主にコンテンツプラットフォームでお馴染みのサブスクリプション (サブスク) サービス。多様な業界でこの課金モデルを導入しているビジネスが増えているようですが、さまざまな課題も浮かび上がっています。キャプテラ独自の消費者調査をもとに、サブスクの現状と今後の展望、課題解決の方法について解説します。
定額制の課金モデルは従前より存在していますが、昨今のデジタル化やクラウド技術の進展に伴い、主にオンラインソフトウェアや コンテンツ配信の分野で「一定期間使い放題」の サブスクリプション (俗にいうサブスク) モデルがかなり定着してきたと言って良いでしょう。企業にとっては、長期的な顧客維持につなげることができると共に、パンデミックのような不安定な状況の中でもビジネスにレジリエンスをもたらすメリットがあります。他方、ユーザー側としても、「所有」から「利用」へと価値観が変化する中で、必要なサービスや物資を手間のかからない形で確保できる手段となっています。
ガートナーが指摘するように、サブスクリプションに対する関心はコロナ禍で特に伸びました。そしてアフターコロナでもその傾向が続き、さまざまな業界へ発展していくでしょう。しかし、全てがバラ色ではありません。2023年頃には、75%のB2C企業がサブスク型のサービスを提供すると推定されていますが、それによって顧客維持を達成できるのはわずか20%に留まる見込みです (詳細は サブスクリプションと継続収益に関するガートナーのレポート (英語) からご覧いただけます。ガートナー会員限定)。
その中で、サブスクの現状と利用者の意向を把握するために、キャプテラではサブスクリプション型サービスに関するアンケート調査を行いました。調査対象は、よくオンラインで商品やサービスを購入する国内の「ネットショッパー」で、1,017人の有効回答を得ました (ただし、アンケートの設計上、質問項目によって回答者数が異なる場合があります。実施の概要は文末をご覧ください)。本記事では調査結果を紹介し、さらに今後の展望や課題、その解決に向けたヒントをお伝えします。
サブスクの定義や種類、レンタルとの違い
サブスクリプションとは、定額で一定期間、何らかのサービスや製品を利用することができるビジネスモデルです。レンタルと混同されることもありますが、大きな違いは利用する度に課金されるのではなく、支払った期間中に「使い放題」できる点です。また、単なるリカーリング (継続) 収益と区別するために、サブスクの場合は全てオンラインで完結する意味合いで使われることが多いです。
サブスクはその性質上、 デジタル製品やオンラインサービスで導入しやすく、いち早くこのモデルを採用したのはソフトウェア会社や、音楽・動画などのコンテンツ配信プラットフォームであることも想像に難くないでしょう。このような先駆的なオンラインサービスのことを本稿では「従来型サブスクリプション」と呼びます。
また、近年では他の多種多様なサービスや商品がサブスクを取り入れるようになりました。この新しい形態のサブスクを「最新型サブスクリプション」(または「非・従来型サブスクリプション」) と名付けることとし、主に4種類のサービスに分類することができます。すなわち、「ボックス型」、「定期補充型」、「健康・フィットネス」、「オンライン学習」のことです (以下参照)。
【従来型サブスクリプション】
・ソフトウェア (Adobe Creative Cloud、Microsoft 365)
・音楽 (Spotify、Apple Music)
・動画 (Netflix、U-Next、Amazonプライム)
【最新型サブスクリプション】
・ボックス型サブスクリプション
化粧品、食品などの「ボックス」を定期的に届ける (福袋的なものも含む)
・定期補充型サブスクリプション
カミソリの替刃、調味料・食材など、消耗品を定期的に届ける
・健康・フィットネスのプラットフォーム
心身の健康管理をサポートする。ランニング、フィットネス、スポーツトレーニングのほか、メンタルヘルスや瞑想を含む
・オンライン学習プラットフォーム
語学や音楽をはじめ、他分野の教育を提供する
データで見るサブスクの利用状況
それでは、アンケート調査から見られるサブスクの全体的な利用状況を紹介しましょう。ネットショッパーの間でのサブスクの利用率は約半数となっており、まだ伸びる余地があると考えられます。また、過去にサブスクリプションを利用していたが、解約して現在利用していない人が6%に留まっていることから、離脱率もそれほど高くないことを窺えます。
若者のほぼ3/4がサブスクを利用中
サブスクの利用を年齢別にクロス集計したところ、18歳から25歳までのいわゆるデジタルネイティブ世代と、その上の年齢層との間で著しいギャップを確認することができます。26歳以上の場合は、全ての年齢層において「サブスクを利用している」回答者は40%台から50%台の間で推移していますが、若年層ではそれが74%にまで跳ね上がります。従って、年月が経つにつれ、サブスク利用者の割合がさらに上昇することが見込めるでしょう。
さらなる市場拡大の余地があることを確認しましたが、現在も過去においてもサブスクを利用したことのない消費者は、サブスクに対してどのような抵抗があるのでしょうか。
サブスクへの抵抗の理由は?
サブスクリプションの経験が全くない回答者に対して、利用したことがない理由を聞きました。その結果、最も多く挙げられた要因のトップ3は以下の通りです。
- 固定費をこれ以上増やしたくないから (42%)
- 本当に興味があるものがなかったから (37%)
- 料金に見合う価値がないから (31%)
「最新型サブスク」の台頭
サブスク利用者のうち、コンテンツ配信を中心とする「従来型サブスクリプション」のみに登録しているユーザーは74%で、「最新型サブスクリプション」のみ (9%) を大きく上回っているのはある意味当然ですが、両方のサブスクリプションモデルを利用している消費者は既に17%を達成しています。最新型サブスクリプションはまだ発展途上の市場ですが、徐々に拡大していくことが期待できるでしょう。
続いて、最新型サブスクリプションにおけるビジネスモデルの特徴を見ていきます。
最新型サブスクの4タイプを利用するきっかけ
先述した最新型サブスクリプションの4タイプのうち、現時点でどちらが最も人気があるのかを確認しましょう。下の表でまとめた通り、最新型サブスク利用者のうち、6割ほどの回答者が「ボックス型」を利用しており、続いて「定期補充型」、「健康・フィットネス」、「オンライン学習」の順となりました。
また、いずれのサービスでも、半数以上のユーザーが「満足している」と回答しているので、最新型サブスクリプションはユーザーのニーズに応えるビジネスモデルとして妥当であることが窺えます。ただし、それぞれのサービスを利用することにした主な理由を伺ったところ、異なるきっかけがあることが分かりました。
最新型サブスクリプションの魅力
最新型サブスクリプションを利用する決め手となるポイントは何でしょうか。各タイプのサブスクリプションを定期購入することにした主な理由の中から、それぞれ1位に選ばれたのは次の通りです。
- ボックス型
ボックス型サブスクリプションの利用者のうち、38%が「便利だったから」と回答した
- 定期補充型
定期補充型サブスクリプションの利用者の間では、「他より低価格だったから」 (27%) が決め手である
- 健康・フィットネス
健康・フィットネスのプラットフォームのユーザーにとっては、「興味があったから」 (47%) が最も重要な理由である
- オンライン学習
オンライン学習プラットフォームのユーザーの場合も、過半数 (50%) が「興味があったから」ことを主な理由として挙げている
このように、サブスクビジネスを始める場合は、サービスのタイプに応じて見込み客へのアプローチ戦略を策定する必要があります。
最新型サブスクの共通の特徴
最新型サブスクリプションの共通の特徴について、当調査では以下の結果が得られました。
・支払い頻度 支払いの周期についてダントツ多いのは月額課金で (60%)、次いで四半期に1回 (20%)でした。
・料金 最も多い平均月額料金は3,000円以上 (35%) です。
・サブスクリプションレベル 半数以上 (52%) はベーシック、つまり最も低価格のサブスクリプションレベルを利用しています。
・デバイス サービスにアクセスするために使用されている主なデバイスはスマートフォン (55%) ですが、2位であるパソコン (36%) を使うユーザーも決して少なくありません。
・サービスを知るきっかけ 最新型サブスクを現在利用中の回答者の間で、サブスクサービスを初めて知るきっかけとして挙げられたトップ3は、「オンライン広告」 (53%)、「記事などの情報メディア」 (40%)、「知り合いや家族からおすすめ」 (31%) です。
サブスクの課題と対応策
サブスク利用者の満足度が非常に高い数値を示していることから、これからもサブスクの普及が進むと予想できます。しかし、克服すべき課題も残っています。最新型のサブスクリプションを利用したことがない回答者に対して、興味が向かない理由を聞いたところ、「自分で買いに行きたいから」(38%) が最も多く挙げられ、実店舗での買い物感覚を重視する消費者の態度を垣間見ることができます。続いて挙げられた理由は「料金が高そうだから」(25%) と「縛られたくないから」(21%) で、経済的な懸念が根付いているそうです。実際のサブスクはサービスに見合った料金設定がされているはずですが、それでも「割高」のイメージを払拭するための努力が必要なのでしょう。
また、最新型サブスクリプションを利用中のユーザーにクレジットカード情報を登録する抵抗感について伺いました。「まったく抵抗はない」と「あまり抵抗はない」を合わせた回答が半数を超えてはいるものの (53%)、回答者が実際にサブスクを利用していることを考慮すれば、決して高い水準とは言えません。特に他国の結果と比較すると、その違いは一目瞭然です。
上の図は、当社が実施した国際アンケート (オーストラリア、ブラジル、フランス、英国が対象) の結果と、日本の調査結果を比べたものです。カード情報登録に対する日本人ユーザーの抵抗は、ネットセキュリティへの不信感を反映しているのかもしれません。
以上の課題を乗り越えるのは容易ではありませんが、次のような手段を取り入れることで解決に導くことができます。
・情報開示とコミュニケーション 消費者の信頼を獲得するためには、製品・サービスの詳細から解約手続きまで、情報をきちんと伝えることが重要です。それを達成するために、適切な コンテンツ管理や手厚い カスタマーサポートに力を入れて、有効なコミュニケーション体制を構築すべきでしょう。これにより、ユーザーにとっても疑似的な「お買い物」体験につながります。
・厳格なセキュリティ体制 ネット上で取引を行うためには、セキュリティに関して努力を惜しまないでください。安全な eコマースシステムを採用しながら、 SIEMツールなどでネットワークセキュリティを強化しましょう。
まとめ
サブスクリプションは、定期的な収入とより頻繁な顧客エンゲージメントをもたらし、企業の収益と顧客生涯価値を向上させるのに貢献します。しかし、単発販売からサブスクリプションモデルへの移行には、製品設計や運用能力の変更が必要になるかもしれません。継続課金モデルを採用するだけで顧客離脱が下がる、と安易に考えない方がいいでしょう。むしろ、サブスクリプションプログラムと顧客管理に対して継続的な努力がない限り、大きな成果を見込むことは困難です。顧客体験を積極的に管理しながら、定期的に運用能力を高めて、質の高いサービスを提供することがポイントになります。
調査概要
本記事は、当社が実施した「サブスクリプション型サービスに関するオンライン消費者へのアンケート調査」の結果をまとめたものです。調査期間は2022年8月1日〜10日、全国のモニター1,017人に対してオンラインで実施しました。以下の条件に合致する方を対象としました。
- 日本在住者であること
- 18歳以上、66歳未満であること
- ネットショッパー (少なくとも月に1回の頻度でオンラインで買い物する人) であること
日本の人口構成を反映するようサンプリングされています。なお、本文で言及されている国際調査も同時期に実施し、次の有効回答数を得た:オーストラリア (1,000人)、ブラジル (1,002人)、フランス (1,000人)、英国 (1,011人)。アンケートの設計上、質問項目によって回答者数が異なる場合があります。