よりグローバル化する経済環境の中で、海外展開は企業にとって重要な戦略のひとつとなっているが、様々な課題やリスクも伴います。本稿では、日本の中小企業における国際化の状況について調査した結果を紹介します。

中小企業のグローバル化

国内の市場規模が年々縮小傾向にある中、海外市場へのビジネス展開を視野に入れる企業が増え続けています。また、デジタル革命により、中小企業はリモートデスクトップソフトウェアやVPNなど、国際化の取り組みを支援する様々なツールやリソースを利用できるようになりました。しかし、原材料・部品の供給不足や円安をはじめとする最近の経済の混乱は、多くの企業の国際化計画に影響を及ぼしているのではないでしょうか。

こうした動向を踏まえ、キャプテラでは、中小企業の国際化の現状について、事業展開と組織体制の両面から調査を実施しました。255名の中小企業の経営層、管理職 (以降、「意思決定者」と称す) を対象に調査を行い、その結果を2回に分けて紹介します。今回はまず、「海外事業展開の現状」について説明します。調査対象者は、自社の海外事業に携わっている、またはある程度把握している人に限定されています。調査方法の詳細については、文末をご覧ください。

日本の企業の強み: 「品質管理」と「高い技術力」

海外事業には様々な種類がありますが、それぞれのメリットや課題が異なります。そこで、まずは調査対象者の会社がどのような形態で海外ビジネスを展開しているのかを尋ねました。下の表にあるように、「海外の企業と取引をする」が64%と圧倒的に多く挙げられています。

海外事業展開の形態

越境ECは販売拡大手段として注目を浴びていますが、今回の調査で「ECで海外向け販売している」と回答したのは12%に留まっています。ネット通販が盛んな小売業などの分野でも、同様の割合です。海外からのインターネット注文を受けることが容易になってきたにもかかわらず、各国の関税への対応や配送の問題などにより、越境ECの導入をためらう企業もあるのではないでしょうか。

また、回答者の多くは、海外展開を進める上で最も重要な要因は「海外ビジネスパートナーとの関係構築」と「市場調査・分析能力」であると考えており (各47%)、次いで「戦略立案・実行能力」(46%) が僅差で挙げられました。

一方、海外展開を進める上で最大の課題としては、「市場情報の不足」が32%、次いで「法律・税務・規制などの複雑さ」、「人材の確保」がともに31%となっています。

海外展開の課題を克服するためには?3つのヒント

  • 市場情報の不足 JETROや中小企業基盤整備機構などの公的機関や専門家が提供する海外市場の動向やレポートを参考にし、また、個別相談やセミナー、マッチングサービスに参加する。
  • 法律・税制・規制の複雑さ 現地で信頼できる法律事務所や会計事務所に相談することが重要。また、商工会議所、販売代理店、生産パートナーなどとも連携を図る。
  • 人材の確保 自社内で国際人材を育成するために、語学や専門知識の教育、ビジネスマナーの研修を行う

従来より日本はIMD世界競争力年鑑などにおいて、高い研究開発力と高品質な製品が評価されています。今回の調査でも、中小企業の意思決定者の間で同様の認識の傾向が見られました。海外市場において、日本企業が持つ主な強みは、「徹底した品質管理」(59%)、次いで「高い技術力」(58%)、「細やかなアフターサービス」(36%)であると回答しています。

最大の取引先国は中国、さらなる展開先は?

中国が日本にとって最大の貿易相手国であることはよく知られていますが、今回の調査結果からも、日本の中小企業は主にアジア市場で活躍していることがわかります。調査対象者の中で最も注力している海外市場は中国がトップで、45%の人が自社がすでに進出していると答えました。次に取引の多い市場は米国で36%、3番目は韓国で25%でした。

また、この調査では、すでに海外展開している中小企業の51%が、これから新規の海外進出または海外取引を検討していることが明らかになりました。29%はそういう計画はないと回答し、20%はまだ決めていないと答えました。これらの数字から、不確実性が増している昨今の世界経済情勢にもかかわらず、日本の中小企業は海外事業に積極的であることがわかります。

海外進出を考えている人の中で、米国を主要な市場として見ている人が39%もいました。次に多かったのは中国で22%、タイで17%でした。日本の中小企業は様々な海外市場に目を向けており、北米やアジアでのさらなる拡大に関心が高まっているようです。

中小企業の事業展開先国・地域

海外売上高が増えたのは1/3

続いて、海外展開の目的と成果に着目して、企業がグローバル市場で直面する課題と機会を探ります。

海外展開する主な目的として最も多く挙げられたのは「売上高拡大」(64%) であり、「新規顧客獲得」が35%、「競争力強化」が29%でした。ただし、売上の観点から見ると、海外市場より国内市場への依存度が極端に高いのが現状です。2022年度の総事業における海外売上高の割合を聞いたところ、最も回答の多い割合が「約1%〜5%」でした (28%)。一方で、海外ビジネスで相対的に成功している企業もあります。回答者の31%が、海外売上高が総売上高の21%を超えていると回答しています。

2022年度の海外売上高が前年度より増加したとする回答が33%、減少したと答えた人が33%、変わらなかったと答えた人は28%でした。これから考えられることは、海外市場は日本の中小企業に「チャンス」と「課題」の両方をもたらしていることでしょう。したがって、関心のある海外市場についてよく調べて、可能性やリスクをしっかり見極めた上で、適切な戦略や対策を実施することが重要です。

64%コロナ前と比べて海外出張が減少

海外出張の目的や回数を知ることで、国際化するときにどんなコミュニケーションやコラボレーションが必要なのか、またテクノロジがどう役立てられるかを理解することができます。

この調査でわかったことは、3年前と比べて、中小企業の海外出張が減少傾向にあることです。意思決定者の64%が海外出張が減ったと答え、9%が増えた、21%が変わらなかったと回答しました。新型コロナウイルス関連の出入国規制が緩和されたとはいえ、出張だけでなく海外旅行全般が伸び悩んでいるのが実情です。訪日外国人旅行者数の増加とは対照的に、円安や運賃値上げなどの不安要素から、日本人の海外旅行者数の回復が遅れています

また、海外出張が減少したと答えた人に対して、その主な理由を尋ねました。最も多く挙げられたのは「新型コロナウイルス感染症の影響」(75%) で、2番目には「オンライン会議などのIT技術の利用により、出張の必要性が減った」(42%) ことを挙げています。やむを得ない事情でテクノロジを活用するようになった企業が多いかもしれませんが、その結果、出張の必要性を感じる人も減少しているようです。

デジタル技術で出張を代替する方法

出張の目的の一部は、デジタル技術でカバーすることができます。以下、よく使われる方法のいくつかを紹介します。

  • 会議、打ち合わせ ビデオ会議システムはコロナ禍によって人気が高まり、様々な場面で有効であることが証明されています。さらにチャット、投票、ホワイトボードなどのツールと組み合わせることで、参加者同士のコミュニケーションやコラボレーションを深めることができます。
  • セミナー、イベント コロナ禍の影響で、多くのイベントがオンラインプラットフォームに移行し、参加者はよりアクセスしやすく、柔軟かつ安価な方法で参加できるようになりました。ウェビナーなどのオンライン会議ツールでは、チャットルームやグループ分け機能を通じて、人脈作りや情報共有の機会も提供されています。
  • 現場視察 バーチャルツアー作成ソフトを使用することで、物理的に立ち会うことなく、リアルで没入感のある視聴体験を実現します。製品やサービスの紹介、施設や設備の検査、監査や評価の実施に利用できます。
  • 市場調査 今日の市場調査では、オンラインアンケートやウェブ解析、ソーシャルメディアリスニングなどのデジタル技術を活用することが多くなりました。現地の調査者と協力する場合は、グループウェアを使ってデータを共有したり報告書の下書きを作ったりできます。

行政の海外展開支援に満足は62%

燃料価格の高騰や不安定な世界情勢など先行きが不透明な中、行政の海外進出支援は、中小企業の国際化を促進・強化する上で重要な役割を担っています。

経済産業省の外郭団体である中小企業庁のほか、JETROや中小企業支援機構、さらには東京都中小企業融資制度などの自治体レベルの支援制度など、様々な機関が中小企業の海外進出を支援する制度を設けています。

海外進出の検討や準備のために行政の支援を受けたことがあるかという質問に対して、過去に受けたことがあると答えた意思決定者はわずか18%で、66%は受けたことがなく、15%は「不明」と回答しています。

しかし、過去に公的支援を受けたことがある人の中では、「とても満足している」と「満足している」を合わせて62%が満足と回答し、6%が満足していない結果となりました (残りの32%は「どちらとも言えない」と回答)。

引き続き支援を受けたことのある企業関係者に対して、国際化・海外展開に役立つ支援について質問したところ、次のような結果となりました。

  • 「海外展示会やセミナーへの出展支援」(51%)
  • 「海外進出に必要な情報提供」(38%)
  • 「ビジネスマッチングやマーケット調査支援」(34%)
  • 「補助金や助成金の案内や申請支援」(32%)
中小企業が希望する海外展開支援

最後に、今後、国からの支援を受ける場合、どのような支援があれば便利か、全回答者に列挙してもらいました。上図にあるように、「補助金や助成金の案内や申請支援」(41%) と「海外進出に必要な情報提供」(40%) が上位を占めています。

これらの結果から、中小企業は行政の支援を高く評価していることがわかります。しかし一方で、支援が十分に活用されていない現状があり、このようなプログラムの認知度・理解度を高める必要があることが示唆されました。また、企業の希望やニーズに合わせて支援を提供することで、得られるメリットがさらに増すと考えられます。

まとめ:海外展開に必要な心得

日本の中小企業は、品質や技術という強みを持っており、海外市場での販路や顧客基盤の拡大に意欲的であることが分かりました。しかし、国際化のプロセスには市場情報の不足や法規制の複雑さ、人材の確保など、いろいろな問題や困難もあります。グローバル市場でさらなるチャンスをつかむためには、これらの課題に慎重に向き合いながら、解決策を実行することが必要です。次回は、社内の「組織的な国際化」について説明します。

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本記事は、当社が実施した「日本の中小企業のグローバル化実態調査」の結果をまとめたものです。調査期間は2023年3月28日〜4月3日、全国の中小企業に勤める経営者や役職者に対してオンラインで実施しました。有効回答数は255人でした。以下の条件に合致する方を対象としました。

  • 日本在住者であること
  • 18歳以上、66歳未満であること
  • 2〜250人規模の中小企業の経営者、役員、または係長職以上の役職者であり、自社の海外事業を把握していること
  • 会社については、2023年4月の時点で設立してから4年以上経過していること