日本の労働市場は、人口減少やコロナ禍の影響で大きな変化を迎えています。従業員の仕事に対する満足度や転職意向はどうなっているのでしょうか。本記事では、最新の調査結果をもとに現状を分析します。

近年、テクノロジの進化により様々な働き方が可能になり、また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響でリモートワークも普及しています。こうした中、本稿でも見ていくように、社会ではワークライフバランスの重要性が高まり、働き方改革を求める動きが加速しています。それに伴い、働く人々の価値観も多様化しており、採用管理がより複雑な時代になっています。
このような背景のもと、キャプテラでは働き方の「フレキシビリティ (柔軟性)」の変化や取り組みについて、様々な観点から探りました。中小企業 (社員250人までの規模) で週に5日以上働く全国のオフィスワーカー (コンピュータを使用して仕事をする従業員) を対象にアンケート調査を実施し、1,031人の回答を得ました。その結果を3回シリーズに分けてお届けします。今回は、オフィスワーカーの仕事に対する満足度、転職意識、会社に求めることなどについてまとめました。
オフィスワーカーの65%が現職に満足
仕事に対する満足度は、従業員のモチベーションや生産性、離職率などに大きく影響するだけでなく、顧客満足度とも深く結びついていると言われています。働く環境や職場の文化を改善し、従業員が仕事に対してより満足感を持てるようにすることは、企業にとっても従業員にとっても大きなメリットをもたらすと期待されます。
本調査に参加した中小企業オフィスワーカーの大半は現職に対して高い満足度を示しています。具体的には、全体の65%が「とても満足している」または「満足している」と回答しました。

仕事の満足度に男女差や年代差があると思われるかもしれませんが、今回のアンケートでは年齢や性別による差は見受けられませんでした。ただし、回答者の居住地域によって多少の違いがあることがわかりました。地域別にデータを見たところ、北海道では「とても満足している」と「満足している」の回答を合わせて76%と、最も高い満足度を示しましたが、北陸では「満足していない」と「まったく満足していない」を合わせた不満率が41%でトップになりました。 労働環境ややりがいについては、企業や職種によって異なるだけでなく、地域によっても異なることが示唆されましたが、今後の分析・考察が求められます。

仕事の満足度に最も影響を与えるとされた要因は、「給与」(回答者の54%が選択)、「安定した雇用」(36%)、「興味ややりがいのある仕事」(34%)、「ワークライフバランス」(31%) となり、経済的な安定感と生活の向上が重視されている傾向が示されました。それに対して、「社会的評価」(4%) や「企業文化」(3%) の重要度が低い結果となりました。
以上のことから、企業が従業員の仕事に対する満足度を高めるためには、安定した雇用に加えて、キャリアアップの機会も与えるべきだとわかります。また、従業員が仕事とプライベートのバランスを取り、充実した生活を送ることができる環境を整備することで、仕事へのモチベーションも高まるでしょう。
転職していない人の4割「転職を考えたことがある」
新型コロナウイルスの発生により、世界では多くの人が仕事や生活を見直し、より自分に合った仕事を求める「大量離職時代 (Great Resignation)」と呼ばれる現象が起きています。日本でも同じような傾向が見られるのでしょうか。
今回のアンケート調査では、過去2年間に転職したと回答した人は全体の13%であり、そのうちの79%は1回のみの転職経験者でした。また、転職をしていない87%に対して、「過去2年間に転職を考えたことはありますか?」と質問したところ、40%が「はい」と回答し、60%が「いいえ」と答えました。

続いて、過去2年で「転職した」人と「転職を考えた」人の2つのグループに注目し、どんな動機や理由があったのかを見ていきましょう。
転職した最も多い理由「精神的に厳しかった」
まずは転職した人に、なぜ転職したのかを聞いたところ、上位5つの理由は以下の通りでした。
- 精神的に厳しいと感じたから 27%
- 給料への不満 23%
- 会社の雰囲気や企業文化が合わなかった 20%
- 労働時間への不満 (残業が多い、休日が少ないなど) 20%
- 会社の将来性への不安 17%
これらの理由の多くは、日々のストレスを引き起こす要因であるため、転職が切羽詰まった状況で決意されたことは想像に難くないでしょう。また、先に述べたように「企業文化」が仕事の満足度に関しては最も低い要因であるにもかかわらず、ここでは3番目に多い転職理由となっていることが興味深いところです。これは、企業文化や社風が人材の採用や定着に実は重要な役割を果たしていることを示唆しています。
企業がこのような問題に対処するためには、社内コミュニケーション、従業員フィードバック、報酬体系などの観点から幅広いアプローチで取り組む必要があります。例えば、部署間の風通しを改善することや、調査ツールや従業員コミュニケーションツールを活用して従業員の意見を施策に取り入れること、公正で魅力的な報酬体系を整備すること、従業員の成長を支援するエンゲージメントプログラムを提供することなどが挙げられます。
転職希望理由トップは「給与への不満」
次に、過去2年間に転職していないが、転職を検討したことがある人たちに焦点を当てます。このグループで最も一般的な転職希望の理由は、以下の通りです。
- 給与に不満がある 49%
- 会社の将来性が不安 25%
- 社内の雰囲気が悪い 21%
- 精神的に辛い 19%
- 仕事に不満がある 17%
転職組と比べると、「給与に不満がある」ことが、圧倒的に多い転職希望理由であることが明らかになりました。このことから、競争の激しい労働市場においては、企業が従業員の報酬やモチベーションについてより注意を払う必要があると言えます。具体的には、上司と継続的に給与の期待値や目標について話し合い、定期的に業績と報酬をレビューすることが挙げられます。こうすることで、従業員は自分の貢献が評価され、認められていると感じることができ、また、従業員の期待と会社の予算や戦略との調和もとれるようになります。
しかしながら、給与に不満があるにもかかわらず、転職の時期や方法を具体的に計画している従業員は少ないようです。そのため、従業員の定着には、キャリア開発や職場環境、組織文化、個人的な興味など、仕事の他の側面も影響していることを示唆しています。従業員定着には総合的なアプローチが必要であり、給与への不満に対処するだけでなく、優秀な人材を惹きつけ、定着させる職場環境を作り上げることが大切です。
ポストコロナ時代に従業員が求めることは?
最後に、アンケート回答者全員に対して、新型コロナウイルスの影響で価値観や考え方がどの程度変わったか尋ねました。回答のうち、「大きく変わった」と「どちらかと言えば変わった」を合わせたのは49%で、「変わっていない」と答えたのは23%でした。
具体的にどのような側面が変わったかを聞いたところ、最も変わった点と最も変わらなかった点が以下の通り示されました。

以上のから、コロナ禍が私生活や人生の視点に対する見方に大きな影響を与えた一方で、職場に対する期待やモチベーションには直接的な影響がなかったと結論づけることができます。
会社は良好な社内雰囲気に取り組むべき
人材の流出がさほど深刻な問題ではないとされる日本においても、価値観や考え方の変化により、優秀な人材の確保が厳しくなっていく可能性はあります。そこで、企業が取り組むべき人材確保策は何でしょうか。
従業員の意見を聞いてみると、最も多く挙げられた解決策は「良好な社内の雰囲気」(33%)、「勤務時間に柔軟性」(22%)、「企業として信頼を得る」(14%) でした。
このことから、企業が従業員を確保するためには、働く環境についての配慮が求められていると言えます。「良好な社内の雰囲気」というのは、従業員同士のコミュニケーションやコラボレーションが円滑であることや、上司と部下との信頼関係が築かれていることを意味します。また、「勤務時間に柔軟性」は、従業員のライフスタイルやニーズに合った働き方が求められていることを示すものと言えます。この点については、次回以降の記事で考察する予定です。
まとめ:「社内雰囲気・柔軟性・信頼性」が従業員満足度のカギ
中小企業に勤めるオフィスワーカー従業員の仕事に対する満足度に関して、以下のような示唆が得られました。
- 65%の回答者が現職に満足しており、地域差がある。
- 満足度要因は「給与」「安定した雇用」「興味ややりがいのある仕事」「ワークライフバランス」であり、「社会的評価」や「企業文化」は重要度が低い。
- 転職率は低く、転職しなかった人のうち40%が転職を考えている。転職した理由は「人間関係」「労働環境」「給与」。
- 新型コロナウィルスの影響で、49%の人が価値観や考え方が変わった。「私生活を大切にする」「人生における仕事の位置づけを見直す」「家族のあり方を変える」などが変わった点。
企業が従業員を確保するためには、「良好な社内雰囲気」「勤務時間の柔軟性」「信頼される企業」の3つのポイントが重要です。コロナ後も、従業員は自分らしい働き方や生き方を求めており、企業は可能な限りそのニーズに応える施策や環境を整えるべきでしょう。
本記事は、当社が実施した「働き方の柔軟性に関する意識調査」の結果をまとめたものです。調査期間は2023年2月9日〜16日、全国のモニター1,031人に対してオンラインで実施しました。以下の条件に合致する方を対象としました。
- 日本在住者であること
- 18歳以上、76歳未満であること
- 週に5日またはそれ以上勤務すること
- 通常、コンピュータを使用して仕事をすること
回収サンプルの地域別構成比は以下の通りでした。
- 北海道 4%
- 東北 8%
- 関東 33%
- 北陸 4%
- 中部 14%
- 近畿 16%
- 中国 6%
- 四国 3%
- 九州・沖縄 12%