人事デジタルトランスフォーメーションは、ビジネスを円滑化し、軌道に乗せるために必要な変革です。人事部門の現状と諸課題を整理し、柔軟で効率的な人事DXを導入する方法を紹介します。

この2年間、中小企業は日々変わる状況に対応しながら、迅速に働き方改革を進めていくという課題に直面してきましたが、その課題は解消するどころか、今もなお変化し続けています。 本記事では、人事部門の現状と諸課題を改めて整理し、柔軟で効率的な人事デジタルトランスフォーメーション (DX) を導入する方法をご紹介します。
人事管理は、企業規模を問わず、経営活動の中心的な役割を担っています。人事管理の重要性は今や常識のようになっていますが、この認識は1800年代後半の近代産業化によって一般的になりました。
人事部門の大きな特徴として、社会状況や歴史的背景に順応し、心理学、社会学、経済学など、様々な知識分野を横断して発展したことが挙げられます。
長引くコロナ禍の下でも、ビジネスにおける 人事視点の取り組みがより一層重要になっています。現在、 人事部にこそ変革が求められており、イノベーションの原動力として大いに期待されています。
人事デジタルトランスフォーメーションの5つの課題
課題1 リモートでも従業員のウェルネスを最優先に
従業員のウェルネス (健康の維持・促進) は今日において不可欠であり、それを確保する任務を担っているのが人事部門です。
組織の成功や失敗の指標として「エンパシー (共感)」という言葉がパンデミック後に浮上したことも、その表れと言えるでしょう。ガートナーが800人以上の 人事担当者を対象に行なった調査 (英語) では、従業員の身体的・精神的健康を維持することと、できるだけ多くのサポートを提供することの重要性が指摘されています。
社員と会社との関係は、人材の生産性や会社の評判に大きな影響を与えます。すなわち、良好なエンゲージメントやコミュニケーション、信頼関係は、社内で好循環を生み出すということです。
それでは、人事部門はどのようにして企業の健康を確保できるのでしょうか。
対策
職場環境を明るくして、前向きな企業文化と適切なコラボレーション精神を育むための方法はいくつかあります。
まずは、社員のワークライフバランス、ストレス、自宅でのIT環境の不備など、在宅勤務で直面しているもしれない問題に気を配ることが大切です。
会社から信頼とサポートを十分に受けている社員は、オフィス外で仕事をしても評価されていると感じることができるはずです。
在宅ワークをしている社員は、オフィスとの物理的な距離のために、プレッシャーを頻繁に感じることがあります。 この精神的なストレスは、社員に疲弊を引き起こし、 仕事の生産性を抑制する原因となります。
そのため、社員に明確な指示を与え、セルフケアを促し、可能であれば専門家から心理的サポートを提供することが重要になります。
この課題に対する最善の解決策の一つとして、休職や退職の未然防止向けに社員との直接のコミュニケーションチャネルを開くことがあります。そのために、プロセスを自動化できる リモート通信向けのコミュニケーションソフトなどを使用することができます。
また、定期的なチームビルディング活動を提案することも良いでしょう。これにより、社員の気持ちを同僚と共有し合い、リモートでも不安や孤独感が和らぐはずです。
別の観点から、 社員レコグニション制度 を導入すれば、業績の良い従業員に年に1回、インセンティブやギフト券などの形で報酬を与えることで、全スタッフのモチベーション向上につながります。
課題2 すべての社員が満足できるスマートワーク管理
人事デジタルトランスフォーメーションの重要なポイントは、スマートオフィスの収益性を高くして、すべての社員が満足できるものにすることです。
そこでまず、働き方を再編成し、いつでもどこでも会社のリソースに簡単にアクセスできるようにする必要があります。
具体的には、従業員が 共同作業、タスク共有、データプラットフォームなどへシームレスにアクセスできるようにしましょう。
ここでの課題は2つあります。つまり、社内のコミュニケーションを活性化することと、社員の生産性を向上させることです。
対策
リモートワークでは、会社とのつながりを感じ、上司や同僚と迅速かつ簡単に情報を交換できるようにすることが大切です。
それが実現できれば、スタッフが職場から物理的に遠く離れていても、会社の活動に携わっていると感じることができるでしょう。
課題3 柔軟で包摂的な企業文化への変革
現代社会ではインクルージョン (包摂性) とフレキシビリティ (柔軟性) が重要視されています。このような理念をまだ取り入れていない企業には、ぜひ検討していただきたいです。
多様性を受け入れて、包摂性のある環境を作ることにより、企業全体のパフォーマンスと生産性が上がると言われています。 なぜなら、ジェンダー、出身地、宗教など、多様な背景を持つ人々で構成されたスタッフは、より刺激的、革新的、そして創造的な職場環境作りに貢献するからです。
また、企業にとって多様なチームを持つことは、幅広いスキルと貴重な経験を手に入れることを意味します。
対策
人事業務は人材採用から始まります。募集要項には、国籍、性別、性的指向などについて触れず、求められているスキルだけに焦点を当て、インクルーシブな表現を心がけて仕事内容を記載しましょう。
最近では、適格な候補者を選考した後、履歴書に記載されている個人情報を黒く塗りつぶすことが一般的になりました。 これにより、採用担当者は候補者の名前、生年月日、出身地に対する無意識の先入観に囚われることがなくなります。
このような作業を行うためには、 採用管理ソフトが大変役に立ちます。 この種のツールのさらなる利点として、パフォーマンス、給与、休暇、勤怠などの管理を行うこともできるほか、API連携で人材選考、オンボーディング、福利厚生の機能を追加できることがあります。
選考プロセス終了後、人事チームは採用者のオンボーディング (新人研修) の計画・実施を行います。それも、リモートであれ対面式であれ、とにかく「インクルージョン」を軸としたものであるべきです。また、他の社員も研修に参加すれば、社内全体で多様性の価値を受け入れると共に、そこから生まれる恩恵を理解してもらえるようになります。
それでも十分ではないと思われる場合は、「ダイバーシティ」を担当するマネージャーのポストを設けるのも良いでしょう。
柔軟性に関しては、統合された 社内メッセージソリューションを導入することで、社員同士のコミュニケーションの円滑化を図ることができます。
また、最初から各社員に明確な個人目標や企業指針を示して、ビジネス基準の遵守並びに従業員パフォーマンスを追跡することも重要です。
社員の生産性を向上させるには、前述のウェルネス維持に加えて、業務で使用する作業ツールを統一し、アクセスしやすくすることも不可欠でしょう。 人事分析ソフトウェアを活用すれば、社員に関わるすべてのプロセスを単一プラットフォームで一元管理できます。
課題4 リモート採用
人事部門のもう一つの課題は、リモートで求人活動を行うことです。
先ほど包括性の観点からの対策を紹介しましたが、同じようなアプローチでリモート面接の実用的なポイントを見ていきましょう。
実は、遠隔で採用面接を行うメリットはたくさんあるのです。 まずは、本社から遠く離れている人たちにまで募集範囲を広げることができます。また、応募者は落ち着いて面接に臨むため、本来の実力を確認しやすいというメリットがあります。
対策
リモート面接の実施方法にはいくつかの種類があります。 最も一般的なのはストリーミング型で、専用のツールを使ってモバイルデバイスやパソコンから複数人でビデオ会議を行う方法です。
もう一つの選択肢として、動画ファイルを提出する方法があります。応募者は、自己PRと共に、担当者から事前に出題された質問への回答を録画します。
ここでもテクノロジーの活用が必須になります。数ある リモートの採用管理ツールや ビデオ会議のプラットフォームの中から、自社ニーズに合った製品をしっかりと吟味しましょう。
導入する際に押さえておくべき機能は、ビデオ会議インタビューの記録、固定の質問のデータベース化、応募者情報の収集、フィルタによる絞り込み検索などが考えられます。
課題5 新入社員のリモート入社
従業員の入社プロセスがいかに重要かは誰もが知っていることでしょう。最初の数日間は、職場にどう馴染むか、どう感じるかという点で、その後の成長を左右する可能性があります。
ましてや、職場から離れていて、正確なマニュアルがない状態でリモート入社する場合は、オンボーディングがさらに重要になります。
この段階では、スムーズな受け入れができることが大切です。具体的には、社員の役割と業務範囲を明確に説明するほか、経営指針の紹介、所属先の上司やメンバーの紹介などが人事部門の役目になります。
対策
市場には、人事DXに向けたオンボーディング用のソフトウェアが数多くあります。
その中で、スタッフを追跡するための 人事管理ソフトウェアや、メンバー間のコラボレーションと作業分担に役立つ 社内コミュニケーションソフトウェアを検討することをおすすめします。
さらに、 ビデオ会議プラットフォームを利用すれば、社員同士の距離が縮むでしょう。また、 電子署名ツールは、新入社員が契約書にサインしたり、フォームに記入したりするのを容易にします。
人事関連ソフトにどこまで投資すべきか?中小企業にとってのメリット、導入時の注意点
大きな変化が起こるときは、事業に継続性を持たせながら、従業員に前向きな経験を提供することが重要になります。
ビジネスのあらゆるプロセスの最適化が可能になった今日、人事業務においてもIT化の選択肢が増えています。
自社の人事部門に最適なソフトウェアを選ぶ際には、次の点を考慮すると良いでしょう。
- 目標 人事ソフトウェアを選ぶ前に、中長期的に達成したい目標について考えてみてください。現状況がずっと続くはずはないので、将来の見通しを立ててから、投資先の分野を最初から定めるのが望ましいです。まずは、 「SMART」目標設定を通じて埋めるべきギャップを正確に把握し、それを達成するために手助けになってくれるソフトウェアを探しましょう。
- 費用対効果評価 ビジネスの成長に役立つソフトウェアを検討する上で、最も重要な側面の一つです。例えば、時間と手間を要する作業が多い場合は、業務プロセスを合理化・自動化できるソフトウェアを導入するメリットが大いにあります。また、 従業員管理ソフトウェアがもたらす利点を分析し、コストに見合うかどうかを慎重に検討してください。
- 会社の規模 些細なことと思われるかもしれませんが、多くの人事管理システムは社員数の多い会社を対象にしていることを見逃してはいけません。従業員10人未満の小規模事業者の場合、この種のソフトウェアへの投資には慎重になるべきかもしれません。一方、複数の拠点と部署を持つ企業の場合は、人事デジタルトランスフォーメーションの推進は必須と言っても過言ではありません。
困難な状況下でこそ、企業のスキルや回復力が問われます。これまで見てきたように、人事デジタルトランスフォーメーションは、業務プロセスを円滑化するだけでなく、ビジネスを軌道に乗せたり、目標達成したりするために必要な変革です。
この状況を自らの変化・刷新の機会と捉えれば、必然的に品質向上へとつながるでしょう。