市場には様々な人事管理システムソフトウェアがありますが、その種類や機能、選択方法を詳しく解説します。

質の高い人材は企業の競争力の源泉となります。優秀な人材を惹きつけ、維持するためには、効率的で堅牢な 人事管理ソフトウェアの使用が必須です。
人事管理の技術スタック構築
ある目的を達成するために組み合わせた一連のソフトウェアツールを「 技術スタック」と呼びます。人事管理向けの技術スタックには、従来の会計業務 (給与や福利厚生の管理など) を処理できるアプリケーションが含まれており、手が空いた分、人事担当者はより戦略的な取り組みに専念できるようになります。また、詳細なレポートを作成することができるため、従業員の定着率やエンゲージメントの向上など、企業の主要な目標に向けた意思決定に役立ちます。
従来の人事業務は、社員情報の管理や、法令遵守の確認が主な役割でした。しかし今日では、人事部門は事業の戦略的な柱の一つとして認識されており、採用、オンボーディング、人材育成、引継ぎ計画など、様々な責任を担っています。
では、自社のビジネスに最適な人事管理向け技術スタックを構築するためには、どこから手をつければいいのでしょうか。ゼロから構築する場合は、組織の規模 (従業員数や売上高) と現在の人事プロセスを分析することから始めます。また、市場にあるソフトウェア製品の戦略的な活用に対する理解も必要となります。
本記事では、自社に最適な人事管理ツールをお探しの際に留意すべきポイントをご紹介します。
人事管理業務の評価からスタート
適切な技術スタックを構築するためには、まずは人事部門チームのニーズを把握する必要があります。
チームと共に以下の作業を行なってみましょう。
- 人事部門の関係者とミーティングを持ち、普段の人事業務プロセスをみんなで洗い出す。求人募集や面接、必須研修など、チームが日常的に担う業務が対象になる。
- 付箋紙や ホワイトボードを使って業務の各ステップを書き出し、ワークフローを視覚化する。
- 困難だと感じられるステップやワークフローを特定し、手作業のプロセスやコミュニケーションの欠如など、効率性の障害となる要因を発見する。
このように確認された障害事項を整理し、その改善を意識しながら技術スタックを構築してください。
人事管理システムがカバーすべき3つの領域
人事管理システムと一口で言っても広範なカテゴリーであり、その中には 福利厚生管理、 応募者追跡、 人員管理、 360度評価などを専門とする多数のツールが含まれています。技術スタックを構築する際には、各々のサブカテゴリーの使い分けに惑わされないように、次の主要3分野、つまり、人事労務、タレントマネジメント、そして人員管理に焦点を当てることをおすすめします。
1. 人事労務
人事労務とは、旧来のバックオフィス業務であると考えて良いでしょう。このような業務を支援するツールとして、給与計算ソフトや福利厚生管理ソフトがあります。それぞれについて見ていきましょう。
給与計算ソフトとは?
給与計算ソフトウェアは、従業員の賃金や報酬の額を記録し、給与計算を自動化するシステムです。一定の給与期間における報酬総額の算出や、会社から社員への振り込みをワンクリックで処理することができます。また、多くのソリューションには、時間管理、税務管理、レポーティングなどの機能が搭載されています。
給与計算ソフトは、以下のような業務に役立ちます
- 時間管理 (タイムトラッキング)
- 給与管理
- 税務管理
- レポート/アナリティクス
- 口座振り込み
給与計算ソフトを導入するタイミング
給与計算ソフトウェアは、企業が最初に導入すべきツールの一つです。その理由は言うまでもありませんが、たとえ従業員が一人しかいなくても、給料は適正に遅滞なく支払う義務があるからです。

福利厚生管理ソフトとは?
福利厚生管理ソフトウェアは、健康保険や年金などの福利厚生への加入・管理業務を、労使双方にとって円滑に進めてくれるツールです。通常、このようなソリューションは、コスト管理や法令遵守の確認を目的に、データ追跡機能も備えています。
福利厚生管理ソフトウェアは、以下の業務を支援します
- 福利厚生のオンライン登録
- 健康保険/生命保険の管理
- 退職金制度の管理
- 控除額の管理
福利厚生管理ソフトを導入するタイミング
福利厚生管理ソフトウェアの導入は多くの場合、従業員数が500人を超えた頃に行われます。しかし、中小企業にとっても導入メリットは大きいです。例えば、従業員が自分で福利厚生の登録・内容変更ができるシステムを採用すれば、申請書の提出や人事部による手作業入力のような手間が省けます。

2. タレントマネジメント
タレントマネジメントには、高度人材の発掘、採用、維持に関わる業務が含まれます。言い換えれば、競争力のある人的資源を増やして、保持することに重点を置くものです。タレントマネジメントを支援するツールは多数存在しますが、最も一般的なものには応募者追跡システムと人事評価システムがあります。それぞれについて見ていきましょう。
応募者追跡システムとは?
応募者追跡ソフトウェアは、求人の管理プロセスを効率化するツールです。応募者の情報を収集してデータベース化することで、採用担当者の求人業務が円滑に行われます。
応募者追跡システムは、以下のような業務に役立ちます。
- 候補者追跡
- 候補者プロファイリング
- 履歴書検索
- 面接予約
- レジュメ解析
応募者追跡システムを導入するタイミング
応募者追跡ソフトウェアの恩恵を最も受けるのは、当然ながら、人材採用ニーズの高い企業です。多くの場合は、従業員数が250人を超えたあたりで応募者追跡システムが導入されます。

人事評価システムとは?
人事評価ソフトウェアは、社員パフォーマンスの追跡や評価のプロセスを簡易化してくれるものです。このツールを利用すれば、マネージャーは個人やチームの目標を設定したり、個人能力開発計画を作成したりすることができます。
人事評価システムは、以下のようなメリットをもたらします。
- 360度フィードバック
- 継続的なパフォーマンス追跡
- 目標設定
- 評価履歴の追跡
- 自己評価
人事評価システムを導入するタイミング
多くの企業は、従業員数が500人を超えたあたりで人事評価ソフトウェアを導入します。特に人材育成を優先する組織であれば、この種のツールを積極的に検討すべきです。

3. 人員管理システム
人員管理 (ワークフォース・マネジメント) とは、リソースを配分することで組織の生産性を最適化する人事業務の一分野です。人員管理の内容は企業ごとに異なりますが、基本的にはスケジュール管理、予算管理、業務予測などを目的としたデータ分析が含まれます。人員管理を実施するためのツールとして、勤怠管理ソフトや人事分析ソフトなどがあります。続いて、それぞれのソフトウェアについて詳しく紹介します。
勤怠管理ソフトとは?
勤怠管理システムは、労働時間や勤怠状況を記録するツールです。従業員やタスクのスケジューリング、欠勤や休暇の管理、残業時間の追跡、書類の管理などを行うことができます。
勤怠管理ソフトは、以下のような業務を管理します。
- 欠勤管理
- 時間管理 (タイムトラッキング)
- レポート/アナリティクス
- 従業員のスケジュール管理
- カレンダー管理
勤怠管理システムを導入するタイミング
従業員数50人を超えると、勤怠管理を手作業で行うのは大きな負担となります。そのため、勤怠管理システムは比較的早い段階で導入されることが多いです。

人事分析ソフトとは?
人事分析ソフトウェアは、人事部門におけるデータ駆動の意思決定をサポートするツールです。BI (ビジネス・インテリジェンス) ツールと同様に、人事分析ツールは膨大なデータを集約して処理・分析することにより、有意義な傾向を見出すことができます。
人事分析ソフトウェアは、以下のような業務に役立ちます。
- データの集約
- デーの視覚化
- ダッシュボード
- レポート作成
- 予測分析
- 要員計画
人事分析ソフトを導入するタイミング
人事分析ソフトウェアは、他のツール (給与計算、勤怠管理など) からデータを収集するため、事業が安定して、技術スタックがほぼ完成するまでは、導入を控えた方が良いでしょう。

これらのツールの連携方法
人事業務の技術スタックを構成する一連のツールは、互いにシームレスに統合されていることが望ましいです。それを実現するには、内蔵の統合機能、サードパーティのプラットフォーム、またはオープンなAPIを使うことができます。
ツール間の連携は大きな効果をもたらすので、ソリューションを検討・選択する際には互換性の確保を最優先してください。
統合された技術スタックの利点は以下の通りです。
- ITコストの削減
- リアルタイムでデータ確認
- 社員間のコミュニケーションとコラボレーションの向上
- より正確なデータ取得
技術スタック内におけるツール間連携の好例として、前述した他ツールからのデータ収集があります。
他にも例えば、勤怠管理システムの勤怠パターンのデータに基づいて、マネージャーは従業員のスケジュールをより効率的に計画することができます。また、応募者追跡システムからのデータで、のちにリテンション、生産性、従業員満足度などに影響を与える採用プロセスのパターンを明らかにすることもできます。
このように、従業員のエンゲージメント向上や人材獲得プロセスの合理化など、人事面の戦略をしっかりと策定するためには、データが正確であることが必須です。
おわりに:人事管理ソフト選びで留意すべき4つのポイント
ここまで来ると、最初の一歩の後押しをして欲しい方も少なくないでしょう。お悩み無用です。おわりに、人事管理のソフトウェアやベンダーを検討する際に考慮すべき4つの事項を紹介します。
- ビジネスの規模 ソフトウェアツール選びで最も重要な事項の一つは、組織の事業規模です。当然ながら、中小企業と大企業では人員ニーズが異なります。例えば、中小企業では1年間の雇用者数が10人以下であるのに対し、大企業では100人以上を雇用することもあるため、後者の場合は強力な応募者追跡システムを導入する優先度が高くなります。
- ソフトウェア連携機能 前述したように、統合された技術スタックを持つことには様々な利点があります。ほとんどのソリューションには連携機能 (複数のアプリケーションをつなげる機能) が組み込まれていますが、 、 、 Automate.ioなどのサードパーティのプラットフォーム経由でツールを接続することもできます。
- 事業の業界 ほとんどの人事ツールは一つの機能に特化しており、業界特化型のものは稀です。とはいえ、同業他社と多く取引しているベンダーであれば、絶えず変化するコンプライアンス要件への対応など、安心できるノウハウを持っている可能性が高くなりますので、この点をぜひ考慮して欲しいです。
- 同業他社の意見 ソフトウェア選びのリサーチ時間を短縮したい場合は、実際にソフトウェアを使用しているユーザーのレビューを参考にしましょう。 キャプテラのようなプラットフォームでは、ご検討中のソフトウェアに関する役立つレビューが多く見つかるはずです。レビュアーの属性などを確認しながら、注意深く読むようにしてください。自社と同じ業種や規模の企業からのレビューを探すことをおすすめします。