日本の中小企業のグローバル化に関する調査の第2回では、国際的な人材の採用や社内での外国語の使用、デジタルツールの導入など、組織内での国際化に焦点を当てます。

この2回シリーズの第1回では、海外で事業を展開している中小企業の51%が、新規の海外進出または海外取引を検討していることがわかりました。ただし、国際事業を効果的に推進していくためには、企業の組織体制もそれに見合ったものに変える必要があります。これはいわば「内なる国際化」とも言えるものであり、企業が法的・文化的・社会的な多様性を受け入れることを意味します。結果として、複数拠点に分散したチーム向けのリモートワークツールや、多言語環境に対応するための翻訳ツールなど、多様なデジタル技術の活用が不可欠となります。
今回は、海外で事業を展開している企業において、組織レベルでの国際化の度合いについて詳しく見ていきます。調査対象は、自社の国際事業に関与している経営層、管理職 (ここでは「意思決定者」と称す) で、255名の有効回答を集計しました。調査方法の詳細については、文末をご覧ください。
国際展開する中小企業の40%が外国人を採用
日本は他の先進国と比べて、人口に占める外国人の割合が低いという特徴があります。それに対応するために、政府は外国人材の誘致に取り組んでおり、日本人学生が他言語、異文化を学ぶための留学プログラムも実施しています。
下の図からわかるように、中小企業意思決定者の40%が自社で外国人を採用していると回答し、4分の1は外国語を話す日本人や、海外で暮らした経験のある日本人を雇用しています。

これらの割合は比較的高いように見えますが、いくつか留意点があります。
まず、回答者の30%が国際的な人材を全く採用していないと答えており、海外で事業を展開している企業としては高い割合だと思われます。
また、自社で外国人を雇用していると答えた人に対して、これらの外国人が全従業員数の何割を占めているかを尋ねたところ、大多数 (82%) が1割以下であると回答しました。外国人が全従業員の31%以上である企業は4%に留まりますが、関東地方だけを見ると9%となっています。当然かもしれませんが、外国人の雇用率は外国籍者人口と相関していることが示唆されます。
一方、予想されるように、外国人従業員の国籍は企業が最も取引の多い国とほぼ一致しています。前回記事では、中国が最大の取引先国であることが明らかになりました (45%の回答者が同国でビジネス展開)。次いでアメリカ (36%)、韓国 (25%) と続きました。同様に、外国人を採用している企業のうち、外国人従業員の主な国籍が中国であると答えたのが47%で、次にアメリカ (25%)、ベトナム (21%)、韓国 (19%) の順となりました。
すべての意思決定者に対して、外国人を雇用する際の最大の課題は何だと思うかを尋ねたところ、40%が「文化の違いによるコミュニケーションの課題」と回答し、次いで「ビザや労働許可などの手続きの煩雑さ」(25%)、「言語の壁」(24%) と続きました。
外国人雇用の課題を解決する方法
- 国籍に関係なく、全従業員に異文化理解のオリエンテーションやトレーニングを行い、尊重あるコミュニケーションの基準を明確に設定すると良いでしょう。職場で多様性と包摂性の文化を育てることで、企業の強みに変えることができます。
- 入管法や労働法の専門家からアドバイスを受けることも大切です。ビザなどの書類手続きを簡素化すれば、外国人雇用のハードルが下がります。
- 多言語対応のツールやプラットフォームの利用を通じて、言語や文化の垣根を超えたコミュニケーションを図ることができます。
外国語を最も多く話せる部署は「営業」
日本語は我が国でしか公用語として使われていないので、海外取引には外国語の使用が不可欠だと言えるでしょう。それにもかかわらず、今回の調査結果によると、国籍に関係なく外国語を話せる従業員の割合は、中小企業の中ではあまり高くないのが現状です。回答者の半数以上 (54%) が、自社で日本語以外の言語を話せる人は「1%〜10%」であると推定しています。2番目に多いのは「11%〜20%」で、19%でした。
ただし、他言語を使う必要性は業務によって異なることも明らかになりました。次の図からわかるように、言語能力を持つ従業員が最も多い部署は営業部で、次いでマーケティング部と開発部となっています。

「社内公用語」としての英語
英語公用語化のメリットについては10年以上も議論されてきましたが、いくつかの有名企業がそれを導入したことで話題になりました。最近では日本に国際的な人材を呼び込む必要性から、再び議論が活発になっているようです。
当社の調査によると、中小企業の導入率はまだ非常に低く、回答者の5%だけが自社で適用されていると答えています。残りのうち、78%が英語を社内公用語にすることを「検討していない」と答えており、15%が「現在検討中」、8%が「過去に検討したことがある」と答えています (端数処理のため、数字の合計が100%になりません)。
また、現在英語を社内公用語としていない人のうち、半数以上 (54%) は英語公用語化に「賛成しない」一方、22%が「賛成する」と答えました (24%は「どちらでもいい」)。
社内公用語として英語を導入することは、言語の壁を克服し、多国籍スタッフのコミュニケーションを促進するだけでなく、国際的な人材を魅了し、グローバル市場へのアクセスを容易にするなど多くの利点があります。しかし、英語化への移行が適切に行われない場合、組織内での摩擦や誤解を招く可能性があります。英語力に自信がない従業員は、コミュニケーションの問題に直面したり、孤立したりすることがあります。このような状況を回避するためには、従業員向けの言語研修やサポートを提供し、新しい言語環境に適応するまでの過程で寛容な理解を示すことが重要です。
DXと国際化:7割が会議ツール導入
多くの企業がDX (デジタルトランスフォーメーション) を取り入れることで生産性と効率を向上させようとしていますが、国際化に関連する業務に関しても例外ではありません。このような流れの中で、機械翻訳は重要な技術として台頭してきており、さまざまなビジネスSaaSと共に活用されています。それでは、これらの技術が回答者にとってどのような意義があるのか見てみましょう。
機械翻訳の普及
Google翻訳、DeepL、Microsoft Translatorといった機械翻訳サービスは、異なる言語を話す人々のコミュニケーションギャップを埋めるための必須のツールとなっています。かつては翻訳の誤りやニュアンスの違いへの懸念がありましたが、これらのサービスが大きく進化した結果、翻訳の精度は飛躍的に向上しています。
回答者に対して、自社で一般的に使用している翻訳サービスは何かを尋ねました。機械翻訳が46%でトップであり、次いで外部の翻訳・校正サービスが29%でした。部署別では、言語使用に関する質問と同様に、営業部門が圧倒的に機械翻訳を使用している割合が高い結果となりました。機械翻訳ソフトを使用していると答えた人のうち、57%が自社の営業部で使用していると回答し、マーケティング部 (21%) や開発部 (19%) を大きく上回りました。営業チームが言語能力と翻訳ツールを駆使することで、さらに多くの顧客と繋がりを持ち、コミュニケーションの障壁を乗り越えることが可能になります。この結果、営業活動の中心である「深い人間関係」の構築が促進されるでしょう。
他に役立つビジネスSaaS
ビジネスの国際化に翻訳ツールは重要ですが、コミュニケーションギャップの解消、リモートワーカーの共同作業の支援、複数拠点にまたがるプロジェクトの把握などには、他のツールが必要になります。
国際ビジネスを展開する際に活用しているビジネスSaaSについて尋ねたところ、最も多く挙げられたツールは、コロナ禍で盛り上がりを見せたテレビ会議アプリケーションでした。回答者が挙げたSaaSのランキングは下記の通りです。
- 会議ツール 70%
ビデオ通話や会議、カンファレンスを行うことができるアプリケーション - グループウェア 25%
ファイル共有、コメント機能、編集、バージョン管理などの機能を備えた、他の人とプロジェクトを共同で進めるためのツール - クラウドストレージ 24%
オンラインでファイルやデータの保存、アクセス、共有ができるサービス - CRMツール (顧客管理システム) 22%
顧客や見込み客との関係を管理するためのソフトウェアで、連絡先管理、営業パイプライン、マーケティングオートメーション、分析機能を備えている - プロジェクト管理ツール 11%
タスクリスト、カレンダー、ガントチャート、レポートを通じて、プロジェクトやタスクの計画、整理、追跡を支援するツール
最後に、企業のSaaS選択において、文化的・言語的な要因がどの程度影響を与えているのかを探りました。この点について、回答者の38%はベンダーの国籍に特にこだわりがないと回答しました。しかし、日本製のSaaSを好む傾向が顕著に現れ、58%の回答者が可能な限り日本製のソフトウェアを選びたいと述べました。一方で、外国製のSaaSを積極的に選ぶと回答した人はわずか3%にとどまりました。
調査対象の意思決定者が挙げた国産製品の上位3つの強みは、信頼性 (49%)、充実したサポート (46%)、日本語対応 (36%) でした。このような強みが、国内ベンダーを好む要因となっていると同時に、ソフトウェア投資を検討する際に考慮すべき要素を示唆しています。例えば、カスタマーサポートの有無とその質、既存のシステムやプロセスとの互換性・連携性、ユーザーの期待、各国の法的制約などが検討事項となります。

しかし、特に自社がグローバルな環境で事業を展開している場合、あるいは展開する予定がある場合には、国外の製品を検討する価値があるかもしれません。海外製のソフトの中には、優れた機能と柔軟性を持ちながら、手頃な価格で購入できるものが多くあります。また、他国の顧客やビジネスパートナーとの連携や協力に役立ち、異なる視点や革新的なアイデアに触れることができるかもしれません。したがって、ソフトウェア製品を選ぶ際には、製品の「国籍」の枠を超えて、機能や付加価値を客観的かつ総合的に評価することが重要です。
まとめ
今回は、日本の中小企業のグローバル化について、組織内の国際化の観点から紹介しました。調査の主な結果は、人材面で国際的な性格を持つ企業が多いものの、世界基準で見ると国際人材の採用率はそれほど高くないということです。さらに、英語をはじめとする外国語の使用は営業部門など特定の部門に限られており、ビジネスソフトウェアの使用に関しては、海外ベンダーよりも国内ベンダーが優先されていることがわかりました。これらのことから、日本の中小企業がグローバル市場で成功するためには、文化・言語の多様性やDXの分野で改善の余地があることが示唆されました。自社の将来像を描いた上で、上記の要素を検討してみてはいかがでしょうか。
本記事は、当社が実施した「日本の中小企業のグローバル化実態調査」の結果をまとめたものです。調査期間は2023年3月28日〜4月3日、全国の中小企業に勤める経営者や役職者に対してオンラインで実施しました。有効回答数は255人でした。以下の条件に合致する方を対象としました。
- 日本在住者であること
- 18歳以上、66歳未満であること
- 2〜250人規模の中小企業の経営者、役員、または係長職以上の役職者であり、自社の海外事業を把握していること
- 会社については、2023年4月の時点で設立してから4年以上経過していること
注:本記事で紹介された製品は、各機能の例として取り上げられており、勧誘・推奨を意図したものではありません。掲載されている情報は、掲載時に信頼できると判断された情報源から入手されたものです。