絶えず変化するビジネス環境の中で、社内教育の役割はますます重要になっていますが、オンライン学習の活用はどの程度進んでいるのでしょうか?キャプテラの調査を基に、オンライン社内教育の最新のトレンドについて探ります。

データから見るオンライン社内教育の最新トレンド

仕事の在り方が変わってきている昨今、企業には従業員の新しい教育ニーズに応える責任があります。その中で、リモートワークやデジタルワークプレイスの普及により、テクノロジを活用した人材育成に取り組むことが重要になってきています

この記事では、職場でオンライン学習プログラムを利用している1,022人の従業員を対象にした調査結果に基づき、企業内でのオンライン教育の現状を探ります (調査の詳細は文末に記載)。LMS (学習管理システム) などのツールやサービスの活用を中心に、現代の教育課題にどのように対応されているかを確認し、生成AIの影響を含め、これからの能力開発やキャリア形成について考察します。

社内教育における学習方法の現状

現代のダイナミックなビジネス環境において、社内教育はより柔軟で、よりIT技術を活用するものへと急速に進化しています。従来の対面式の教育とeラーニングを組み合わせた「ブレンド型学習」の台頭も、多様なニーズに応える必要性の表れです。今は情報化社会ゆえ、必要とされる技能や知識も常に変化しており、労働者にはこれまで以上に柔軟な適応力と学び続ける能力が求められるようになっています。

加えて、デジタル技術の進歩により、スキルアップを支援する多様なツールが次々と登場しています。オンライン学習は、地理的な制約にとらわれず、人材育成に役立つ豊富なコンテンツを提供し、一貫性のある教育体験を実現します。さらに、キャリア形成や能力開発の目標に沿って、社員一人ひとりのキャリアパスや学習スタイルに合わせた教育が可能になります。

従業員が望む職場での学習方法

このような背景を踏まえ、本調査ではまず、職場での望ましい学習方法について尋ねました (回答は3つまで選択可)。その結果、「自由な受講期間で学べるオンライン授業」が圧倒的に多く挙げられ、従業員は自分のスケジュールに合わせて柔軟に学習できることを重視していることが分かりました。

  • 自由な受講期間で学べるオンライン授業 (52%) 録画された講義や、自分のペースで進められるオンデマンドのコースを含みます。eラーニング作成ツールを使用することで、コースをカスタマイズして開発することができ、受講者も学習ペースを設定することができます。
  • 対面式の講義やワークショップ (28%) 従来型の対面授業や実地研修は、体験的な学習では不可欠な手法であるため、オンラインでは代替できない場合もあります。
  • ブレンド型学習 (27%) 対面学習とオンライン学習を組み合わせた方法です。多様なリソースを活用しながらも一貫性のある学習体験を提供することが重要で、学習管理システム (LMS) などのツールの活用が効果的です。
  • 時間固定制のオンライン授業 (25%) ライブのウェビナーや、スケジュールが決まっているオンライン講義などが含まれます。ウェビナーソフトには、Q&A、投票、共同作業などのインタラクティブな機能があり、学習者の積極的な参加が促されます。
  • インフォーマルな学習 (24%) 同僚から学んだり、自習したりすることは、相互学習や実践的な学習に役立ちます。グループウェアなどのコラボレーションツールは、このプロセスをオンラインで可能にし、組織内での知識共有やピアツーピア学習を促進します。
  • オンザジョブトレーニング (24%) シャドーイング、コーチング、メンタリングなど、実践に基づく様々な体験学習が含まれます。メンタリングシステムを導入することで、自社独自のメンタリングプログラムを提供することができます。
  • 資料の閲覧 (24%) 書籍、記事、研究論文などの学習リソース。ナレッジベースを利用すれば、社内の学習資料を整理し、アクセスしやすくなります。

企業で導入されている学習システム

企業が取り入れている学習システムを見ると、社内で独自に学習プログラムを開発する傾向が顕著に現れます。ただし、各学習システムにはそれぞれの特徴やメリットがあり、これらをきちんと理解した上で自社の教育方針に合うかどうかを判断することが大切です。続いて、「あなたの会社では、社内教育にどのような学習システムを利用していますか? 」という質問に対する回答結果を見ていきましょう。

社内で独自に設計・開発したコース

回答者の51%が、自社で教材開発や研修設計を行っていると答えています。この方法では、自社の業務ニーズ、ビジネス戦略、企業文化になどに合わせて人材育成プログラムをカスタマイズすることができます。

一般公開型のオンライン教育プラットフォーム

34%は外部のオンライン教育プラットフォームを利用しています。これらのプラットフォームは、多種多様なトピックに関する幅広いコースを提供しており、使いやすさと柔軟性が特徴です。コース開発に多くのリソースを投じることなく、従業員に幅広い学習機会を提供したい場合には有益な選択肢です。

LMS (学習管理システム) プラットフォーム

24%の企業ではLMS (学習管理システム) プラットフォームが導入されています。社内で開発されたコースに比べるとカスタマイズ性は劣るかもしれませんが、LMSシステムは標準化された構造を持ち、拡張性に優れたソリューションとなります。主な機能には、学習者の進捗状況の追跡、学習成果の評価、教育コンテンツの管理と配布などがあります。

外部の企業・教育機関に依頼して作成したオーダーメイドのコース

回答者の24%がこの方法を挙げています。コンテンツがカスタマイズされることと、外部の専門家から学べる利点を併せ持っています。社内のリソースだけでは提供できないような専門的な知識や技能を身に付けるには、この方法が適しています。

従業員は職場でのオンライン学習についてどう考えている?

学習方法の好みや利用状況について紹介してきましたが、続いて従業員が具体的に「なに」を学んでいるのか、つまり研修の種類や学習内容について見ていきましょう。

オンライン社内研修の種類に関する最近の傾向

職場のオンライン教育プログラムで、「最近受講したコース」の種類について尋ねたところ、「コンプライアンスや必須研修」が最も多い回答でした。以下の図は、それぞれの回答の割合を示しています。

従業員が受けるオンライン社内研修の種類

コンプライアンス研修への参加率が高いのは、企業が法的問題や職場の安全性に重きを置いていることを反映しているのでしょう。リモートワーカーを含む全従業員が把握すべき内容を扱っているため、この種の研修は会社にとって重要な取り組みとなっています。

一方で、他の種類の社内研修に関しては推進・強化の余地があることが示唆されています。例えば、特定の業界固有の知識・技能育成専門能力開発は、市場動向や組織の変化に対応するために継続的なトレーニングが必要です。また、オンライン学習システムを使えば新入社員に対して早い段階で研修を行うことが可能となり、オンボーディングにも大いに役立ちます。さらに、多くのプラットフォームではIT技術講座語学講座など、様々な既成コースが用意されているため、企業がこうした分野の研修を教育プログラムに組み込むことは比較的容易と言えます。

オンライン学習に対する高い満足度と効果実感

さて、従業員はこういったオンライン学習環境をどのように評価しているのでしょうか。調査によると、大多数は現在使用中のオンライン学習は、自分の職務に合っていると感じているようです。67%が「ある程度合っている」、17%が「非常に合っている」と回答しています。キャリアや職務に関連した学習目標に対しても、73%の従業員がオンライン学習が「ある程度応えている」と感じ、19%は「大いに応えている」と考えています。

これらの結果は、職場におけるオンライン学習システムが満足度と効果実感の面で肯定的に受け入れられていることを示唆しています。次に、オンライン学習のメリットや課題に焦点を当てて掘り下げていきましょう。

オンライン学習のメリットと課題

本調査では、多くの従業員がオンライン学習の自由度を高く評価していることが明らかになりました。特に、自分のペースで学習を進められることや、受講時期を自由に選べるという柔軟性が、オンラインコースの主な利点として挙げられています。

オンライン学習ツールを使用する主な利点

オンライン学習システムは、個々のペースに合わせて進められる柔軟性があり、これが大きな魅力です。しかし、その効果を最大化するには、動機付けの要素を取り入れ、コース内容が学習者の仕事や興味に合致していることが重要です。社員がどのようなコンテンツを学びたいのか、どのような学習方法を好むのかを把握するためには、フィードバックを収集する調査ツールを利用すると良いでしょう。

一方で、オンライン学習でのスキル向上の妨げになるものについて尋ねたところ、意欲の欠如が大きな問題として浮き彫りになり、回答者の約34%がこれを挙げています。これは、オンライン学習の孤立感や、コース内容と学習者の興味・仕事のニーズとの不一致が原因かもしれません。

オンライン学習でスキルアップの妨げになる要因

また、それぞれ3割の人が「オンライン学習に割く時間が足りない」「現職では教育の優先度が低い」と感じています。これは、仕事とスキルアップのバランスの難しさを示しています。このような障壁を克服するためには、学習者のユーザーエクスペリエンスを改善し、研修内容の適切性を常に確保することが必要です。

従業員が求める研修・トレーニング

効果的な研修プラットフォームを実現するには、モチベーション向上のための要因を考慮しつつ、研修内容が職務と密接に関連していることが重要であることが分かりました。しかし、会社に提供してほしい研修の内容について尋ねたところ、従業員の間で専門能力開発 (44%) とIT技術スキル (40%) への関心が高いことが明らかになりました。特に、後述するAIを含む新技術の出現により、企業が重視すべき潜在的な分野が浮かび上がっています。

会社に提供して欲しい研修・トレーニングの内容

さらに言いますと、魅力的な社内教育プログラムを用意することは、今日の人材獲得競争の中「選ばれる会社」になるための鍵かもしれません。実際に、もし転職するとしたら、回答者の52%がオンライン教育制度を持つ企業に「おそらく」応募し、13%は「間違いなく」応募すると答えています。企業はこの点を念頭に置き、人材を惹きつける戦略を練るべきでしょう。

転職先をオンライン学習の有無で選びますか?

AIがスキル開発に与える影響

ChatGPTやBardのような生成系AIツールの台頭は、様々な業界に変革をもたらしていますが、スキル開発への影響も注目されています。Webコンサルタントの中山陽平氏は、キャプテラの最近の記事で、中小企業で意思決定を行う立場ではAIに触っていないという選択肢はあり得ないと指摘し、このトレンドの重要性を強調しています。

従業員の間では、AIはチャレンジであると同時にチャンスでもあると認識されています。生成AIの発展に伴い、スキルを磨く必要性を感じている人は47%にのぼる一方で、34%は生成AIのツールはスキルアップに影響を与えないと考えています。また、9%はAIによって業務処理が効率化されるため、逆にスキルを磨く必要性が減ると答えました。

これらの回答者のうち48%は、業務で生成AIの利用が増えていることから、新たなスキルの習得や向上を検討しています。一方で、43%はスキル開発に関する考え方を変えていません。

新たなスキルの習得に関心を示した人の中で、最も重要視されたのは分析スキル (65%)、生成AIツールの活用スキル (43%)、プログラミングのスキル (36%) でした。

AI時代に必要な主要スキルとは?

プログラミングのスキル AIの進歩に伴い、エンジニアでなくてもコーディングの基本を理解することが求められています。このため、アルゴリズムをある程度コーディングまたは修正できるスキルは重宝されます。さらに、生成AIの支援により、プログラミングは一般の人にも身近になりつつあり、多様な業務プロセスにおいてAIの活用が進むことが期待されます。

分析スキル これには、データや情報の分析能力、リサーチ能力、問題解決能力が含まれます。AI主導のビジネス環境では、データを解釈し、そこから意味のある情報を抽出する能力がとても重要になります。このようなスキルがあれば、複雑なデータセットやAIが生成した情報に基づいて、適切な意思決定を行うことができます。

生成AIツールの活用スキル 生成AIツールを適切に理解し、効果的に活用するためには、プロンプトエンジニアリングなどの手法を用いて、生成AIシステムから望ましい結果を引き出す能力が必要です。この技術をマスターすることで、様々な用途でAIツールを効率的に使いこなし、生産性やイノベーションを促進することが可能になります。

まとめ

今回の調査では、社内教育におけるオンライン学習の活用に関して、柔軟性と職務との関連性が重要なポイントであることが明らかになりました。eラーニングはその利便性と効率性で評価されていますが、同時に、従業員がより積極的に関わり、キャリア目標に合わせた学習内容も求められています。

また、職場でのAIの普及が進む中、継続的な学習と適応能力の向上がより重要視されています。生成AIが業務プロセスに統合されるにつれ、その技術を適切に活用するためのスキルがますます需要が高まることでしょう。

学習管理システムをお探しですか?キャプテラのLMSのリストをぜひご覧ください。


本記事は、キャプテラが行った「企業におけるキャリア中心の教育に関する調査」の結果をまとめたものです。調査は2023年8月11日から21日までの間にオンラインで実施され、全国の企業に勤める従業員1,022名から有効回答を得ました。以下の条件を満たす方を対象としました。

  • 日本在住者であること
  • 18歳以上、66歳未満であること
  • 従業員数2名以上の企業に勤めていること (正規・非正規問わず)
  • 職場でオンライン学習が利用可能で、実際に利用していること