「世代別のDX意識調査」シリーズ第1弾では、職場におけるデジタルツールの利用とそのメリットや課題について、従業員の目線で解説。世代別の意識の違いから、望まれるデジタル化の方向性を探ります。

デジタルネイティブの時代で何が変わる

デジタル化の波がビジネスの世界に大きな変革をもたらしている現在、職場におけるSaaSやその他のデジタルツールの活用とその影響についての理解は避けられないものになっています。キャプテラが最近行った調査では、約6割の企業がソフトウェア購入で後悔を経験し、そのうちの半数近くがその判断ミスによって経済的影響を受けたことが明らかになりました。

その中で、若い世代が次第に組織の中核を担うにつれて、職場でのデジタルツールの利用に関して世代間の違いがあるのかどうかが気になります。デジタル技術に日常的に触れ、その利用に慣れ親しんで成長した「デジタルネイティブ」という概念が広まって久しいですが、作業管理から社内コミュニケーションに至るまで、業務用のSaaS・アプリケーションに対する意識にも果たして変化があるのでしょうか。この疑問に答えるために、今回キャプテラは「世代別のDX意識調査」を実施し、業務のデジタル化に対する会社員の実感と期待を世代別に分析しました。意外と思えるような結果も出たので、この調査報告シリーズをぜひご覧ください。

第1弾として、この記事ではデジタルツールの利点と課題について掘り下げ、次回では業務でのデジタル化の進行状況や求められるサポートに焦点を当てます。調査対象は仕事で日常的にパソコンを使用する会社員とし、1,027人の有効回答を得ました (調査実施方法の詳細は文末に記載されています)。

世代別デジタル意識を比較する意義とは?

本調査の目的は、18歳以上66歳未満の企業従業員 (正規・非正規問わず) を対象に、世代によるデジタル技術に対する意識の違いを明らかにすることです。そのため、回答者を出生年を基に以下の4つの世代に分類しました。

  • しらけ世代・バブル世代 (1950年〜1969年生まれ) この世代グループは調査参加者の30% (308人) にあたり、ほとんどは大人になってからデジタル環境に接するようになりました。
  • 団塊ジュニア・ポスト団塊ジュニア世代 (1970年〜1982年生まれ) 32% (329人) を占めるこの世代は、デジタル化の発展を体験し、橋渡しの役割を果たしてきました。欧米のジェネレーションX (X世代) とほぼ一致します。
  • ミレニアル世代 (1983〜1995年生まれ) デジタル技術の登場と共に育ったこの世代は、調査参加者の25% (255人) にあたります。
  • Z世代 (1995年以降生まれ) この世代は13% (135人) を占め、デジタル技術が身近な環境で育った、真のデジタルネイティブです。

このように、世代によってデジタル技術に対する経験や接触の度合いが異なります。したがって、企業の主要な従業員層がデジタルネイティブへと移行していく中で、各世代の特徴を把握することはDX戦略を考える上で非常に役に立つものとなるでしょう。

デジタルスキルにますます依存する業務遂行:Z世代の40%が「抵抗あり」

DX (デジタルトランスフォーメーション) 推進への機運が高まる現在、ビジネス環境はテクノロジとより密接に統合する方向へと進んでいます。調査に参加した会社員もこのような変化を感じており、42%が業務遂行能力が「デジタルツールの使いこなし」に依存していると回答しています。

【質問】仕事の遂行能力は、デジタルツールの使いこなしに依存してきていると感じますか?        

  • はい  42%
  • いいえ 29%
  • わからない 30%

このようにデジタルツールへの依存度が高まっていると答えた人を対象に、そうした現状に対する抵抗感についてさらに質問しました。半数以上が「あまり抵抗はない」(52%) または「全く抵抗がない」(14%) と回答し、大抵は現状を受け入れている傾向があります。ただし、抵抗感が最も強いのは意外にも若い世代であることが判明しました。

デジタルスキルににますます依存する業務遂行

「非常に抵抗がある」と「やや抵抗がある」を合わせて、Z世代の4割がデジタルスキルにますます依存する状況を受け入れ難いと感じています。ただし、これは必ずしもデジタルツールを苦手としていることを意味するのではなく、インターネットを使いこなして育った若い世代こそ、デジタルスキルを相対化して捉えている可能性を示唆しています。

このような予想外の結果は他のアンケート項目でも見られます。次に、リモートでの業務遂行に関する結果を見てみましょう。

7割以上が仕事をリモートで行うことができない

DXツールを利用することにより、仕事の場所や時間を柔軟に選べるというメリットがありますが、調査対象者に自分の業務をリモートで遂行できるかどうかを尋ねました。若い世代にリモートワークへの傾向がわずかに見られるものの、仕事をリモートで行えないという意見が全世代にわたって7割を超えています。

業務を完全にリモートで行うことができるか

この結果は、職場での対面作業が依然として重要であることを示しており、グローバルな視点で見ると日本の企業文化の特殊性が浮き彫りとなっています。つまり、先述したデジタルツールへの依存に対する抵抗感の背景には、デジタル化を適切に適用できない業務がまだ多く存在するという現状があると言えるでしょう。デジタル化を推進する際には、新しいツールをむやみに導入するのではなく、そのツールのメリットとデメリットを社内でしっかりと理解し、共有することが大切な第一歩となります。この点については、次節でさらに詳しく見ていきます。

仕事のリモートワーク化の国際比較

キャプテラでは、今回の調査と同様のアンケートをオーストラリア、ブラジル、スペイン、ドイツ、メキシコでも実施しました。結果として、これらの国々では職務を完全リモートで行えると考える人がいずれも5割を超えています。

あなたの仕事は完全にリモートで実行できると思いますか?

【日本】
・はい 27%
・いいえ 73%

【オーストラリア】
・はい 53%
・いいえ 47%

【ブラジル】
・はい 58%
・いいえ 42%

【スペイン】
・はい 59%
・いいえ 41%

【ドイツ】
・はい 52%
・いいえ 48%

【メキシコ】
・はい 68%
・いいえ 32%

日本と他国との差異については、日本の職場文化や業務の性質、技術インフラの特異性などの要因が考えられますが、詳しくは以前行った「働き方の柔軟性に関する意識調査」をぜひご参照ください。

デジタルツールの使用におけるメリットと課題

デジタルツールは業務効率化、コミュニケーションの改善、新しい働き方の実現などに大きく貢献していますが、どのような課題を引き起こしているのでしょうか。ここでは、職場でのデジタルツールの使用に関連する主なメリットと課題について、従業員の意見をまとめました。回答には世代にかかわらず共通の傾向が見られ、主な結果は以下の通りです。

デジタルツール使用の主なメリット

  • ペーパーレス化 (38%) 特にシニア層の間で多く挙げられています (しらけ世代・バブル世代の42%)。資料管理の効率化や環境への配慮が重視されている一方で、電子帳簿保存法の改正やインボイス制度による取引データの電子化推進も影響を与えていると考えられます。文書管理システム電子署名ツールなどは、従来の紙ベースのプロセスをデジタル化する上で大きな助けとなります。
  • 効率性の向上と時間の節約 (35%) デジタルツールを用いることで作業の迅速化やプロセスの合理化が促され、業務の効率が大きく向上します。これは、特に反復作業や時間を要するプロジェクト管理などで顕著な効果が見られます。
  • 生産性の向上 (29%) デジタルツールの導入により、業務の質も量も向上し、データ分析や意思決定の効率化につながり、全体としての生産性が高まることが期待されます。この点は主に団塊ジュニア・ポスト団塊ジュニア世代およびミレニアル世代が重視しています (それぞれ29%、34%)。生産性向上ソフトプロジェクト管理のツールは、このような効果をトラッキングするのに役立ちます。
  • 職場環境の快適性向上 (24%) 柔軟で快適な職場環境は、従業員のモチベーションと仕事への満足度を高める重要な要因となります。デジタルツールを活用することで、オフィスだけでなく在宅勤務でも効率的に業務を進めることができるようになります。
  • タスク管理の容易化 (24%) デジタルツールの利用により、タスクの割り当てや進捗管理が簡素化され、業務の透明性と効率が向上します。この点は特にZ世代が評価しており、29%がメリットとして挙げています。

デジタルツールの使用における主な課題

  • 従業員間の使用格差 (33%) デジタル技術の知識や経験に関する格差が大きな課題であり、世代が上がるほどこの問題を重視する傾向があります。職場内での均等なデジタルリテラシーを確保するためには、異なる世代や知識レベルの従業員間で知識を共有し、互いに助け合うためのメンタリングシステムの導入が有効です。
  • 習得の難易度 (32%) 特に団塊ジュニア・ポスト団塊ジュニア世代でこの懸念が顕著です (36%)。新しい技術やシステムの習得には時間と努力が必要であり、継続的な研修やサポートの提供が求められます。
  • デジタルツールの必要性に対する理解不足 (24%) デジタル化の重要性やメリットが十分に理解されていないことが課題となっており、教育と啓蒙活動の強化が必要です。
  • 新しいツールや機能の頻繁な追加 (23%) 新機能が頻繁に追加されると、従業員がそれに対応するために多大な時間と労力を要します。そのため、日常業務の中で新しい技術を習得することがより困難になり、効率的な業務遂行に影響を与える可能性があります。学習管理システム (LMS)などを活用して、可能な範囲で社内教育を業務に取り入れると効果的です。
  • 新しいツール導入に対する従業員の抵抗 (21%) 新しいツール導入に対する抵抗や不安は、変化に直面した際の一般的な課題です。従業員が新たな環境にスムーズに適応できるようにするために、導入プロセスにおける丁寧な説明と充分なサポートが重要になります。ソフトウェア利用の効率を高め、導入プロセスを効果的にするデジタルアダプションプラットフォーム (DAP) の活用も検討するとよいでしょう。

デジタルツールを積極的に活用することで、効率化と生産性向上を図り、組織の競争力を高めることができますが、それは同時に従業員に新技術の習得や適応、デジタル格差の克服という挑戦をもたらします。これらのメリットと課題を把握し、適切にバランスをとることは、職場でのデジタルトランスフォーメーションを成功させる上で不可欠です。会社としては、DXツール導入時に従業員の意見を聞きながら、現場で直面する課題を理解し、適切なトレーニングやサポートを提供することが重要となります。

職場で求められるデジタルツールの活用領域

デジタルツールの導入は技術的な進歩にとどまらず、働き方や企業文化に大きな影響を及ぼし、職場環境を形成する上で重要な役割を果たしています。この観点から、「会社でどの分野でデジタルツールの導入を増やしてほしいか」と質問したところ、タスク管理、手続きの自動化、効果的な時間管理など、日常業務の質と効率を高める分野が最も重視されていることが明らかになりました。なお、世代による回答のばらつきはほとんどなく、全世代を通じて一貫した傾向が見られました。

会社に導入を増やして欲しいデジタルツール

上記の領域でデジタル化を進めるだけでも、業務の効率化や生産性の向上が期待でき、それが従業員の働きやすさにつながるでしょう。また、これらの分野には多様なSaaSサービスが存在するため、小規模な企業であっても簡単に導入が可能です。手頃な価格設定 (場合によっては無料) から始めて、必要に応じて機能を拡張していくこともできます。

主要分野で活用できるツールの種類

まとめ

今回は、職場におけるデジタル化への移行に関する従業員の意識が明らかになりました。デジタルツールの活用は効率性や生産性の向上、ペーパーレス化など多くのメリットをもたらす一方で、従業員間の使用格差や習得の難易度といった課題も顕在化しています。

また、職務でのデジタルスキルへの依存について、若い世代ほど抵抗感があることが分かり、このような世代間の違いを理解し、従業員の多様なニーズと課題に対応する必要性が示唆されています。次回の記事では、世代間の意識の差異についてさらに掘り下げて、実際の業務でのDX状況、デジタルツールに関する研修希望、サポートの必要性などのトピックを取り上げますので、ぜひお読みください。

プロジェクト管理のSaaSをお探しでしたら、キャプテラの タスク管理ツールのリストをぜひご覧ください。


本記事シリーズは、キャプテラが行った「世代別のDX意識調査」の結果をまとめたものです。調査は2023年8月にオンラインで実施され、全国の企業に勤める従業員1,027名から有効回答を得ました。以下の条件を満たす方を対象としました。

  • 日本在住者であること
  • 18歳以上、66歳未満であること 
  • 従業員数2名以上の企業に勤めていること (正規・非正規問わず)
  • 仕事で日常的にパソコンを使用していること

なお、本文で言及されている国際調査も同時期に実施し、次の有効回答数を得ました:オーストラリア (1,029人)、ブラジル (1,024人)、スペイン (987人)、ドイツ (991人)、メキシコ (1,009人)。