翻訳に関連するテクノロジは大きな発展を遂げており、それに伴い翻訳プロセスも日々変化しています。この記事では、中小企業が翻訳ツールを利用するメリットとその課題を解説します。

人工知能 (AI) の発展などに伴い、翻訳技術の可能性が大きく広がっています。時間とコストの大幅な短縮を可能にしたり、これまでには存在しなかった新しい翻訳のユースケースを生み出したり、有用な効果をもたらしていますが、その一方で課題とニーズがより複雑化しています。
欧州委員会が実施した調査で明らかになったように、 多くの中小企業は状況に応じてAI自動翻訳と人力翻訳を使い分けています (英語)。また、ガートナーの推測によると、 2025年までには翻訳者が行う業務の25%がAI自動翻訳が担うことになり、人間はその監修役へとシフトします。 (詳細は AI翻訳サービス市場に関するガートナーのレポート (英語) からご覧いただけます。ガートナー会員限定)
この記事では、翻訳ツールの種類を紹介したのち、中小企業が翻訳ツールを利用するメリットとその課題を見ていきます。
翻訳ツールとは?
翻訳ツールとは、翻訳メモリや用語集を使い、翻訳業務を効率化するためのソフトウェアです。翻訳ツールの種類には、「翻訳支援ツール」と「 翻訳管理システム」があります。
翻訳支援ツール
翻訳支援ツール (CATツールともいう) とは、原文と翻訳文を一対としてデータベース化する「翻訳メモリ」、社内用語などの用語の取り決めをデータベース化する「用語集」、訳ブレなどのケアレスミスを検出する「品質管理」といった機能から構成されています。
また、一部の翻訳支援ツールには、「機械翻訳」機能が搭載されています。人力翻訳よりも安価でスピーディーに翻訳を行えることから、多言語のWebコンテンツを定期的に作成する企業の間では広く普及しています。
翻訳管理システム
翻訳管理システムとは、上記で説明した翻訳支援ツールに、さらにプロジェクト管理の機能を搭載したシステムのことです。
翻訳管理システムでは、翻訳メモリ、用語集、品質管理、機械翻訳に加え、プロジェクトの一元管理、言語資産の一元管理、外部プログラムとの連携といった機能が利用できます。
翻訳管理システムでは、物理的に離れた翻訳者や既存のシステムをつなぎ合わせることで、翻訳・校正・ネイティブチェックといった各プロセスの進捗をリアルタイムで確認でき、翻訳プロジェクトに関わる全メンバーが常に最新の翻訳メモリ・用語集にアクセスできる コンテンツ管理システムとしての役割も果たします。これにより、翻訳の品質向上と翻訳業務の効率化を図ることができます。
機械翻訳の種類
翻訳関連テクノロジの中で近年最も注目を集めているのは機械翻訳です。インターネットの普及と共に一般的になった技術ですが、語学力がなくてもある程度の翻訳が簡単にできてしまうため、個人利用だけでなく、ビジネスの場においても活用されています。
機械翻訳サービスには、異なる種類の機械翻訳があり、用途によって使い分けることが可能です。機械翻訳の仕組みには、以下の3種類があります。
ルールベース型
この種類の機械翻訳は、文章と辞書を照らし合わせながら翻訳を行います。文語体の翻訳ではある程度精度の高い結果をもたらしますが、口語体の翻訳では望ましい結果が出ないというデメリットがあります。
統計ベース型
インターネットの膨大なデータから統計的なモデルを学習する翻訳技術です。ソース言語 (原文の言語) とターゲット言語 (訳文の言語) の文法が異なると翻訳精度が落ちてしまうというデメリットがあります。
ニューラル型 (=AI自動翻訳)
この種類の機械翻訳は、近年多くの注目を集めている最新技術です。 人工知能 (AI) のモ デルであるニューラルネットワークを活用し、ディープラーニング (深層学習) によって文章の細かいニュアンスまでを踏まえた翻訳文を生成することが可能となります。
翻訳サービスの分類
現在の翻訳サービスは、媒体の軸 (文書か、映像/音声か) と同時性の軸 (リアルタイムか否か)を用いて、以下の4つのグループに分類することができます。
1. マルチメディア (映像/音声、非リアルタイム)
動画やオーディオの各種コンテンツ、研修セミナー、娯楽メディア
2. リアルタイム・マルチメディア (映像/音声、リアルタイム)
ビデオ会議、電話ミーティング (個別または複数人)
3.ドキュメント、テキスト (文書、非リアルタイム)
書類、ブログ、Eメール、ソーシャルメディア、Eコマース、製品情報、Webコンテンツ
4. オンラインのカスタマーセールス、カスタマーサポート (文書、リアルタイム)
テキストのチャットボット、サポートチケット、チャットフォーラム、リアルタイムの問い合わせ
出典:ガートナー2021「 AI-Enabled Translation Services are Changing the Localization Landscape」をもとに作成
AI自動翻訳のメリット・デメリット
AI自動翻訳は、翻訳を必要とするさまざまな業種で利用することができますが 、中小企業にとってはAI自動翻訳を導入するメリット・デメリットは何でしょうか。
まずはAI自動翻訳のメリットを見ていきましょう。
・安価に翻訳ができる AI自動翻訳は、人力翻訳サービスに比べて安価に利用できます。
・翻訳業務の効率化 簡単に翻訳を行えるようになるため、時間がかかる翻訳業務を効率化し、一般的に品質の向上と、翻訳にかかる費用の削減を期待できます。
他方で、AI自動翻訳を利用するには次のような注意点もあります。
・創造性の欠如 機械的な翻訳により、精度の高いAI自動翻訳であったとしても、感情に訴えるような口語体の翻訳文や、クリエイティブな翻訳文を作成するのには一般的に不向きだとされています。
・後編集 (ポストエディット) の必要性 契約書などの公式文書を機械翻訳した後、そのまま正式に使うことは無責任な行為と見なされるでしょう。通常は、翻訳が正確かどうかを人の目で確かめる後編集 (ポストエディット) が必要となります。機械翻訳の精度によっては、直接マニュアル翻訳するよりも確認・編集作業に時間と手間がかかってしまうというリスクがあるので注意が必要です。
適切な翻訳手段を選ぶためのポイント
言うまでもなく、用途によって適切な翻訳ツールが異なります。自分のビジネスに合う翻訳手段を選ぶためには、次のポイントを考慮してみてください。
ニーズの特定
市場にある翻訳ツールには、それぞれ特徴とする専門性や強みがあります。例えば、法的文書の翻訳に特化した契約書翻訳AIを使用することで、海外取引のある企業は契約書関連業務の負担を減らせるメリットがあります。AI自動翻訳サービスを使用する場合は、これらの特徴を確認し、自身のニーズと合致するかを確かめましょう。また、翻訳対象となる個々のコンテンツの内容、文体 (口語体か文語体)、専門性などを考慮することも大切です。
AI自動翻訳と人力翻訳の使い分け
AI自動翻訳と人力翻訳のメリット・デメリットを理解した上で、使い分けることが重要です。大まかな翻訳はAI自動翻訳に任せ、細かいニュアンスや専門用語を多用する部分は人力翻訳を利用するなど、賢く翻訳手段を使い分けることで翻訳業務の効率化を最大限にすることができるでしょう。
おわりに
近年のデジタル化・国際化の進展により、中小企業においてもWebサイトや製品・サービスの多言語化が必要不可欠となっています。その中で、どのような翻訳手段を選択するかは、今後のビジネス展開の重要なポイントとなってくるでしょう。