けると27%が「月に1回以上」、17%が「年に1回以上」と回答しました。その一方で、56%の社員は海外と共同作業を「全くすることがない」と回答しており、これは調査を行った13カ国の中で最も高い割合となりました。
続いて、「月に1回以上」と答えたグループに対して、海外との共同作業の頻度が今後12ヶ月でどう変化するかについて質問しました。54%が「変わらない」と予想しており、28%が増加する、19%が減少すると回答しています。
国別に比較すると、国際コラボレーションに二極化が表れていると言えるでしょう (上記グラフを参照)。すなわち、国際的な共同作業がすでに活発な国々では、その傾向が継続あるいはさらに拡大することが予想されており、特にインドではコラボレーションの頻度 (「月に1回以上」が81%)、及びその増加予測 (「増加する」が66%)、共に高い水準を示しています。
しかし、日本のように国際的なコラボレーションが比較的少ない国では、増加に対する期待も低いことが明らかになりました。グローバルなビジネス環境で競争力向上を目指すなら、日本企業には思い切った改革が必要になることでしょう。次節では国際的なチームワークのメリットとデメリットを確認し、そうした改革のヒントを探ります。
国同士の差異だけではなく、日本の企業の間でも国際コラボレーションの頻度が高いほど、その増加の可能性が高くなっていることが分かりました。よって、一度遅れをとってしまうと時間が経つにつれ巻き返しを図ることが難しくなるリスクがあります。
以前ご紹介したように、政府や関連機関による海外展開支援は、特に中小企業のグローバル化の推進において重要な役割を果たしています。まずはこのような支援制度を確認すると良いでしょう。
海外スタッフとのリモートコラボレーションの長所・短所
引き続き、「月に1回以上」海外スタッフと共同作業を行う人を対象に、そういったグローバルコラボレーションのメリットとデメリットについて聞きました。その結果、「コミュニケーション能力の向上」や「新たな問題解決の視点」など、様々な利点が挙げられました。ただし、これらの利点を活かすためには、コミュニケーションの違いや文化的な誤解、言語の壁など、多くの課題を乗り越える必要があるとも指摘されました。こういったメリットやデメリットについて詳しく見ていきましょう。
国際チームワークのメリット
アンケートで挙げられた国際的なコラボレーションの主な利点は以下の通りです。
- コミュニケーション能力の向上 (34%) 国際的な環境で働くことで、多様なコミュニケーション手法を理解し、適応する能力が養われます。
- 新たな問題解決の視点 (25%) 異なる文化的背景を持つチームメンバーとの共同作業により、問題を多角的に捉え、新しいアイデアや解決能力が身につきます。
- 柔軟な仕事環境 (25%) 国際的な共同作業により、場所を選ばない柔軟な仕事スタイルが促進され、働き方の多様性が高まります。ただし、柔軟性が高い分、ワークライフバランスにも留意する必要があります。
- 交流・ネットワーキングの機会 (24%) 異文化間の交流は、プロフェッショナルな交流の機会を拡大し、相互理解を深める効果があります。
- 他の仕事文化への理解 (22%) 異なる国々の仕事文化を理解することで、国際的なビジネス環境に対応できる柔軟性が高まります。
国際チームワークの課題
一方、国際的なコラボレーションには以下のような課題も挙げられました。
- コミュニケーションスタイルの違い (37%) 異なるコミュニケーションスタイルや期待が、誤解やコミュニケーションの壁を生じさせる要因となります。包摂的な企業文化の確立と全社員への共有を通じて、そういった異文化間のコミュニケーションの壁を乗り越える手助けとなります。
- 文化的な誤解 (31%) 文化間の違いが誤解や意思疎通を妨げる原因となり、プロジェクトの進行に悪影響を与えることがあります。それを克服する効果的な手段として、社内研修プログラムに異文化理解ワークショップなどを組み込むことがおすすめです。
- 言語の障壁 (28%) 異なる母国語を話すことが効果的なコミュニケーションの障害となる場合があります。翻訳ツールの使用や言語学習支援プログラムを提供することで、この障壁を低減させます。
- 不規則な労働時間 (25%) チームメンバー間の時差によって、プロジェクトのスケジュール調整が困難になることがあります。この問題に対処するために、時差を考慮したスケジュール計画を立て、チーム全体の働きやすさを向上させることが重要です。
- 組織階層やチーム構造の違い (22%) 組織文化の差異が意思決定プロセスや責任分担の課題を引き起こすことがあります。オープンなコミュニケーションとフラットな組織構造を導入すことで、このような課題の解消につながります。
国際チームの会議に効果的なツールの利用 7割が肯定的
前述のコミュニケーションスタイルの違いや文化的な誤解、言語の障壁などの課題に対処するため、適切な戦略とツールの選定が重要となります。定期的に国際コラボレーションを行う回答者の間でも、大半は会議において効果的にSaaSなどのツールを活用していると報告しています。
具体的には、72%が自社で使用しているソフトウェアツールが国際ミーティングを効率的にしていると感じており、28%がこの見解に同意していません。
また、国際コラボレーションにおけるスケジュール管理の難しさも浮き彫りになっています。スケジュール管理が「難しい」(63%) または「非常に難しい」(8%) と回答した人は合わせて71%に上り、簡単だと感じているのは29%に留まります。
国際リモートコラボレーションにおけるプロジェクト管理には特有の難しさがあるものの、効果的なソフトウェアツールを活用することで、これらの課題を克服し、スムーズな国際会議を実現できる可能性も示されています。
分散型チームのスケジュール管理は大きな課題ですが、適切なテクノロジを活用することで軽減することが可能です。
- プロジェクト管理ツールの積極的な活用 プロジェクト管理ツールは、タスク割り当てから進捗確認、期限管理に至るまで、プロジェクトの全体像を一目で確認できる機能を提供します。それによって、異なる国や地域にいるチームメンバーの作業進行状況をリアルタイムで把握し、適宜調整を行うことができます。
- 効率的な会議を実現するためのソフトウェアの選択 効率的な会議用ソフトウェアは、ビデオ会議、リアルタイムのドキュメント共有、同時編集などの機能を通じて、遠隔地にいるチームメンバーとシームレスな共同作業を可能にします。
- コミュニケーションを円滑にするツールの導入 即時メッセージングやタスク管理機能を備えたコミュニケーションツールは、チームメンバー間の日常的なコミュニケーションを効率化し、誤解を防ぐ上で欠かせません。特に国際的な環境で活動する際には、翻訳機能が搭載されていると非常に便利です。
これらのツールを上手く組み合わせることで、時差や文化の違いによる課題を乗り越え、国際的なプロジェクトをよりスムーズに、そして効率的に進めることが可能になります。
多言語環境の職場における言語の壁の克服
技術の進歩により、国際的なコラボレーションは今後もさらに効率化され、円滑な運営が期待できます。しかし、依然として外国語話者の割合が低い日本企業では、言語の壁が特に問題になることがあります。本調査では、33%の回答者が異なる母国語を話す同僚がいることを報告しており (「多くいる」が6%、「数名いる」が27%)、これは13カ国中で最下位となりました。残りは、「全くいない」が53%、「分からない」が14%、という結果でした。
そこで、会社に外国語話者がいると回答した人に対して、会議中に言語の壁を克服するためにどのような対策を行っているか質問しました。最も多く挙げられたのは、日本語または外国語の「ネイティブスピーカーがゆっくり話し、俗語や方言などを避ける」ことで33%、次いで「プレゼンテーションに視覚的な補助を取り入れる」ことが31%でした。下図でご覧のように、これらの対策は全て約3割程度に留まっており、言語の壁への配慮が全体的にやや不足していることが窺えます。
適切な対策を実施することによって、異なる言語背景を持つ従業員間のコミュニケーション障壁を取り除き、より効果的なコラボレーションを実現できます。このような取り組みは、発言機会の平等を確保するだけでなく、すべての従業員の潜在能力を引き出し、チーム全体の生産性とコラボレーションを促進する上で極めて重要です。
- 会議の録画と字幕の追加 Web会議の録画に字幕を付けることで、非ネイティブスピーカーが内容を理解し、後から参照できるようになります。
- 画面共有の利用 会議中にプレゼンテーションやホワイトボードの画面を共有することで、視覚的な補助を加え、コミュニケーションの障壁を低くします。
- 質問の促進とチャット機能の活用 会議中に質問やフィードバックのための時間を確保することが重要です。質問を促すために、チャット機能の使用も効果的です。これにより、参加者は自分のペースでコミュニケーションを取りやすくなります。
まとめ
デジタル化とグローバル化の進展に伴い、国際的なチーム運営は企業活動において重要になっており、そのためには国境を越えたコラボレーションの課題を理解し、効果的な解決策を見出すことが求められます。本調査で、国際的なチームワークに関して明らかになったポイントは、下記の通りです。
- 国際的なコラボレーションの少ない日本 海外の同僚との共同作業が少ない日本の従業員ですが、すでに行っている場合は今後もその頻度が増加することが示唆されています。
- コラボレーションの利点と課題 コミュニケーション能力の向上や、問題解決に新しい視点をもたらす利点がある一方で、コミュニケーションスタイルの違いや文化的な誤解などの課題も存在する。
- ソフトウェアツールの効果 効果的な国際会議の実施にはソフトウェアツールが大きく貢献しており、多くの回答者がその利点を感じている
- 言語の壁 異なる母国語を話す同僚とのコミュニケーションは課題だが、適切な配慮とテクノロジ活用によって、より円滑なやり取りが可能になる
グローバルビジネスの競争力向上には、異なる地域や文化、言語背景を持つチームメンバー同士の効率的なコラボレーションは不可欠です。今後も、異文化理解の深化や適切なソフトウェアツールの活用がますます重要になるでしょう。
Methodology
キャプテラの「2024年コラボレーションと生産性に関するアンケート調査」は、2024年1月に回答者6,490名 (米国n=503、英国n=496、カナダn=499、オランダn=499、ブラジルn=501、インドn=500、フランスn=497、スペインn=401、ドイツn=497、イタリアn=500、メキシコn=500、オーストラリアn=500、日本n=498) に対してオンラインで実施されました。本調査の目的は、国境を超えたチームがリモートで共同作業を行う際に直面する課題を分析することです。対象者は、各国の企業で正規・非正規問わず雇用されていることを条件に抽出しました。