スマートフォンアプリは、さまざまな利便性をもたらしており、多くの利用者にとっては日常生活に欠かせない存在となっている。しかし、実際に人々はどのようにアプリと関わっているのだろうか。キャプテラの調査でアプリの利用実態が明らかに。

スマートフォンはここ数年で急速に普及しており、全世帯の88.6%がスマホを保有してると報告されています。これらのデバイスを操作するためのモバイルアプリケーション (アプリ) は、日常生活に欠かせない存在となってきています。決済や生産性の向上、SNS、娯楽など、アプリは私たちとテクノロジとの関わり方に革新をもたらしました。また、アプリ開発関連のツールやサービスが市場に登場したことで、あらゆる規模の企業がアプリを通じてサービスを提供することが容易になりました。このようなデジタルの民主化が進むことにより、企業と顧客との関係性が変化しており、2030年までに全世界で410億ドルに達すると予測されている巨大なアプリ市場が形成されています。
このダイナミックな環境において、アプリを提供する企業が直面する課題と機会を理解することは非常に重要です。その理解を深めるために、キャプテラは日常的なアプリの利用状況と傾向を明らかにする調査を実施しました。本記事では、モバイル向けアプリケーションの日常的な利用者からの1,009件の有効回答をもとに、その調査結果の一部を紹介します。調査方法の詳細については、文末に記載されています。
利用頻度に基づくアプリの3類型
アプリの利用頻度にはかなり個人差がありますが、本調査では、ユーザーが合理的なアプリ体験を求める傾向が明らかになりました。大半のユーザーはスマホにあまり負荷を掛けることなく、4割は20〜40個という適度な数のアプリをインストールしています。さらに、ユーザーの32%はアプリ数を20個未満に抑えています。
インストールするアプリが慎重に選ばれている状況の中で、アプリの利用頻度は、ユーザーにとってのアプリの価値やユーザーのエンゲージメントを示す重要な指標となります。つまり、どのアプリがユーザーの日常生活と密着に関わっているのか、どのアプリが一時的ではあるが重要な役割を果たしているのか、などを知ることができます。
利用頻度に関する回答から、アプリを大きく3つのカテゴリに分けることができます。すなわち、「日常利用アプリ」、「単発利用アプリ」、「低利用アプリ・ニッチアプリ」です。
【カテゴリ化方法】
設問 調査参加者にコミュニケーション、音楽、教育、交通など、22種類のアプリを提示した上で、それぞれの利用頻度を尋ねました。
選択肢 6つの選択肢から回答を選んでもらい、その回答を以下の通り組み合わせて3類型に分けました。
- 日常利用アプリ:「1日10回以上」と「1日に1~10回」の回答を組み合わせ
- 単発利用アプリ:「週6回未満」と「週1回未満」の回答を組み合わせ
- 低利用アプリ・ニッチアプリ:「インストールしているが使っていない」と「該当なし (インストールしていない)」の回答を組み合わせ
各カテゴリで最も多く選択された上位5つのアプリを抽出し、その結果をまとめました。
1. 日常利用アプリ:SNS、動画、ニュース
このカテゴリで最も多く挙げられているのは、いわゆるスーパーアプリ (日本の場合は、次回詳しく見るLINEとPaypay) に加えて、個人向けコミュニケーションアプリ、動画ストリーミングアプリ、そしてニュースと情報のアプリです。多くのユーザーが日常的に利用しているこれらのアプリは、企業が利用者とつながるための重要な手段としても機能しています。もちろん、このような大掛かりなプラットフォームを開発しなくても、ターゲット広告やコンテンツ配信を通じてこれらのアプリを活用することが可能です。ただし、ユーザーの関心とエンゲージメントを維持するには、一貫したパフォーマンスと定期的な更新が必要です。
- スーパーアプリ 64%
- メール 62%
- SNSソーシャルメディア 52%
- ニュースと情報 48%
- 動画ストリーミング 40%
2. 単発利用アプリ:買い物、料理、ナビゲーション
このカテゴリのアプリは、特定の目的を果たしたり、一時的なニーズに利用されることが多いです。主に、サポートが必要な単発的な作業に使用されます。オンラインで買い物する時に使われるショッピングアプリがその一例です。時期や状況によって利用が変動することもあります。例えば、ショッピングアプリは休日やセールス時に利用が増えるかもしれませんし、マップやナビゲーションアプリの需要は旅行中や通勤時に高まるでしょう。このようなアプリは、ユーザーの日常生活の一部ではないとしても、必要とされるときにその価値と利便性を発揮します。そのため、アプリ提供者にとっては、ユーザーの特定のニーズや生活スタイルを理解し、それに対応することが極めて重要となります。
- マップとナビゲーション 60%
- ショッピング 56%
- 写真と動画 51%
- 電子決済 44%
- コミュニケーション (音声/テキストメッセージ) 41%
3. 低利用アプリ・ニッチアプリ(健康、娯楽、教育)
3つ目のカテゴリには、回答者の間であまりインストールされていない、または頻繁に使用されていないアプリが含まれています。多くの場合、個々の趣味、好み、目標、またはニーズに関連するアプリケーションであり、一般的にはニッチな市場を示しています。この領域で事業を展開する際には、各ニッチユーザーの関心やニーズを理解することはもちろん、魅力的でパーソナライズされた体験を提供することでユーザーエンゲージメントを向上させることができます。一方で、これらのアプリケーションの使用頻度の低さは、需要と供給の間にギャップが存在する可能性を示しており、慎重な市場調査を行った上で新たなソリューションを開発する機会があるかもしれません。
- 教育 86%
- フィットネス 74%
- 読書 73%
- 健康とウェルネス 70%
- 旅行とチケット 69%
「ニッチ」市場へのアプローチ
一般的なトレンドを理解することで、アプリ利用の全体像を把握することができますが、ニッチ市場も注目に値します。一部のアプリは大きなトレンドの中で目立たないかもしれませんが、熱心なユーザー層を持ち、企業にとって魅力的なターゲットになる可能性があります。例えば、音楽ストリーミングアプリやポッドキャストアプリは、一般の人にはあまり利用されていないかもしれませんが、実はこのようなコンテンツを頻繁に楽しむ大きなニッチ市場が存在します。
キャプテラの調査では、年齢層による違いも明らかになりました。18歳〜25歳の回答者の半数以上 (57%) が、音楽ストリーミングアプリを「日常利用アプリ」に位置付けていますが、36歳以上の大多数はこのタイプのアプリをインストールしていない、または使用していないと回答しています。同様に、ゲームアプリは35歳までの回答者の38%~39%が毎日使用していますが、この割合は65歳以上では9%に減少します。
異なるユーザー層の習慣や好みを把握することは、アプリ内でターゲットを絞ったマーケティング戦略を実施する際に役立ちます。
アプリを選ぶ決め手:必要性と機能性
アプリをダウンロードする頻度については、回答者の大多数 (53%) が年に数回またはそれ以下で新しいアプリをダウンロードすると回答しています。これは、新しいアプリを探す際に慎重で、適度な関心を持っていることを示しています。月に数回新しいアプリをダウンロードする回答者は23%で、週に1回以上新しいアプリをダウンロードする回答者は8%でした。
新しいアプリケーションを発見する最も一般的な要因は、必要性と機能性でした。回答者の最も多いグループ (32%) は、ホテルの予約や食事の注文など、特定のニーズが発生したときにアプリを検索すると回答しています。次に多かったきっかけは、ニュースや記事の情報 (29%)、家族や友人からの口コミ (24%) で、アプリの探し方について、メディア報道や個人的なつながりに重きを置いていることが明らかになりました。
新しいアプリをダウンロードする理由の上位も、必要性と機能性に関連していました。ほとんどの回答者は、新しいアプリをダウンロードする主な理由として「必要に迫られたから」(45%) を挙げ、「アプリの機能性」を重視する回答者 (42%) が僅差で続いています。
ところで、ユーザーはアプリをダウンロードする際に何か見返りを期待しているのでしょうか?端的に言えば、答えは「NO」です。つまり、アプリをダウンロードする際に重視する特典について尋ねたところ、「何らかのメリットを得るためにアプリケーションをダウンロードしているわけではない」という回答が最多でした。ただし、一部には、何らかの割引や、早期入手などの特典を求めるユーザーもいます。

アプリのエンゲージメント強化
顧客とのつながりを深めたい中小企業にとって、アプリの立ち上げは戦略的な選択肢となります。しかし、そのためにはユーザーエンゲージメントを高めることが重要です。上記のような戦略をとることで、飽和している市場においても、自社アプリを選んでもらう確率を高めることができます。さらに、限定的な特典などを提供することによって、利用者のユーザー体験 (UX) を向上させ、既存の顧客を維持するのにも役立ちます。
アプリを削除する理由「不要になったから」が75%
新しいアプリケーションのダウンロード行動を見ることで、ユーザーの好みや期待を知ることができます。しかし、同様に重要なのは、ユーザーがなぜアプリケーションを削除するのかを理解することです。これにより、利用者満足度やアプリケーションの有効性、そして改善すべき点が明らかになります。
アプリの削除頻度を聞いたところ、回答者の大半 (59%) が年に数回しかアプリケーションを削除しないと答えました。さらに、32%がアプリを全く削除しないと回答しました。これは、既存のアプリをキープする傾向、またはアプリケーション管理に対して消極的な態度を示しています。
アプリを削除しない人を除いた回答者の75%が、「アプリが不要になったから」という理由で削除したと回答しました。この結果は、必要に迫られてにアプリをダウンロードするという前述の傾向と一致しています。ユーザーがアプリに対して高い期待を抱いているため、そのニーズを満たせなかったり、問題に対処できなかったアプリに対しては許容度が低いことを示唆していると考えられます。

効果的なモバイルアプリの作り方
1. パフォーマンスとユーザー体験を優先する
27%のユーザーが、動作の遅さや不具合の多さが原因でアプリを削除しています。APMツールやバグ追跡システムを使ってアプリを最適化し、問題が生じた場合は迅速に対処するようにしましょう。
2. 通知や広告でユーザーを圧倒しない
過度な通知や広告が原因でアプリを削除した回答者は、それぞれ14%と11%でした。バランスを取ることで、ユーザーを圧倒することなく、ユーザーエンゲージメントを維持することができます。
3. アプリサイズの最適化
30%のユーザーは、メモリを過剰に使用するアプリを削除しています。これを防ぐためには、アプリのサイズを最適化しましょう。例えば、アンドロイドではその最適化の方法が詳しく紹介されています。
4. 競争力を維持する
20%のユーザーは、より良いアプリを見つけた際に、古いアプリを削除しています。定期的な市場調査と顧客満足のフィードバック収集は、アプリがユーザーのニーズと期待に常に対応できるようにするために重要です。
5. プライバシーとセキュリティを優先する
削除の理由として挙げられた割合は低いものの、プライバシーとセキュリティ対策に焦点を当て続けることは、ユーザーの信頼を獲得し、アプリのリスクと安全対策についてユーザーを教育するために必要不可欠です。
72%は「有料アプリを入れていない」
スマホアプロは生活に欠かせない存在となっていますが、その持続可能性を保つためには、収益化を考慮しなければならない企業も少なくありません。しかし、ユーザーはアプリやサブスクリプションにどの程度まで支払うのでしょうか?ここでは、その点を明らかにしましょう。
現在利用しているアプリの中で、一度の購入で利用できる買い切り型アプリの割合について尋ねたところ、大多数のユーザー (72%) が有料アプリをスマートフォンにインストールしていないと回答しました。また、同程度の割合のユーザーが「有料のアプリは使用したくない」(75%) と回答しており、アプリにお金を払っても良いと考えるユーザーの中では、「150円~500円」が妥当な価格だと回答したのが過半数を占めています (12%) 。
この調査結果から、ユーザーは大きな付加価値がない限り、アプリにお金を払うことには消極的であることが窺えます。ほとんどのユーザーは無料またはフリーミアムのアプリを好み、支払う意思があるユーザーも低価格帯のアプリを選ぶ傾向があります。
【「支払いの壁」の克服】
「支払いの壁」は、投資に対するリターンを必要としている企業にとって大きな課題となります。続いて、このハードルを乗り越えるのに役立つ戦略をいくつか紹介します。重要なのは、こうした戦略をユーザーのニーズやビジネスゴールに合わせることです。
バリュープロポジション アプリが提供するユニークなメリットや価値を明確に伝えることです。自社のアプリが有料である理由、その支払う価値を、潜在的なユーザーが簡単に理解できるようにしましょう。
無料トライアルまたはサンプル 無料トライアルまたはサンプルを提供することで、ユーザーにアプリの価値を直接体験してもらいましょう。これにより、アプリにお金を払うことのリスクを軽減することができます。
ロイヤリティプログラムまたは紹介インセンティブ ユーザーのロイヤリティや新規ユーザーの紹介に対して報酬を与えることで、継続的な使用とクチコミマーケティングを促進します。
最適化された価格設定と支払い方法 ターゲットユーザーに最適なものを見つけるために、さまざまな価格設定モデルや支払い方法を試してみましょう。A/Bテストや価格最適化ソフトのようなツールは、これらの要素をテストし最適化するのに役立ちます。
おわりに:生活を改善するツールとしてのアプリ
アプリの利用動向を常に把握し、それに基づいて戦略を適応させることで、アプリ提供者はスマホユーザーの変化するニーズや好みを活用することが可能となります。例えば、日常利用アプリの場合、ユーザーエクスペリエンスの向上と定期的なアップデートの維持が重要となります。一方、単発利用アプリや、低利用アプリ・ニッチアプリの場合、ターゲットに焦点を当てたマーケティング戦略と独自の価値提案の強調に注力することが求められます。
今回の調査結果は、アプリの開発とマーケティングにおいて、機能性と特定のユーザーニーズへの対応の重要性を示しています。調査レポートの後編では、スーパーアプリの重要性の増大について掘り下げていきます。
本記事は、当社が実施した「スマートフォン向けアプリやスーパーアプリの利用に関するアンケート調査」の結果をまとめたものです。調査期間は2023年6月1日〜27日、全国のアプリユーザーに対してオンラインで実施しました。有効回答数は1,009人でした。以下の条件に合致する方を対象としました。
- 日本在住者であること
- 18歳以上、66歳未満であること
- モバイル向けアプリケーションを日常的に (週に複数回以上) 利用する「アプリユーザー」であること