今日、急務とされている建設DXを実現するためには、様々なソフトウェアを活用して、多角的に効率化を図ることが必須です。しかし、「自社に適したツールをどのように選び、組み合わせればいいのか悩んでいる」という声も多く聞かれます。本記事ではその方法を説明します。施工管理システムの導入検討は、その第一歩になるでしょう。

1. 建設DXの重要性
近年、あらゆる業界でDX (デジタルトランスフォーメーション) が推進されていますが、とりわけ建設業界では、企業の規模によらず、その実現が急がれています。背景には、以下のような建設業界特有の課題があります。
「働き方改革関連法」への対応
建設業では長時間労働が常態化していますが、時間外労働の上限を規定する「働き方改革関連法」が2024年4月から建設業にも適用され、政府は長時間労働の是正、給与・社会保険、生産性向上の3つの分野に大きく分けて明確な施策を打ち出しています。
このような中、建設分野において業務のデジタル化や自動化が進められることで、労働時間の削減と労働環境の改善、業務の生産性向上などが期待されています。
高齢化と人材不足
国土交通省の調査によると、建設業では高齢化が他業界よりも急速に進行しており、高齢者の離職とともに人材不足が一層深刻になることが予測されています。
建設業DXは、これらの問題を解消するだけでなく、ヒューマンエラーの削減、安全性の向上にもなり、建築業界をより幅広い層を惹きつける魅力ある業界にすることにもつながります。
建設業DXを実現するためには、目的に合ったソフトウェアを選び、組み合わること、すなわち優れた技術スタックを構築することが欠かせません。これまでの記事で述べてきたように、技術スタックの構築の仕方については、人事管理の技術スタック、プロジェクト管理の技術スタック、製造業向け技術スタックなど、業種や業界によって留意する点があります。本記事では、建設DXを実現するための技術スタックの構築方法と建築業向けのツールを紹介します。
2. 建設DXを実現するための技術スタック
建設DXを実現する技術スタックを構築するには、まず自社に適したソフトウェアを見つけることが必要です。以下の4ステップで考えていきましょう。
1. 自動化すべき業務を見極める
主要な業務を挙げ、個別のタスク・作業に細分化して、その中で非効率な部分を特定します。作業間、業務間の関連も明らかにします。
2. 業務特化型とプロセス特化型から選択する
解決したい問題が建設業界に特有のものであれば業界特化型、多くの業界に共通するならプロセス特化型のツールを選びます。
3. ユーザーレビューを収集し、同業他社からの評価を参考にする
同様の課題を持つ企業のレビューを参照し、製品のメリットとデメリット、共通して挙げられている問題点を検討します。
4. 長期的に計画を立てる
将来的なニーズを想定し、カスタマイズは可能か、拡張性はあるか、他ツールとの連携は容易か、サポートは受けられるか、それらを含めて中長期的な総所有コストはどうなるかなどを確認します。
各ステップの進め方については「優れた技術スタックの構築方法」で詳しく説明しています。ぜひ参照してください。
以上の4ステップで候補を絞り込んだら、無料トライアルやデモ版で実際に体験して、最終決定を行います。ベンダーには随時、質問や相談をしましょう。
それでは、建設業向けのツールをカテゴリー別に見ていきます。現在の課題と中長期的な目標をもとに、自社の建設DXに向けて、最適なツールを見つけてください。
3. 施工管理システム
施工管理システムは、建設業者、請負業者、下請業者が建設のワークフローを管理するために用いるソフトウェアです。プロジェクト管理のほか、文書管理、図面管理、現場写真管理、入札管理、予算管理、作業原価管理、契約管理、タイムシート管理など、幅広い機能を備えています。顧客管理、営業管理の機能もあるものを選ぶと、営業担当者との連携もスムーズになります。
施工管理システムを導入すると、プロジェクトの進捗状況が可視化され、本社の幹部、部門長から現場の所長、所員、作業員まで、一元化された情報を迅速に共有することが可能です。それにより、コスト、経費、リソースの監視および調整が柔軟にできるようになります。作業の割り当ても容易になり、現場で混乱が起きることもありません。問題の発生、作業の遅れなども即座に把握できるため、手戻りも削減できます。
導入にあたって留意すべき点は、工事に関わるほぼすべての人が使うものであることを踏まえて、使いやすいものを選ぶことです。タブレットやスマホでやりとりができれば、現場の作業員の負担を軽減できます。トレーニングやサポート体制も押さえておきましょう。
4. 建設会計・見積ソフト
建設会計ソフトは、原価発注管理、請求管理、入金管理、帳簿作成など、一連の会計業務を管理することができるツールです。帳簿ごとの作業が不要になると、人的ミスが削減できるだけでなく、各所の担当者は、本来注力したい業務により集中的に取り組むことができるようになります。さらに現場監督、部門長、幹部の間で標準化されたデータがスムーズに連携できるようになるため、確認や承認のスピードも向上します。
建築見積ソフトは、複雑な建設工事の見積もりを効率的に行うことができるツールです。標準化されたフォーマットにより、多様で詳細な必要項目にも漏れなく対応できます。工事データからの自動入力機能が搭載されていると、省力化になるとともに、入力ミスも削減できます。質の高い見積もりは、入札や受注に有利なほか、発注者および請負業者からの信頼を深めることにもなります。
5. 建築業向けCRMソフト
建築業向けCRM (顧客関係管理) ソフトは、営業活動から受注、工事、引き渡し、保守まで、一連の顧客対応を管理することができるツールです。建設工事は案件ごとに内容が異なるため、CRMも営業担当者ごとに属人化しがちですが、CRMソフトで情報の共有を図ることにより、標準化を進めることができます。また、アフターサービスを含め、顧客との関係が長期にわたることからも、ソフトで情報を集約管理しておくと便利です。
6. その他のソフトウェア
建設スケジュールソフト
建設スケジュールソフトは、計画から施工、運用まで、プロジェクトのワークフローを一元管理できるアプリケーションです。情報の変更や修正がリアルタイムで共有できる、ソフトで情報を収集するのと同時に自動で書類が作成できる、チーム間の連携が円滑になる、3次元モデルで確認ができるなど、様々な機能があります。
建設入札管理ソフトウェア
建設入札管理ソフトウェアは、入札案件およびスケジュール管理から応札、入札結果まで入札業務を一元管理できるアプリです。複数部門が関わる入札業務でも容易に進捗管理ができます。工事実績検索、技術者選定などの機能があり、精度の高い入札申請書類を作成することができます。
住宅見積システム
住宅見積システムは、住宅施工、インテリア、住まいの専門家向けの見積もりソフトで、新築工事、リノベーション、キッチンリフォーム、浴室リフォームなど、幅広いプロジェクトに対応できます。
7. まとめ
建設業界では、現場で顔を合わせることを重視する、図面や報告書を紙で作成および保管するなど、効率化を阻む慣習が残っていることが少なくありません。しかし今や、建設DXは「待ったなしの課題」であることが、業界の共通認識になっています。自社のDXを検討している企業にとっては、まさに好機です。本稿を参考に、ニーズに合ったソフトウェアを選び、自社の発展につなげてください。