SaaSやソフトウェアの選定ミスは企業に長期的な損失をもたらす可能性があります。キャプテラの最新調査では、SaaS導入の「後悔」の実態とその回避策を明らかにします。
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近年、クラウドサービスの普及やデジタルトランスフォーメーションの推進により、企業が利用するソフトウェアやSaaSサービスの数と種類が増え続けています。ガートナーの発表によると、日本のエンタプライズIT支出は2022年から2026年まで年平均4.6%の成長率が見込まれ、2025年には30兆円を超えると予測されています。
このような状況の中、特に中小企業の管理職やIT購入担当者にとって、業務のデジタル化に向けたソフトウェア・SaaSの選択は重大な課題です。ソフトウェアを一旦導入すると途中で変更することは難しく、初期段階での選択ミスは長期的な損失に繋がりかねません。また、SaaSツールを増やすことで管理が複雑になるため、関係者同士の連携とコミュニケーションが、統一した購入方針を策定する上で重要になってきます。そこでキャプテラでは、全国の企業でソフトウェア購入の意思決定に携わる350名を対象にアンケート調査を実施しました (調査の詳細は末尾に記載)。本記事では、その調査結果をもとに、「購入者の後悔」の現状と、SaaS導入の失敗を回避するためのポイントを解説します。
企業の現状:堅調な成長を予測しながらも、人材の確保に課題
2022年度の売上が最大1,500億円の企業を対象としたこの調査では、ソフトウェア投資の決定に関わる経営者や従業員からの回答を集めました。回答者の大部分はマネジメント層や中間管理職で59%を占め、経営層やトップマネジメントが27%、専門職や一般職が14%でした。これらの意思決定者は、自社の将来の展望や主要な課題についてどのように考えているのでしょうか。
今後18ヶ月の業績に関して、63%が「成長する」または「成長が加速する」と予測しており、27%は「現在と変わらない」と見込んでいます。すなわち、大半の企業は堅調な成長を予測しています。しかし、2024年の主要な課題としては、30%が「有能な人材の確保」、29%が「従業員のスキルアップやトレーニング」を挙げており、人材関連の課題が顕著でした。その他の課題としては、「新規顧客や取引先の獲得」が29%、「効果的なプロジェクト管理」が24%、「テクノロジーの適切な導入」が23%と続いています。
これらの課題を踏まえ、次節ではソフトウェアの導入の現状とその評価について詳しく見ていきましょう。
キャプテラの以前の調査で明らかになったように、離職を防ぎ従業員を確保し続けるためには、「良好な社内雰囲気」「勤務時間の柔軟性」「信頼される企業」の3つのポイントが挙げられます。
CRM、人事管理、LMSが主要導入製品
デジタル化が進む現代において、購入されるソフトウェアの種類や選定方法は、企業の経営戦略を反映していると言えるでしょう。ここではまず、過去12ヶ月での主要な導入製品と、それ以前から利用されている製品の動向を分けて確認しましょう。
過去1年間で新たに導入されたソフトウェアのトップ3は、「顧客関係管理 (CRM)」(回答者の47%)、「人事管理・タレントマネジメント」(47%)、そして「LMS (学習管理システム)」(46%) でした。これは、先に挙げた2024年における課題とも関連しており、企業が顧客との関係強化や人材の育成・教育に特に力を入れていることが分かります。一方で、以前から導入されているソフトウェアでは、「経理・財務会計」が38%、「ITセキュリティ」が35%、「スケジュール管理」が31%と、基本的な業務サポートツールが広く利用されていることが分かりました。
また、ソフトウェアの選定は、十分な時間をかけて慎重に行われていることも明らかになりました。選定期間については、回答者の44%が4~6ヶ月を要しており、次いで1~3ヶ月が32%、7~9ヶ月が13%と続きます。
ソフトウェアの購入を検討する際、ベンダーリストを常に作成する企業が44%、時々リストを作成する企業が37%と、合わせて8割以上の企業が体系的なSaaS選定を実施しています。そのうち、ベンダー選定の情報源としては、製品レビューや比較サイトが26%で最も多く、製品トライアル (25%)、カスタマーレビュー (25%)、ベンダーのWebサイト (24%)、ベンダーによるプレゼンテーション (24%) も同程度に利用されています。
ソフトウェアやSaaSの導入は、単に製品を選ぶだけでなく、様々な情報の収集と慎重な検討を必要とするプロセスです。製品の特徴や機能が自社のニーズに合っているか、利用のメリット・デメリットは何かなど、正確な情報を収集することは購入決定に大きな影響を与えます。そのため、情報源の信頼性を見極めることが重要になってきます。過去のカスタマーレビューの意識調査の記事をご覧いただくと参考になるでしょう。
9割が購入に満足:製品の機能とベンダーの迅速な対応が高評価
選定プロセスの成否を示す重要な指標として、ソフトウェア購入後の満足度が考えられます。続いて、企業が最後に購入したソフトウェアをどのように評価しているかを詳しく見てみましょう。
最後に購入したソフトウェアに対する満足度を尋ねたところ、90%の意思決定者が満足している結果となりました。具体的には、「非常に満足」が29%、「やや満足」が61%を占め、「非常に不満」を感じている人は全体の1割に留まっています。
さて、このような高い満足度を生み出している要因は何でしょうか。満足していると回答した人に、製品を高く評価する理由を尋ねました。その結果、1位に挙げられたのは「機能」で、71%の回答者がそれを重視しています。次に「使いやすさ」が56%、「価格に見合う価値」が54%と続き、製品の機能と効果が依然として最も重要な要素であることを示しています。
一方、製品を提供するベンダーに対する評価に関しては、「応答の速さ」が65%で最も高く、次いで「カスタマーサポート/テクニカルサポート」が60%、「オンボーディング/導入」が42%となっています。
ソフトウェアの機能性は導入成功において重要となるため、製品を選ぶ際には特にこの点を考慮することが求められます。また、問題が発生した際の迅速な対応と解決能力は、良質なサポートの証であり、これも選定時の重要な検討材料と言えるでしょう。
約6割が過去1年半で購入したソフトウェア製品に後悔あり
多くの企業が最近のソフトウェア購入に満足していることが分かりましたが、失敗するケースも存在します。次に、IT製品購入時の「後悔」の現状を紹介し、それを回避する方法を解説します。
全回答者に対して、過去1年半の間に購入したIT製品について後悔しているかどうか尋ねた結果、約6割が何らかの後悔を経験していることが明らかになりました。具体的には、回答者の26%が1件の購入に対して、33%が複数件の購入に対して後悔しています。
続いて、その後悔の内容を掘り下げていきましょう (以降は、「後悔している」と答えた人を対象に質問)。後悔の主な理由として、31%はコスト総額が「予想よりも高かった」こと、30%は「既存のシステムとの互換性がない」ことを挙げています。さらに、28%は必要な機能の不足や技術的な導入の難しさを指摘しています。
適切なソフトウェア選択の失敗は経済的なダメージをもたらす可能性があります。購入の誤りによる財務上の影響について尋ねたところ、49%が影響は「最小限」と回答しましたが、46%は1年以上の財務業績への大きな影響を感じており、5%は影響が「非常に大きい」と述べています。それによって生じる問題の中で最も多く挙げられたのは、ソフトウェア導入の費用が過剰にかかること (44%) と、従業員が最終的に新しいソフトウェアを使用しないこと (36%) でした。
- 目標と結果の明確化 ソフト購入で後悔を経験した意思決定者のうち、34%が目標と求められる結果を明確にすることで失敗を避けると考えています。KPIツールを導入することで、企業の達成目標を設定し、結果を追跡することができます。
- コミュニケーションの改善 33%は、ステークホルダーとのコミュニケーションの円滑化が必要だと感じています。これは、コミュニケーションツール、グループウェア、プロジェクト管理ソフトを活用することで達成することができ、チームが一丸となって同じ方向に進めるようになります。
- 評価/選択基準の整合性 29%が組織内で評価や選択基準についての整合性を確保することが重要だと考えています。意思決定支援システムなどを活用することで、情報を視覚化し、比較検討が容易になるため、より正確な判断を行うことができます。
56%は来年も同じ程度のソフト支出
企業のDXが推進される中、SaaSとソフトウェア投資の予算の確保が気になる点です。全回答者に対して、2023年と比較した2024年のソフトウェア支出の予想を尋ねたところ、36%は自社が支出増を計画していると答え、57%は同程度の支出と回答しました。支出を減らす予定の企業は7%程度に留まり、デジタル化の重要性が依然として高いことが示されています。
2024年のソフトウェア投資の優先順位について質問したところ、ITセキュリティが最も高い優先度を持ち、27%がこれを投資先と考えています。続いて、販売管理は21%、IT管理は19%、経理・財務会計は18%の優先度を示しています。また、マーケティングやBI、データ分析、グループウェアは、それぞれ14%の優先度で投資される予定です。
- セキュリティの強化 セキュリティへの懸念が最も大きな課題として挙げられています。最新のセキュリティ技術やベストプラクティスを取り入れることで、その不安を軽減することができるでしょう。また、ワークショップなどを通じて従業員のセキュリティ意識を高めることもおすすめです。
- 既存システムとの互換性 新しいソフトウェアを導入する際には、既存のシステムとの互換性を確認することも重要です。事前にテスト環境を設け、実際に互換性を確認することで、導入後のトラブルを避けることができます。
- 社内スキルの向上 ソフトウェアを効果的に管理するための社内スキルが不足している場合、定期的な研修やトレーニングを実施することで、スキルアップを図ることができます。特にソフトウェアベンダーが提供するトレーニングを活用することがおすすめです。
まとめ
本稿では、多くの企業がテクノロジー投資に関して後悔を経験していることが分かりました。このような後悔を避けるためには、まず自社のニーズと課題を明確に理解することが大切です。複数のベンダーや製品を総合的に比較・検討し、契約内容や納期を必ず書面で確認するようにしましょう。また、導入後には効果測定を行い、定期的なメンテナンスやトラブルへの緊急対応をしてくれるベンダーを選ぶと安心です。
本記事は、キャプテラが行った「2024年テクノロジートレンド調査」の結果をまとめたものです。この調査は、ソフトウェア購入に係るプロセス、企業の課題、導入方法や予算、ベンダーに対する情報収集行動、ROI期待値、満足度、そしてそれらが購入後の後悔とどのように関連しているかを理解することを目的としていました。
アンケートは2023年7月にオンラインで実施され、米国、英国、カナダ、オーストラリア、フランス、インド、ドイツ、ブラジル、日本の各国から、様々な業界と規模の企業 (従業員5名以上) に従事する3,484名の有効回答を得ました (うち日本からは350名)。回答者は、ソフトウェア購入決定に関与していることを条件に抽出しました。