「働き方の柔軟性に関する意識調査」報告記事シリーズ第3弾では、中小企業におけるソフトウェア利用の現状を確認し、働き方の柔軟性を高めるために必要な機能を探ります。
働き方の多様化が進む中、ワークライフバランスの改善やエンゲージメントの向上のために、より自由度の高い働き方を求める人も増えてきているでしょう。「働き方の柔軟性」シリーズの前回記事では、リモートワークや、フレックスタイム制、週4日勤務制はメリットの大きい就労形態であるものの、社内コミュニケーションや業務管理などに関する課題が浮上しました。そのため、企業側はICT (情報通信技術) を活用して業務システムの見直しが必要になります。
今回は引き続き、1,031人の会社員に耳を傾けて、働き方改革に役立つソフトウェアなどのビジネスツールを探ります。アンケート調査の対象になったのは、中小企業で週に5日以上働く全国のオフィスワーカー (仕事で普段コンピュータを使用する従業員) です。詳しい調査方法は文末をご覧ください。
ソフトウェア導入の国際比較
ビジネスソフトは、様々な業務において生産性を高めるだけでなく、働き方の柔軟性も可能にします。ソフトウェアの導入により、コミュニケーションやコラボレーションの促進、タスクやワークフローの自動化、リモートワークの実現など、企業と従業員のニーズや課題の解決に役立ちます。本節では、働き方の柔軟性に関わるソフトウェアの使用率について国際比較をします。
【働き方の柔軟性に関わるソフトウェアの種類】
1. コラボレーションソフト
ドキュメント、スプレッドシート、その他の形式のファイルを作成、編集、共有できるようにして、オンライン環境におけるチームワークを強化します。グループウェアやクラウドストレージなどが含まれます。
2. コミュニケーションソフト
インターネットを介したメッセージの送受信、通話、その他の方法でのコミュニケーションを可能にします。チームコミュニケーションソフトやビデオ会議ソフトなどが含まれます。
タスクやプロジェクトを簡単に整理、追跡、管理できるようにするものです。この種のソフトウェアには、タスクリスト、カレンダー、タイムラインなどの機能があります。
従業員の生産性、タスクに費やした時間、その他のパフォーマンス指標を追跡するために使われます。
まずは、働き方の柔軟性に関わるソフトウェアを「コラボレーションソフト」、「コミュニケーションソフト」、「プロジェクト管理/生産性向上のソフト」、「パフォーマンス追跡/時間管理のソフト」の4つのグループに分けて、仕事で使用しているものを答えてもらいました。本調査を実施した5カ国でその結果を下図の通り比較しました。
ご覧のように、日本は他国に比べて柔軟な働き方に役立つソフトウェアを使用している割合が少なく、特にプロジェクト管理やパフォーマンス追跡などの生産性向上に関連するツールの使用率が低いことがわかります。これは、スイスのIMD (国際経営開発研究所) が2022年に発表した「世界デジタル競争力ランキング」と軌を一にする結果と言えるでしょう。各国のデジタル化の度合いを示すこのランキングでは、63カ国・地域のうち日本は29位で、2017年の調査以来、過去最低となりました。
同様に、これらのソフトウェアを業務で使う頻度に関しても、キャプテラの調査では日本が最下位でした。少なくとも1つのツールを使っていると答えた回答者のうち、「毎日」と答えた人の割合が日本では39%だったのに対して、他の4カ国では半数を超えています。また、「週1回未満」と答えた日本の回答者は約2割 (19%) となり、2位のフランス (6%) を大く上回っています。この著しい差異は、どのような背景から生まれているのでしょうか。テレワークの普及、ICT環境の整備、「柔軟な働き方」に対する考え方、などの違いから生じたものと考えられます。また、ソフトウェアを活用するメリットや必要性を認識できていないことから、日本の企業においては様々なシステムの導入が遅れている可能性があります。今後、効率的な業務運営のためにも、適切なソフトウェアを積極的に導入し、従業員が活用できるようにすることが重要となるでしょう。
最も役に立つ「コラボレーション」と「コミュニケーション」のソフト
次に、日本の回答者に焦点を当て、利用中のソフトウェアの利点・欠点について伺いました。まずは、仕事で現在使用しているソフトウェアの有用度を評価するよう求めました。その結果、「コラボレーションソフト」と「コミュニケーションソフト」は8割以上のユーザーが役に立つと回答し、それぞれ87%、83%と高い有用性を示しました。一方、「プロジェクト管理/生産性向上のソフト」(58%) と「パフォーマンス追跡/時間管理のソフト」(56%) は6割近くの支持を得ています。総合的にデジタルツールは利用者に高く評価されていますが、特に組織内外との連携や情報共有において、その効果を発揮していることが窺えます。
ソフト導入の最大の利点は「効率性と生産性の向上」
ソフトウェアを使用する利点として、ユーザーに最も多く挙げられたのは「効率性と生産性の向上」(41%) であり、次いで、「チームコミュニケーションの向上」(31%) と「時間管理と組織力の向上」(27%) の順となりました。
また、ソフトウェアの欠点について尋ねたところ、「欠点がない」(22%) という意見が最も多かったものの、「使用方法が複雑」(21%) であることや、「信頼性やトラブルシューティングの問題」(21%) があることも指摘されています。以下、利点・欠点それぞれ上位5項目をまとめました。
ビジネスソフトの課題を解決するための方策
- トレーニング・研修の実施 適切なトレーニングや資料 (マニュアル、オンラインチュートリアルなど) を提供することで、社員にソフトウェアの効果的な使用方法を習得してもらいましょう。
- ヘルプデスクサポート ヘルプデスクやトラブルシューティングサポートを常に利用できるようにしておけば、ソフトウェア関連のトラブルに迅速に対処することができます。また、ソフトウェアを常に最新バージョンに更新しておき、バグや脆弱性を早期に検出・修正できるような体制を作りましょう。
- カスタマイズ システムからの通知やメールが多すぎると煩わしいと感じる場合もあります。それに対処するために、通知件数を減らしたり、社員が通知設定を自由にカスタマイズできるようにしておきましょう。
- 情報の透明性 ソフトウェアがどのように動作し、どのようなデータを収集するかについての情報を明確にすることで、会社に監視されている感覚を軽減すことができます。それによって、会社のソフトウェア使用方針に関する共通理解を図ることができます。
ビジネスソフトを使うことによって生産性や仕事の満足度にどのような影響があるのかを理解した上で、社員のニーズを取り入れながらツール導入を検討しましょう。
ソフトウェアは「働き方の柔軟性に役立つ」87%
前回ご紹介したように、日本では働き方の柔軟性が高いとは言えないものの、オフィスワーカーの多くは柔軟な働き方を望んでいることがわかりました。例えば、「労働時間が厳格に決められており、変更できない」と答えた人は74%ですが、そのうち「自分の勤務時間をより柔軟に設定したい」と答えた人は71%にも上ります。
これを踏まえた上で、ビジネスソフトウェアが働き方の柔軟性にどのように貢献できるのか、ソフトウェアユーザーの意見を聞くことにしました。まずは、「職場における勤務時間や勤務場所の柔軟性を高めるために、ソフトウェアの役割は大きいと思いますか?」という質問に対して、「はい」と答えた人が87%であったことから、ビジネスソフトウェアの使用によって働き方の柔軟性が高まるという意識が圧倒的に多いことがわかります。
続いて、具体的にどの領域で柔軟性を高めることにつながるのかを尋ねました。選択肢は、「効率的なリモートワークを可能にする」、「柔軟な勤務時間を可能にする」、「週4日勤務を可能にする」及び「仕事の柔軟性向上に役立たない」の4つでした。
コミュニケーションソフトとコラボレーションソフトは特に「効率的なリモートワークを可能にする」ことで評価される一方、プロジェクト管理/生産性向上のソフトとパフォーマンス追跡/時間管理のソフトは、勤務時間の柔軟性を高めるために役立つ結果となりました。
ソフトウェア導入と監視強化
ソフトウェアの導入によって柔軟な働き方が実現されますが、会社による社員への監視が強化されることもあります。「働き方がより柔軟になるのであれば、従業員の仕事に対する監視が強化されることに賛成ですか?」と聞いたところ、興味深いことに国によって顕著な温度差がありました。
【日本】
- はい 42%
- いいえ 58%
【オーストラリア】
- はい 79%
- いいえ 21%
【フランス】
- はい 70%
- いいえ 30%
【スペイン】
- はい 85%
- いいえ 15%
【英国】
- はい 71%
- いいえ 29%
日本では従業員の監視に否定的な意見が多く、柔軟性を優先する傾向にある他国とは対照的です。また、監視強化のプラス効果として「自分の行動により責任を感じるようになる」(日本では36%)、マイナス効果として「ストレスの増大」(58%) や「プライバシーの侵害」(43%) という回答が多かったです。
中小企業による今後のソフトウェアへの投資
このようにビジネスツールの有効性を認識することは大切ですが、実際の投資がなければ実現できないのも事実です。日本においては、デジタル関連投資に躊躇する企業が多いため、世界の企業との格差がますます拡大しかねないと警鐘を鳴らす声が上がっています。
今回の調査でも同様の傾向が確認されました。ソフトウェアユーザーの回答者に、「あなたの会社は、今年、勤務時間や勤務場所の柔軟性を高めるためにソフトウェアへの投資を計画していますか?」と聞いたところ、46%は計画していない、36%はわからないと答えています。残りのわずか18%が投資を計画していると示しています。
ソフトウェア投資を予定している、もしくは「わからない」と答えた人の6割は、柔軟な働き方を実現するために「ソフトウェアへより積極的に投資するべき」だと主張しています。したがって、業務でソフトウェアを活用する従業員のニーズと、会社が認識するニーズとの間にギャップがある可能性が示唆されています。企業側がソフトウェアの利点や従業員が求めていることを理解しない限り、ソフトウェア投資に対する障壁を克服することは難しいでしょう。
まとめ
今回のアンケート調査から得られた知見を簡単にまとめましょう。日本の中小企業オフィスワーカーは、柔軟な働き方に役立つソフトウェアに対して一定のニーズを持っており、その活用によって効率性、生産性、コミュニケーションなどが向上すると認識されています。
一方、このようなツールは使用方法が複雑であったり、信頼性やセキュリティに問題があったりと、一部の従業員にとっては不満や不安を感じることもあります。
また、国際比較からは、日本の中小企業は依然として業務のDXに遅れをとっていること、会社からの監視強化に対して抵抗が多いことが明らかになりました。
企業がソフトウェアの導入を検討する際には、ソフトそのものの利点や欠点だけでなく、従業員が感じる使用方法に関する問題、通知やメールの取り扱い、プライバシーの問題なども考慮することが重要です。社員のニーズやフィードバックを積極的に取り入れながら、自社に最適なビジネスソフトウェアを選定することが望ましいでしょう。
本記事は、当社が実施した「働き方の柔軟性に関する意識調査」の結果をまとめたものです。調査期間は2023年2月9日〜16日、全国のモニター1,031人に対してオンラインで実施しました。以下の条件に合致する方を対象としました。
- 日本在住者であること
- 18歳以上、76歳未満であること
- 週に5日またはそれ以上勤務すること
- 通常、コンピュータを使用して仕事をすること
回収サンプルの地域別構成比は以下の通りでした。
- 北海道 4%
- 東北 8%
- 関東 33%
- 北陸 4%
- 中部 14%
- 近畿 16%
- 中国 6%
- 四国 3%
- 九州・沖縄 12%
なお、本文で言及されている国際調査も同時期に実施し、次の有効回答数を得た:オーストラリア (936人)、フランス (1,041人)、スペイン (1,009人)、英国 (1,047人)。